63 刑務所の様子
あ、なんかさらに上位っぽい魔物、伝説の魔物の研究資料みたいなのがある。フローズドヴィトニルってオオカミの魔物とかスリーズルグタンニとかイノシシの魔物の実在するか怪しい魔物の類い。エクリプスムーンの際に出現するかもしれない驚異として認識されているっぽいな。
過去に現われて脅かしたみたいな感じか……魔物使いもさすがに伝説級の魔物までは使役出来ないって事かね。
なんとなく日本のゲームとかで見たことある魔物なんかが結構載ってるけど知らない魔物なんかもある。
フライクーゲル
カテゴリー不明
エクリプスムーンの際に出現した災害指定種。敵味方関係なく様々な命ある者に死を振りまいた魔物。
レーヴェリガ
カテゴリー不明
エクリプスムーンの際に出現した災害指定種。数々の魔物を軍門に下し、世界を支配しかけた厄災の魔王の一体。獣神とも恐れられていた。
シルヴァバレット
カテゴリー不明
遙か過去、人類に味方しエクリプスムーンの際に出現した魔王を倒した聖獣。その姿は魔を払う銀の光線であったと語られる。
随分と描き込まれた姿をしてるけど……実際の姿か激しく怪しい。
まあ図鑑はこれくらいにして過去の腕輪の特殊武器持ちの習得したスキル辺りを確認っと……とは言っても資料自体は少なめだ。
しかもスキル名がかなり違ってあんまり参考にならなそう。
初期スキルがフライングリングって投げる攻撃スキルだったみたいだし……。
一応マジックショットもあるっぽいけど……ヒーリングサークルっぽいスキルが、リジェネイトサークルとか微妙に効果が違いそうなスキルだ。
所々は同じスキルがある分、微妙に参考に出来るのがつらい所だな。
ポータルゲートの必要素材がダマスクス鉱って代物だったり……個体差って事か?
というか腕輪の特殊武器持ちだけど魔物使いじゃないっぽいぞ。
テイミング系のスキルがファミリアカラーって名前だし……ブラックキャットって魔物の体毛が素材って所で投げた。
うん……参考にするのは無理。
ただー……チェンジリングってスキルが気になった。一時的に種族を変える事が出来るスキルってのがなんとも面白そう。
「ん……んん……うむ……」
ここでファナのうなされている声が聞こえてくる。
「……そろそろ寝ないと本気でやばいな」
かなり夜が更けて来ていた。まだ頭に入りきっていないが大分焦る気持ちが落ち着いてきたので俺はそのまま……本を閉じて腕輪に戻し、寝る事にしたのだった。
こうしてルナティックムーン前日の夜は……何事もなく静かに過ぎて行ったのだった。
『……めんなさい。ごめんなさい……私は……あなたを……助けたかった……こんなつもりじゃ……なかった』
また……変な夢だ。この謝り続ける声は……一体。
「この、夢は……ね。ファナがね。謝らなくて良いのに私に……謝り続けている夢なの」
ぼんやりと、俺の目の前にジェリームのような、浮かぶ火の玉のような何かが浮かんで説明してきた。
「お前は……?」
ふと下を見ると……ファナが漆黒の闇、ではなく暗い……血だまりの中で嘆き悲しんでいる姿があった。
声を掛けようと手を伸ばすけれどその手はすり抜けてしまう。
俺が幽霊となってしまったかのような錯覚を覚える。
「やっと、声が……届いた。あのね……私の名前は……タ――」
「ウォォォ……ン」
「行けない……まだ……拘束を振り払えて無かった」
遠くで雄叫びが聞こえたかと思うと、ギュルルルっと血だまりの血が鎌首をもたげて俺と火の玉に絡みついて締め上げて血だまりの中に引きずり込む。
ゴボボボ……っと血の池の中で息が出来ずに締め上げられて動けない。
それどころかまともにしゃべる事さえ出来ない。
「あなたの―――お陰で……私は……ここまで浮上出来た……でも――みたい。だから、ファナが守りた――思ったあなたに頼み――の。どうか……ファナを救って。私は――見抜けなかった。気づいて――なかった」
声がどんどん遠くなり、周囲が明るく……拘束が緩んで白に消えて行く。
俺はプカリと浮かび上がり、慟哭するファナからどんどん……遠く離れて行ってしまう。
「待って……ファナ……」
お前が何に悲しんでいるのか、どうしたらその悲しみから救えるのか……俺は……。
「ッ!」
文字通りパチッと目が覚めた。
「おはよう。アキヒコ夜更かしでもしてた?」
「きゅう」
飛び起きるとファナが何食わぬ……いつも通りの覇気の無い瞳で俺に聞いてきた。
「今……」
「どうしたの?」
「あれ……」
なんか、夢を見ていたような気がするんだけどパッと出てこない。
いや、何かぼんやりと思い出せるような気がするのだけど……。
だけど不思議と、ファナの事を……知れたような不思議な夢だったような……気がした。
ルナティックムーン当日。
朝食終えた俺達はその足で刑務所へと戻り、昼に差し掛かった頃に刑務所に到着した。
「それではアキヒコさん。ルリルさん。ファナさん。皆さん、ルナティックムーンで死ぬことが無いよう、健闘を祈ります」
看守たちに俺たちを預ける際、ロネットが別れに対して祈りの言葉を送ってきた。
「まあ、なんだかんだ君たちとの行動も悪くなかったよ。そっちはそっちで頑張ってね」
ルアトルは親しいのか壁があるのかよくわからない感じで出送りの言葉だ。
「はいはい。こっちも悪くなかったよ。少なくともこの一カ月で一番穏やかに過ごせたのは間違いないからな」
「きゅう」
「さようなら」
さて……久々の刑務所か……憂鬱だな。
「お前……随分と大きな魔物を連れてきやがったな」
「きゅう!」
「押しつけられたみたいなもんだよ」
驚く看守が、ロネットやレイベルクの爺さんが用意したらしき書類を見せられて眉を寄せながら聞いてきた。
「ルリル、俺が良いって言うまで大人しくしてるんだぞ。ルナティックムーンの時には会えるらしいから」
出来れば俺の独房にルリルは来てほしくない。
一応ルリルの体躯でも通路には入れるくらいの広さはあるけどな。
壺……出かける前に処理してたっけ。まずは壺の処理をしなくては行けない。
腕輪に入れれば良いのか? なんか嫌だな。
ゴミを入れるのは嫌悪感があるってこの世界の連中の感覚が分かる気がした。
そんな訳で俺たちは久しぶりに自身の独房へと出戻った。
さて……ルナティックムーン当日の刑務所って普段とどう違うのかね。
なんて思って牢屋の中で待機していると、囚人も看守もピリピリした空気を纏いつつ日課となっている拷問などはなく、待機だけをさせられた。




