05 自己確認
「この脅威に関してなのですが……闇の軍勢というここ数百年で最も脅威となる者たちが現れることが既に判明しており、多大な被害が出ることが分かっているのが現状です」
「闇の軍勢……」
「はい。皆様はここに来る道中で空を見たでしょうか?」
言われて思い出す。
空には複数の月があるようだった。
「この世界では三つの月が存在しており、今年はここ数百年で最悪の年なのです」
マリーゼさんの話ではこうだ。
この世界の月は複数あり、それぞれ満ち欠けしているとの話なのだ。
そしてこの世界では満月の時は魔物や災害の脅威で溢れる時間となる……と言う話だ。
で、この月の一つの満ち欠けがとてもゆっくりとしたものだそうで、現在、満月となっているとの話で魔物が活発化しているそうだ
そしてこの月は満月になる数が増えるごとに災害の脅威度が増す。
人々はこの災害をルナティックムーンと呼ぶそうだ。
「……何となくですが、もしかして三つの月が同時に満月になる時が今年にある……と言う事ですか?」
俺の問いにマリーゼさんは頷いた。
「はい。この三つの月が同時に満月になった際、ルナティックムーンの中でも最も脅威となる災害……太陽さえも月の影に収めたエクリプスムーンとなり闇の軍勢を支配せし魔王が降臨すると語られているのです」
過去にそんな出来事が伝説となって語られているとマリーゼさんは告げる。
未曽有の大災害が差し迫っているって事か……嫌な話の流れだ。
「魔王降臨……ですか」
「はい。そうなった際、エクリプスムーンが終わった後であろうとその魔王を倒すまで災害は終わりを見せないと伝説には語られています」
おおう。なんとも……危険だとは思うけどちょっと胸が躍るね。
まるでゲームみたいなシチュエーション。
巻き込まれているから素直に楽しむ なんてできないけどさ。
「そんな危険な場所に俺達は来ているのか! 安全な場所は無いのか!」
村中がここで大声で騒ぐ。
ああ、命の危機に関しては理解したわけね。
「ありません。私たちもその最悪の時を生き残れるかわかっていないのが現状です」
マリーゼさんは無慈悲に答える。
「なんて危険な所なんだここは! どうにかしろ!」
ここでも他力本願なのか村中は……自分たちさえも生き残れるかわからないって話なのに俺達を助けるなんて余裕がこの世界の人たちにはあるのか?
「申し訳ありません。何分、私たちもこれから起こる災害に備えている段階でありまして……」
どうにかしたいって気持ちは分かった。
「その被害を抑えるために私共はこうして皆様を歓迎しているのです」
「それってつまりー……俺たちにも戦って欲しいという事で?」
「なんでそんな事をしなくてはいけないんだ! お前たちの問題だろ! 俺は断固としてやらんぞ!」
村中の奴、しっかり話を聞けよ。どうしてこうも我がままなんだ。
ただ、村中の言う事もわからない訳じゃない。
事故だったとしてこんな所に来てしまって戦えなんて強制されても戦いなんてしたくないってのが普通の考えだ。
しかも見ていただけだが魔物との戦闘ってのを俺達は知っている訳で、アレを俺たちが出来るなんて思えない。
「戦いたくないという胸中は察することができます。ですがここは……」
「村中課長、かといってここで拒否をしてもその未曽有の災害に見舞われて逃げることもできない。せめて護身術くらいは身に付けないと死ぬって事なんだと思いますよ」
「ぐぬぬ……海山、さっきから俺に対してなんだその態度は! 日本に帰った時にどうなるか貴様はわかっているのか!」
うわ……こんな状況で村中の奴、まだそんな事を言ってるのかよ。
もう少し状況を理解する事を意識すべきなんじゃないのか?
「そもそもそんな危険な魔物がいるって言うのに海山! お前はまだそんな奴を連れてるのか!」
「ピー……」
村中の声にジェリームが怯えて俺の後ろに隠れてしまった。
はぁ……もう顔色を伺う意味はないか。
「あのですね。ここは日本でもなく、帰る方法も見つかってない。つまり帰れるまでどれだけ時間が掛かるかわからないんですよ? そんな長い事行方知れずの俺達が日本に帰って元の役職に戻って仕事が出来るとでも?」
怯えるジェリームを抱え上げて、なだめるように撫でる。
「ピー……」
おおう。かわいいなー。
俺に懐いているからなんだけどさ。
「は? 海山貴様! 何だその態度は!」
「ここはもう日本じゃない。アンタに従わなきゃいけない理由も無く、ただ同郷の仲間って事でしかないんですよ。良いから話を聞かないと死ぬようなもんなんですから、ギャーギャー喚かず聞くのが良いんですよ。もう俺もアンタも1から国の助力を得ないといけないんですから」
「この……礼儀知らずの愚か者がぁああああ!」
カンカンに顔を真っ赤にさせた村中が俺に向かって殴りかかろうとした所でこの世界の人々が村中を取り押さえてなだめ始める。
「海山! 何があろうと貴様を解雇してやる!」
まだそんな事を言ってるのかよ……はいはい。好きに俺を解雇でもしてろ。
もしも日本に戻れたとしてちょうどいい機会だから転職してやる。
「……お怒りを鎮めて話に耳を傾けてください。災害を恐ろしいと感じるかもしれませんが、私たちには対抗する術を持っています。それは異世界の皆様の方がより強力な力を宿しているのです」
「強力な力? それって俺達もここに来る道中で見たような戦いが出来るようになるという事ですか?」
村中も、職場のみんなもマリーゼさんの言葉に耳を傾けて尋ねる。
「まず皆様、胸に手を当てて引っ張るように前に出してみてください」
「何故そんな事をしなくてはいかんのだ」
この天邪鬼は何にしても噛みつく奴だな。こういう時に本質が現れると言うが思い通りにならなくてイライラしてるのがわかるぞ。
無視無視……マリーゼさんの言う通りに俺を含めた職場のみんな、胸に手を当てて引っ張るように前に手を出す。
するとフッと俺の目の前に……ウィンドウが飛び出した!
海山明彦
職業 魔物使い Lv1
装備 特殊武器 腕輪
異世界の服
スキル テイミング
魔法 無し
種族スキル 連携
他にも細かいステータスが表示されているんだけどなんだこれ!?
いや、ゲームとかにやっていたから知らない訳じゃないから何となくわかるんだけど、もしかしてこれってステータスウィンドウって奴か?
「これは……」
「なんと……」
職場の皆が声を失って項目を凝視している。
そんな中でみんなが驚いているのに釣られて村中も同じように胸に手を当てて引っ張ってステータスを閲覧し始めた。
「なんだこれは!? どういう原理でこんな事が起こっているんだ!」
「これはこの世界にいるすべての命が自身の力を把握することができる自身への魔法と言われています。過去から伝う話ではステータスと言われる項目を確認できるものです」
「この世界の法則……ルールって奴? 原理的には不思議な力って感じで誰でも使用できるとかそんな所?」
俺の言葉にマリーゼさんは頷く。
「詳しく研究している方はいらっしゃいますが、簡単に説明するとそうなります」
「おい! ちゃんと説明しろ! 聞いているのか! どうしてこんなことが起こるんだ!」
村中が物分かりの悪い奴だって言うのはみんな理解したのかそれ以上の説明は後に回したい。
とりあえず口から出まかせで村中が分かるように俺の話を聞かなくても説明しやすい様に話しておこう。