52 ジビエ料理
「きゅ!」
毛が乾いたルリルは子供たちを背に乗せてゆっくりと歩いて見せたりする。
割とサービス精神旺盛なんだな。
「わーすごいすごい!」
「すげー! 馬とは違うー」
子供たちのテンションが高い。
「コラ! そのウサギは俺たちを助けてくれた魔物なんだぞ。大事にするんだ。本当、すみません」
気にするなと俺は手で合図を送る。
ここは市中引き回しで寄らなかった所だしな。嫌いな異世界の連中だけど大目に見よう。
「ふわぁ……」
ファナが眠そうにしている。
「そろそろお昼にしましょうか」
「了解。今日の昼飯は何かな」
「みんなで大量にアサシンアナグマを倒しましたからね。村の名物料理を披露してくださるそうですよ」
ほう……っと感心していると炊き出しをしていた村人が俺達を手招きして料理をごちそうしてくれた。
「あなたたちが来てくれたお陰で一晩で村の状況はすごく良くなった。是非食べて行ってくれ」
ま、俺とファナは囚人枠なんであとで食べ残しでも貰うのが定番なんだろうと思ったら村人たちが傍観している俺とファナを招いてくる。
「色々と一番助けになったのはアンタたちだ、遠慮しないで良いから腹一杯食ってくれ、じゃないと悪いから」
「はぁ……」
そんな訳で取り皿に大量の……ジビエ肉とスープを出された。
どんな味かと思って一口食べてみると、想像より美味しい。
臭みも殆ど無くて脂身も上々……牛とも豚とも違う味わいが口の中に広がる。
若干固い肉質だけど悪くないし、脂身もほどよく……かなり美味しい方なのでは無いだろうか?
スープというかビーフシチューっぽい料理もすごく美味い。
ここまで贅沢な料理は久しぶりで想像以上に夢中で食べてしまう。
「まだまだあるから食ってくれよー」
と、わんこそばじゃないんだぞって位出される肉料理。そりゃああれだけ倒せば在庫は尽きないよなぁ。
「ごちそうさま。もう腹一杯だ。俺達にも出してくれて感謝する」
「良いって事だよ」
とにかく、さっきの不快な出来事は忘れることにして中々良い食事をする事が出来た。
なんとも穏やかな気分だ。
「きゅ」
ちなみにルリルは干し草をむしゃむしゃ食べていたし、子供たちがどこからか持ってきた野菜を差し出されて食べていた。
「これは礼だ。あそこの子供たちにでも上げてくれ」
礼としてルリルのヒールシロップを料理をしてくれている人に渡しておく。
「え……こんなにも良い代物を?」
「十分な礼は貰ったからさ」
……実のところ、ルリルのヒールシロップを口に入れるのはちょっと遠慮したくなっているのでちょうど良い。
レイベルクの爺さんが提案した姑息な事をさせて貰おう。
「そんな……」
料理人の方は困っていたけど子供たちにと言うことで断れない。
「さてと」
立ち上がってロネットたちの視界の範囲で腰掛けて休む。
「ごちそうさまでした」
ファナも食事を終えて俺の隣で横になって丸まっている。
はあ……満腹で至福の時だ。せめて次の仕事をするまではこうしてゆっくりとしていよう。
ついでに寝ているファナの毛並みを整える。本当……こいつ、適当にしているからなー。
ただ、汚れているようで意外と毛並みは不思議と整っているのが謎だ。
なんて思いながらファナの背中を見ているとブチィ! っと毛が引きちぎれた。
な、なんだ?
次の瞬間じんわりと出血したかと思ったけどすぐに何事も無いかのように塞がり、毛が元に戻っている。
「ああ、あんまり気にしないで」
いや、気にするなって言われても……とは思うのだけど。
「なんか職業的な代物なのか?」
「んー……生まれつきの体質って思って、それだけ」
ああ、そう。で済ませて良いのか?
とは思うけどファナの顔はそれ以上の質問はしないでほしいって風に見えたので黙ることにした。
なんて言うか……謎が多いよな。
ファナに関する好奇心がどんどんと増えてくる。
あまり知られたくないみたいだけど……好奇心は猫を殺すって言葉があったっけ。
いずれ、知る機会が訪れるかもしれない。
なんて思いながら俺は寝転ぶファナの毛並みを整える事にする。
「きゅう!」
ここでルリルが子供たちと遊び終わったのか俺の所にやってきて俺とファナを抱え込むように丸く座る。
なんだその態度? 確かに気候としては少し肌寒い時期だけど日差しは悪くないから日の高い内だと暑く感じるぞ。
「ふふ……アキヒコさん。温かそうですね。ファナさんにルリルさんに囲まれて」
「だね。それくらいガードを固めないと何が起こるかわからないもんね」
やかましいわい。
ともかく、そんな感じで食後の休憩時間は過ぎていった。
「調査も一区切り着いたし、僕たちは次の依頼に向けて移動しようか」
食後1時間ほど経過した頃、ルアトルがそう告げたので俺達の休憩時間は終わった。
「もう次の依頼か」
どれだけ立て続けに仕事があるんだろうな。
「正確には今のうちに移動して夜に行う依頼です。この村からも行ける山間にある洋館で出現する亡霊退治の依頼です」
「ロネット向けの依頼だね」
「そうですね。ターンアンデッド等の神聖魔法が効果的な依頼でしょうか」
「なんで夜間限定な訳?」
「それがその洋館では本来、アンデッドは出現しないはずなんですが夜間になると出てくるそうで……しかもどんな攻撃も全く効果が無く、冒険者を含めたいろんな方々が困っているとの話です」
根本的に洋館ってそこにどんな需要があって困ってるんだろうか?
「人が住んでいない洋館って事?」
「いえ、前は人が住んでいたのですが夜な夜な出現する亡霊に困り果てて退避しているそうです」
ああ、元々人が住んでいる場所な訳ね。
「上手く達成出来るかわかりませんが周辺に出没する魔物も討伐依頼があったので良いかと思っています」
「良いんじゃ無いか?」
なんだかんだLvが上がってこっちも悪くは無い状態だ。
村中のLvから考えて俺のLvの低さに泣けるけど。
「それじゃ早速行こうか」
「きゅう」
と、出発しようとした所で村人が声を掛けてくる。
「おや? もう行くのか」
「ええ、もう一度立ち寄らせて貰いますが本日は次の場所へと行こうかと思っています」
「仕事が終わったらアキヒコに頼んでまた寄らせて貰うのも良いね」
「アキヒコ便利よね」
ルアトルとファナがなんか言ってる。
移動スキルがあると野宿とかしなくて良いもんな。
捕まる前は俺もやっていた手だしわからなくも無い。
「そうか、ならそこの魔物使いの囚人さ」
村人の数人が俺へと揃って顔を向けた。
なんだ? 俺へ妙な因縁でもつけようってのか?
等と警戒していると、カンカンと鍛冶場らしき所からハンマー片手にやってきた奴が俺に向けてなんか包みを差し出してきた。
「ルアトルさんが端材でも武器に出来るからついでにどうだって言われて急いで作ったんだ。受け取ってくれ」
「お、おう……?」
包みを開いて中を確認する。
するとそこにあったのは青く透明な……鼈甲みたいな素材の腕輪だった。
「これは?」
「みんなで倒したル・カルコルの甲羅の一部で作った代物だ。けが人の手当に始まり、アナグマたちの襲撃、ル・カルコルの早期討伐の立役者であるアンタにみんな礼がしたくてさ」
「飯は十分食わせて貰ったぞ」
「そのお返しにあんな上等なヒールシロップを貰ったら借りが返せないだろ」
なんか村人に言い返されてしまった。
ルリルのシロップの効果すごいな。