57 魔剣
「では急いで報告に行ってきますね」
ロネットがルアトルと一緒にマジックソニックソードをギルドへと預けに行く。
夜間だって言うのに職員はいるんだな。
夜勤の仕事……ブラックな職場なんだろうか? とは思ったけどここの連中って俺とクソ聖女が戦って俺が追い詰めた所で加勢しやがったから全く心配する必要無かった。
ロネットが受付で事情を説明しているとぞろぞろと職員が集まってきて確認しながら驚きの声を上げている。
随分と集まってるな。野次馬が多い職場か……管理が杜撰だな。
「フフフ……ハァアアア――ヘグっ!」
チャキっとマジックソニックソードを握った職員の目の色が変わり妙な笑い声を出した所でゴスッと他の職員に叩かれて失神している。
何やってんだ?
なんて思っていたら厳重な金属製らしき箱が運び込まれてマジックソニックソードがその箱の中に入れられて運ばれていった。
ロネットが何やら俺を指さしながら職員に事情を説明した後、こっちにやってきた。
「依頼の報酬よりも遙かに高額の報酬が貰えそうです。後日、話をすることになりました」
「一攫千金だね! アキヒコって本人の運はものすごく悪いけどこっちは大もうけさせて貰ってるよ!」
「一言余計だ! しかし、インテリジェンスウェポンってそんなに高く売れるんだな」
「あの剣を握ってアキヒコさん、変な事にはなりませんでした? 先ほどギルド職員の方が調べる為に握った所で意識を乗っ取られ掛けたのですが」
「ああ、妙な笑い方してるなって思ったけど乗っ取られかけてたのか。危険だし、へし折った方が早いんじゃ無いか?」
物騒な武器だな。
「剣に意識を乗っ取られるって意思が弱いってことじゃないの?」
「おや? 君が言うのかな? バーサーカーリープッドさん」
「超音波で戦闘不能になっていたどこかの誰かよりは意思があるわよー」
ってまたも笑顔で皮肉の応酬を始めるなお前ら……。
「何もおかしい所は無いようですね」
ロネットが出会った頃にやった何かの魔法を俺に施す。ステータス解析の魔法なんだろうな。
「不思議な位、手に吸い付く剣だなって思ったくらいだな」
ルリルに押さえ込んで貰うために投げたら変な声が聞こえた気がしたけど。
「きゅうううう」
ルリルが毛を逆立たせて声を上げている。どうした? 荒ぶってるな。
「詳しく聞いた所、魔物使いギルドが買い取るそうですから……魔物使いからすると何かあるのではないかと」
「へー……なんで魔物使い?」
「さあ……明日、関係者が来て正式に話をして下さるそうです」
育てれば確か強くなりそうだけど……まあ、俺からしたらどうでもいい話か。
夜も大分更けてるもんなー……確かに希少な取引なら後でって事になるか。
「それじゃあ夜も遅いけどアキヒコ、あの村に泊めて貰おうか」
「町に来たのにか?」
「一度戻ると言ってしまいましたからね……」
まあ……ルリルを連れた状態で泊まるならあっちの方が良いか、頼めば無下にはしないだろうし。
ギルドに生け捕りで持って行けば高額買い取りなんて代物があったら町に行くのもしょうがないよなぁ。
「あなたたち、短い間にアキヒコに頼りっぱなしになってきたわね」
「そ、そうですね」
「移動スキルが、便利すぎるのさ」
開き直るなよ……俺も使えるようになったからにはよく使用するけどさ。
「……後で得た金銭で移動費をアキヒコさんに還元ですね」
「はいはい。期待しないでおくよ」
「きゅー」
って事でクールタイムが過ぎたのを確認した後、俺達は村の方へ飛ぶ。
村の方は完全に平和になり夜の襲撃も無く、穏やかな夜を過ごしていたのを確認出来た。
村の人たちの残り物って感じでジビエ料理を夜食にたらふく食べさせて貰い、就寝したのだった。
翌日
「今日は昨日の買い取り取引の続きをした後、何か仕事をするのか?」
朝食を食べた後、俺はロネットに訪ねる。
「いえ、これだけ依頼を達成して金銭を稼げたのでお休みをしようかと思っています」
「単純な稼ぎだけで言ったらしばらく遊べるくらいには稼げてるね。アキヒコのお陰だよ」
そりゃあ良かった雇用主が満足して何より。
「アキヒコさんを強化出来そうな品々を見繕う予定です」
「ああそう。俺はどこかで魔物退治でもしてLv上げをしたいな」
俺としては特に拷問とか無く平和に魔物共を仕留めてLvを上げた後、枕を高くして寝たい。
さらには出来ればファナの毛並みを整えるとかしているとゆっくりした気持ちになれるような気がする。
「アキヒコ最近、私の近くによく来るわね。見てくるし」
「そうか?」
無意識に追っていたのだろうか?
「そんなつもりは無かったが、自重しよう」
「……」
なんで黙って俺を凝視してるんだろうな? 猫のそれにしか見えない。
「きゅう! きゅう!」
そこで私ですよ! ほら、もっと構ってくださいとばかりにルリルが俺とファナの間に頭をねじ込んで来る。
「お前も自重しろ!」
どんだけ俺に絡むのが好きなんだお前は!
「きゅーん!」
押しのける俺の手をうれしそうに受けるルリル。お前は本当、何があったらそんな性格になるんだよ。
「アキヒコさんのリクエストもありますので……近場で良さそうな魔物がいないかついでに見繕いましょうか」
「そうしてくれると助かるな」
「ルリルさんとアキヒコさんの連携を練習して貰った方が良いでしょうし」
なんでそこで俺とルリルの連携の練習を要求されるんだろうな。
ただ……ルリルの背中に乗って、マジックショットを撃ってるだけってのも何か間違っているような気がするけどな。
「魔弾の射手を検証する必要もありそうだしな……」
スキルに関してロネット達じゃ把握仕切れないのは分かっている。
今のところ分かっているのは魔弾の射手は命中精度を大幅に引き上げるスキルで7発目はルリルが放って当てる。
7発目の威力が高いオート発動のスキルって認識だ。
これの発動までの猶予時間なんかの検証はしておいても良いだろう。
「ではそろそろ行きましょうか」
「あいよ」
っとポータルゲートで村から町へと向かう。
「本当便利だなー刑務所にアキヒコを返した後、雇用費が跳ね上がりそうだよね。引く手数多になるだろうし」
「むしろ刑務所の方々がアキヒコさんを酷使しそうですね……」
「そうね。酷使されるのは間違い無いわね」
なんか怖い話をしないでくれないか?
どんだけ移動スキル持ちが重宝されてるわけ?
ロネットの雇用期限である次のルナティックムーンの後が怖くなってきた。
出来ればこのまま継続して雇用してほしい。特に問題ない範囲で。
刑務所から許可が下りなかったとか無いように。
「……今回の稼ぎで次も俺を雇用できるようにしておいてくれ」
「善処します」
刑務所の奴らが俺を酷使しないようにしたいけど……所持スキルが筒抜けだろうからバレバレなんだろうな。
「きゅうう!」
そんな事させません! ってルリルが鳴いてるけどお前が暴れると俺の立場が悪くなるので程々にしてくれ。
で、町のギルドに入ってロネット達が受付で話をしている。
するとルアトルがロネットから離れて俺達の方にやってくる。
「ファナ、ちょっとご指名」
このやりとり、なんか覚えがあるな。
「また? この前みたいな事があったら嫌なんだけど?」
「今度の相手は……君がよく知ってる二人」
ルアトルの台詞にファナが刑務所内で面会があった際にしている非常に渋い顔をする。
「お断り」
「そうも言ってられない感じだね。あんまり拒否するとより一層面倒になるんじゃないのかい?」
ルアトルの台詞にファナは深くため息を吐いた。