58 悪評
「……どこに行けば良いわけ?」
「聞き入れてくれて助かるよ。そんな訳だからアキヒコ、ロネットと待っていてくれない?」
「一緒に行かなくて良いのか?」
「……むしろ来ないでほしいわ」
明確な拒絶に似た言葉がファナの口から放たれる。
が、ルアトルはそんなファナにニヤニヤとした顔をしているようだ。
「そんな気にすることなのかい?」
「アキヒコには悪いけど、嫌なのよ。悪いけど今回はあなたの皮肉に応じないわよ。私はね……わからないアイツらが許せないのよ……」
そう言ってファナはスタスタと、足かせの鉄球を手で持ってギルドの外へと行ってしまった。
「じゃあ行ってくるよ。後で合流だね」
ルアトルも後に続く。
……俺は蚊帳の外でルアトルと一緒に行くのか……なんか疎外感。
やっぱり思うけど、俺はファナの事、何にも知らないんだよな。
「きゅうう」
ルリルが無意味に絡んで来る。
お前は俺への執着を程々にしろ。
なんて感じでポツンとじゃれるルリルを相手にしているとロネットが……レイベルクの爺さんと一緒にやってきた。
「ほっほっほ、あれからそんなに時間が経っていないのじゃが随分と活躍しておるようじゃな」
「活躍って呼ぶほどか? ってインテリジェンスウェポンの買い取りに魔物使いギルドの者と交渉するって話だったがアンタだったのか」
「間違い無いのう。ただ、正式な取引なのでな。ギルドの一室での交渉を挟まねばならんから君も来てくれるかの?」
「ロネットだけで良いだろうに」
「ついでに君に差し入れ等もある。それと……」
レイベルグの爺さんがルリルの方に顔を向ける。
「ルリルくん、ちょっと君にお願いしたい件があってね」
「きゅ?」
「牧場で君の蜜を求める子達が騒ぎ出してね」
レイベルグの爺さんの台詞にルリルが眉を寄せ始める。
「きゅうう……」
「じゃから君の蜜を持ち帰らないと行けないのじゃが良いかの?」
ルリルが俺の方に顔を向けた。
「牧場ではこの子は随分と慕われていてね。蜜を主食にしている子達はこの子の命令には逆らえないほどなんじゃよ。脱走幇助もしてのう。ほっほっほ」
笑える問題な訳?
ルリル、やっぱりお前、レイベルクの爺さんの所でそれなりに仲間が出来て幸せだったんじゃないか。
「このままじゃとあの子達が逃げ出して君を追いかけてくるじゃろうが、彼があの子達を受け入れてくれるかの?」
って露骨に俺をネタにルリルを脅すなよ。まあ、確かに新しい魔物なんて面倒見る余裕は俺には無いけどな。
「きゅう……」
ルリルはため息をして頷いた。
「今回は多めに蜜を作ってくれんか。こちらのギルドの者にも命じておる」
そこでなんかレイベルクの爺さんの呼びかけにギルド職員とは異なる奴らがルリルに近づく。
魔物使いギルドの連中だったか? 俺とは同職業なのかね。
俺を汚物を見るような目で見てきやがる。
「アキヒコくん、そんな訳じゃからこの子から蜜を頂いて良いかの? もちろん、相応の代金を支払わせて貰うがの」
「物品だったか」
「ほっほっほ」
肯定とばかりに頷かれる。
「少々時間が掛かるのでの、分かってくれたかの?」
「はいはい。んじゃルリル。ちょっとロネットと一緒に交渉に参加してくるから大人しくしてろよ」
「きゅう! きゅううう!」
ルリルは少しばかり抵抗したけど職員に連れられて行った。採取用に馬小屋で作業を行うらしい。
「ではこちらじゃ」
と、レイベルクの案内で俺達はギルドの奥へと案内された。
その途中で……ギルド内の上位の職員の女性、名札の所の星が多いから多分、上位なんだろう。
に、丁寧に案内されている冒険者とすれ違う。
リーダーらしき奴は4人も女を連れた男の冒険者だ。
年齢は18歳前後くらいかな?
紺色の髪色をした男で目つきがなんか不快だ。
なんとなく仲良く出来ない人種だと一目で判断出来る。
「ん?」
「どうしました?」
「いや、あいつ……」
「ああ、アレは囚人ですね。冒険者に雇用されて働いているのでしょう」
じろじろと何こっち見てんだよ。気色悪い。
「へー! 囚人か! 一体どんな罪で捕まったんだろうな」
でかい声で聞いてるんじゃねえよ! 少しは空気を読め!
「私覚えてますぅ! あいつは私の村を魔物のボスを配下のジェリームに乗っ取らせて村を壊滅させようとした犯罪者ですよぉ!」
って声がして振り返って確認するとライムに冤罪を被せられる時に宿泊していた村の娘であるリレイアがそこで猫撫で声で冒険者の男にペラペラしゃべっていた。
「あいつが村に魔物を引き連れて乗り込んで来た時に、ギム様が颯爽と魔物を倒してくださったんじゃないですかぁ」
「ああ、あの時のクズ魔物使いだったのか! 囚人としてこき使われザマァって奴だな!」
「そうですね! あはははは!」
うっぜぇ……チェイスウルフに襲われて助けを求めていた癖に今は俺を指さして笑うか。
「こんな所に居やがるが今度こそ悪さをしたら殺してやらなきゃ行けないな!」
「ですね! 全く、刑務所から出て奉仕作業をしているのでしょうけど、いつ正体を現すか分かったもんじゃないわ!」
「魔物を使って悪さをするなんて魔物使いの風上にも置けない奴ね!」
「ピギー!」
さらに取り巻きの女の中に……ジェリームを抱えて居る女がいた。
「あいつ、ジェリームを引き連れていたのよ。しかも魔物が裏切ったんだとか嘘を叫んでて反吐が出たわ」
「ならますます許せないわ! 魔物ってのはね! 善良な存在なの! 特にジェリームは至高、魔物が裏切るのは主人がクズだからに他ならないわ! 完全に自業自得の犯罪者ね! 早く死ねば良いのに!」
うっぜー! 本気でウザくて問答無用でマジックショットでヘッドショットしてやりたくなる。
何も事情を知らない癖に偉そうにぶっ放してんじゃねえぞ。
ライムの野郎がどんだけわがままで俺の手を焼かせたのか分かってんのか?
希少な魔物を仕留めた際に手に入った代物とか殆どあいつにやったんだぞ。俺が作戦を考えなきゃそのままやられていた時もあるし、できる限りの願いは叶えてきた。
その代価とする見返りを俺に渡すこと無く抱え込んだままな! ルリルを連れて居るだけでどんだけスキルを覚えたのか分かったもんじゃない。
ライムの野郎は欲張りの身勝手な嘘つきだってのがもう分かってんだよ。
仕舞いには勝手に動き回るはしつけをしても聞きもしないわ、挙げ句罪を被せてとんずらしやがったんだ!
絶対にぶち殺してやると心に誓ってんだ。
真実が明らかになった時にお前の事を覚えているから覚悟しておけよ!
何が自業自得だ。お前が死ね!
「あいつを連れてたプリーストの子。美人だな。サンドイッチとか作るの上手そうだ。俺の専属にでもしてやろうかな」
挙げ句ロネットの値踏みまでして身勝手な事を……反吐が出る!
「もうギム様ったら! あんな女が気になるんですかぁ?」
「ははは、焼き餅かい? みんなで一緒に楽しい冒険者生活をしていこうぜ!」
「キャー!」
ウザいって言葉しか出ない連中だ。身の程をわきまえず強力な魔物にでも挑んで死ね!
なんて思いながら奴らを無視して俺達はそのままギルドの奥へ行き、交渉の席に座った。
ウザい奴だったな。本気で。
「アキヒコさん」
「……先ほどの彼はの、ここ最近、国の各地で様々な依頼を達成して絶賛人気急上昇中の冒険者ギム=レノックスと名乗る者じゃな」
レイベルクの爺さんがぽつりと呟くように言った。




