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50 ニートの転職


「どうだ! 貴様のショボい腕輪なんかよりも遙かに力強い強力な剣だろう? 見てわからんか!」


 ああ、精製武器が出せるようになったから自慢に来た訳ね。

 態々俺に言いに来るとかコイツ等も暇なんだな。


「あぁ……ノリスケ様素晴らしいです。その聖剣が来たるべき時に力を解放し、人々を救うのですわ!」


 マリーゼは村中の波打った曲がった剣を見て恍惚の表情を浮かべている。


「ポンコツニートは甘やかさず、もっと試練を与えて剣を鍛えないと伝説の再来は遠いんじゃないか?」

「キィイイイ! 何を言ってんのよこの犯罪者は!」

「なんだその態度は! 貴様! 俺の立場をわかってんのか!」


 はぁ……一体どこからこんな偉そうな自信が沸いてくるのかね。

 一昨日ファナに張り手されて一発KOしたとか言ってなかったか?

 ああ、こういうタイプは都合の悪い事は無かった事になるんだったな。


「神妙に捕らえてくれる!」

「ノリスケ様のお力ならばこのような犯罪者など容易く捕らえられますわ!」

「そうだぞ! これまでの激しい旅で俺は強くなったんだぞ! 聞いて驚け! 俺のLvは86だ!」


 うわ……なんだかんだLvだけは随分と高いんだな。


「んじゃそのLvって事は転職済みか。さぞ立派な勇者に転職出来たんだろうな」

「ふ、ふん! 当然だろうが!」


 ん? この反応、勇者って奴にはなれていなさそうだな。

 どうなんだ? 聖女様よぉ?

 って視線を送るとマリーゼは眉を上げて睨んで来た。


「来たるべき時にノリスケ様は覚醒なさるのよ! 大器晩成なのよ」


 という事はまだなのね。


「ポンコツニートが引きこもりとかスネカジリとかロクデナシにでもなったか?」

「海山! 貴様ぁああああ!」


 図星だったのか村中が刃物を振り上げて俺に向かって走ってくる。

 Lv86にしては随分とお粗末な歩調だな。

 Lv20の俺でも見切れるぞ。


「アキヒコさーん、準備が――ってマリーゼ! あなた何をしてるのよ!」


 ロネットがやっとの事やって来て声を上げる。

 今回は大丈夫みたいだ。

 が、マリーゼはフフンと鼻を鳴らしてなんか羊皮紙を広げた。


「私だけの権力じゃないわよ。ほら見なさい。ノリスケ様には国が認めた正式な権利があるの! 今私たちが、この身の程知らずの囚人に正式に決闘を命じたのよ!」

「アキヒコさん! 急いで逃げてください!」

「いや……逃げろって言ってもさ」

「はぁああああ!」


 太った中年男性が剣を振り上げて駆けてくるんだけど、なんて言うか遅い。

 俺は村中の剣を持つ手に腕輪を向けてバシュッとマジックショットを放つ。

 もちろんウサギ型の魔弾な。


「ぐわぁああ!? 痛い! 海山! きさまぁああああ!」


 魔弾は狙い通り村中の手にクリーンヒットし、村中の持っていた剣は弾き飛ばされて地面に落ちる。


「この俺に刃向かったな! 国に命じて貴様に身の程をたたき込んでやるぞ! うおおおお!」


 剣を拾い直して村中が俺に向けて剣で刺そうとしてくるが……。


「きゅううう!」

「待てルリル」


 パチッと目を覚ましたルリルが立ち上がり俺を守るように前に出て村中に体当たりをしようとしたので制止させる。


「キュウ!」


 抗議の目線を向けるルリルがよそ見をしながら村中に片手を突き出して押し倒した。


「ぐわ! なんだこいつ! どこから現われた!」

「キャアアアアアアアアアアアアアア! ノリスケさまぁああああ!」

「お前らが俺に声をかける前から居たぞ」

「そんな馬鹿な! 海山! お前は馬車の洗車をしていたんじゃなかったのか!」


 ああ、ルリルが寝息を立てていたから泡まみれの馬車だと思ってたって事?

 いやいや……幾ら巨体だからって限度があるだろ。

 まあ泡まみれだったからわからなかったのかもしれないが……。


「ルリルの方も洗って居るのに熟睡するなよ」


 村中の反応としてどうやらルリルは眼中に無かったっぽい。


「きゅ、きゅー」


 恥ずかしいとばかりにルリルは頭を掻いた、そういう所は人間らしい態度だよな。

 テイムの影響なんだろうとは思う。


「海山! なんなんだその化け物は!」

「なんだって……」


 あーもう言いたくないな。

 魔物使いだから魔物だって言うのがどうにも言いたくない。

 どう答えるのが良いか……ってこう言えば良いか。


「何って武器だが? ほら、ここに俺の武器である腕輪をつけてるだろ。これが俺の武器だ」

「きゅう!」


 ルリルが誇らしげに鳴いて応じる。

 お前はどんな言い方をしても喜びそうだな。

 ここ二日で学んだ。


「そんで勇者様、決闘でしたっけ? やります?」

「く……調子に乗るな! そんなもの武器と認められるか!」

「生憎と俺の武器はこいつ何でね。アンタの理屈と俺の理屈が合わないだけだ」

「きゅ!」


 魔物使いの爺さんが言っていた位だ。

 この言い訳で通るだろう。


「屁理屈を……どれだけ力があったとしてもな! 上の者に逆らったら無意味なんだぞ! 貴様にふさわしい罰を下してやる!」

「いや……お前らが勝手に絡んで来たんじゃないか。捕らえるとかなんか言いながらさ」

「マリーゼ! それとムラナカ様でしたっけ? 誠に申し訳ありませんがあなたたちの言い分を通す前に彼は私が管理しております。此度の暴挙に関してこれ以上騒ぐのでしたら相応に通報いたしますがそれでよろしいですか?」


 ロネットが間に入り、村中とクソ聖女へと忠告をする。

 これで引き下がれば良いんだがな。


「ならん! こいつの魔物が今、俺を突き飛ばしたんだぞ!」

「特に暴れる様子の無い囚人に理不尽な暴行をしようとしたのを私たちは見ております。正当な防衛だと判断いたします」


 村中の怒声にロネットは淡々と答える。


「きゅうううう」


 ルリルが鋭い眼光を村中に向ける。


「う……」


 仮にここで村中が正式に決闘として勝負、となると武器と俺が言ったルリルは許可される事になる。

 ルリルを除外して俺との決闘……なんてする場合にしてもルリルは命令には従うか……怪しいな。


「先日の件での問題から日が浅い状況……それ以上の騒ぎはお二人の立場が危うくなるかと思いますよ」


 ロネットの皮肉交じりの言葉に村中は顔を真っ赤にして背を向けて歩き出した。


「海山! 絶対に貴様に裁きを下してやる! 覚えていろ!」

「ノ、ノリスケ様! この屈辱、絶対に忘れないわよ!」


 クソ聖女は立ち去る村中を追いかけながら捨て台詞を吐いて行った。

 まったく……何なんだあいつらは。


「あいつら俺の周囲に人が居ないタイミングでも狙って見張ってやがったのか?」


 本当、狙い澄ましたようなタイミングで絡んで来やがったよな。

 ただ……ルリルが居るのを知らなかったんだからそれは無いか。


「舌の根も乾かないうちに……嘆かわしい限りです。アキヒコさん、申し訳ありません」

「いやいや……ロネットも手続きをしている最中だったしルリルを洗うって人が居ない所に行った俺も隙があったって事だろうさ」


 だからといって態々俺に絡んで来たあいつもどうなんだ? とは思うけどな。


「そう言ってもらえると幸いです。こんな目と鼻の先でも絡んで来るなんて……はぁ」

「ファナが言ってた不運ってのを否定出来なくなってきたな」

「そ、そうですね……」


 俺の嘆きにロネットが口を抑えて小さく笑った。

 おい。笑うなよ。地味に気にしてんだぞ。


「とにかく、ルリル、そろそろ泡を洗い流すぞー」

「きゅうう」


 井戸から汲んだ水をルリルに掛けて何度も洗い流す。


「ロネットの方はポータルゲートだったな。そこに展開するんで連れて行きたい相手を通しておいてくれ」

「はい。ありがとうございます」


 ポータルゲートを展開させて村への道を開いておく。

 やがてルリルを洗うことを終えた。

 ロネットはそんなルリルを洗う俺を少し離れた所で微笑んで見ていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] レベルの割に強くなさそう??
[一言] ポンコツニートレイパーとかだめな方な職業が追加されていっていそう
[一言] ポンコツニートより酷い職業ってなんだろう、気になる ホームレスとかかな?
感想一覧
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