48 三つ目の腕輪
「おお!」
「やった! あの魔物を仕留めたぞー!」
「うおおおおおおお!」
と、みんなが思い思いに勝利の声を上げている。
「すげぇ経験値だ。やったぜ!」
「ああ!」
ふむ……みんなの反応から相当の大物を仕留めたから何の不思議な点も無いって事なんだな。
「きゅううう!」
ルリルがル・カルコルの死体の上で勝利の雄叫びを俺に向けてあげる。
「はいはい。お前がとどめを刺しましたね。よくやったよ」
そのまま俺に近づいて頭を突き出してくるのでなでながら褒める。
「キュー!」
ルリルは満面の笑みを浮かべて答えた。
「思った以上にあっさり仕留められたね。私がもっと力を入れなきゃだめかと思ってた」
ファナが眠そうな顔でル・カルコルの死体を見ながら俺に言う。
「戦略って大事だな」
「そうね。賢者とか大層な職業でも正面戦闘をする人とか居るけどアキヒコは別の工夫をして良いと思うわ」
「ダメージ覚悟で暴れられるより効率的だろ」
「……」
死にたがりのファナからすると複雑な気持ちかね。ただ、俺としてはファナが自らの骨を折ってまで戦う姿ってのはあんまり見たくは無い。
……うん。悪いとは思うけど、ファナはさ……。
「村のみんなも鬱憤を晴らせるし達成感も満たせる。良い解決方法だったね」
「難点はこれが効かないくらいの化け物だったら逆効果なんだけどな」
危険なボスを弱い奴らの前に連れ出したようなもんだ。
相手によっては返り討ちに遭う危険性はある。
「勝てないほどの相手じゃないと踏んでいたからね。僕たちも厳しいと思ったら反対したさ」
つまりこの戦い方で勝てる程度の相手だったって事でもある。
経験値はすごく良かったけどさ。
「やりましたね!」
「そうだな」
「あのル・カルコルをここまであっさり倒せるなんて思いませんでした」
「ちなみにどれくらいの強さな魔物な訳?」
「そうですね……地道に作戦を練って行動したとして……あと数日は時間を掛けて体力を消耗させつつ倒す魔物だったと思います」
それが村に到着して翌日の昼前には討伐か……そりゃあ満足の結果になるか。
「ロネットたちも良い経験値を稼げた感じ?」
「そうですね。私のLvも1上がったので相当稼げたと思います。アキヒコさんはどうですか?」
「5上がった。ルリルは……3だな」
「きゅー」
俺の返答にロネットが若干驚いたような表情になった。
「アキヒコさんはまだ初期職業なんで早いとは思いますがそれでも随分と早いですね。囚人制限が無かったらと思うとすごいですね」
7割没収される中で5もあがったらそりゃあ……めちゃくちゃ入ったって事だよな。
当然か。その場合、ルリルの3ってのは無難な上昇なのか?
ただ……ライムと一緒に冒険してた時を考えるとそんな難しい数字かと言うと怪しいなぁ……。
約二週間半で47まで上がったし。
「そんなに早いか?」
「ええ、何度目になるかわかりませんがアキヒコさんが異世界人であるのを失念してましたね」
ああ、異世界人ってこの世界の人とは異なる成長をするんだったっけ。
俺はその分、成長が早いって事なら不思議じゃ無いか。
「とりあえずLv20になったな。ルリルは21か」
「キュ、キュウ!」
念入りにステータスを確認しないとな。妙な物を覚えたら速攻で通報だ。
そういえば20になったって事は三つ目の腕輪が出せるようになったって事だな。
ルリルの首につけた腕輪を維持したまま三つ目の腕輪を生成する。
「アキヒコさん、腕輪が三つに?」
「ああ、魔物使いだからか知らないけどテイムする魔物を増やすためにLv10毎に出せる腕輪が増えるみたいなんだ。腕輪の数だけ一度に使えるスキルが増える」
手札が増えるのは非常に助かる。
何分、ルリルの首に掛けている所為で一つしか使えなかったんだ。もちろん、ルリルを中心にスキルを放つとかは出来るんだけど俺の思った所に出せないから不便って意味だな。
「なるほど、所で増えた腕輪ってそれぞれ別の元となる腕輪を重ねられるんでしょうかね?」
「一つを複数にする事も出来るし腕輪毎に別々に設定することも出来るぞ」
前に検証した。さすがにそれくらいはな。
とは言っても複数の腕輪を同時に装備しないといけないって状況はなかなか無い。
一番高額だった腕輪を複製状態で運用するのが楽だ。
「魔物使いって元からそう言った能力を持っているんですね。ほかの職業だと基本的に一つですが」
二刀流とかそう言った武器を持ってる奴もいるっぽい事をロネットはつぶやいていた。
……腕輪を複数出して戦えるのは、俺としたら当たり前だけどほかの職業なら不思議に思うところなのかもしれない。
まあ、魔物使いの武器は魔物で、その首輪なんだからおかしくは無いか。
「腕輪だと効果が分散するとか短所はありそうだけどな。あのレイベルクの爺さんの話だと鞭を使う魔物使いもいるそうだし」
鞭か……腕輪よりは攻撃的で良さそうだなぁ。
なんで俺は腕輪なんだろうな。まあ、不便を感じることは無いから良いんだけどさ。
「さて、大物だからドロップは山分けだね。みんな、しっかり相談して分け合うよー」
ルアトルが手慣れた感じで村の者たちと話し合いを始めている。
「私はいらないからその分をアキヒコにでも上げといて」
相変わらずファナはドロップを拒否してるな。そんなんじゃ登録ボーナスが得られないが良いのか?
「ところで原因と思わしき魔物を仕留めた訳だけど、本当に原因が取り払われたかわかるのか?」
「一応調査が必要になりますね。これでアサシンアナグマの数が減っていくのを感じられれば解決と判断して良いでしょう」
後はアサシンアナグマ共を駆逐すれば正しいかどうかの判断が出来ると……なんとも面倒くさい。
ただ、後は倒していけば良いだけっていうならそれはそれで良いだろう。
「さてと……腕輪が三つになったからみんなの移動の為にルリルに乗ってポータルの位置でも再取得してくるかね。分け前は後で貰えば良いな」
村の連中はルアトル主導で分け前論争をしている。
欲深い連中だな。レアな魔物なんだろうから素材を金にしたいとかだろう。
「キュウウ……」
だから興奮すんなっての! 作戦の為に待機を命じたら大分ぐずったからなこいつ……。
「あ、助かります。私も同行しましょう」
「ロネットくらいは乗せていけるか。ルリル。行くぞー」
「キュー!」
ルリルに乗り込み、俺達は一路町へ目指して走り出した。
「きゅ……きゅ……きゅううう!」
ルリルがご機嫌で町までの道のりを駆けていく、その道中でアサシンアナグマなどの魔物を見かけるのだけど、そいつらはルリルが突進して跳ね飛ばして行った。
しかも思い切り加速して踏みつけたら一撃か……。
「きゅ!」
ヒョイッとルリルは仕留めたアサシンアナグマたちを咥えて俺の方に放り投げるので腕輪に納めておく。
後で尻尾を切り取ってドロップ確認しよう。
「うわぁ……ルリルちゃん。手際が良いですね」
「そうだな」
手際よくサクサク進むもんだ。
そうして適度にアサシンアナグマたちを倒しながらルリルが爆走をしたお陰で昼前には町に到着し、先に送り出した村人たちに合流しギルド員と話をつける事が出来た。
「そんじゃポータルゲート使うぞー」
ポータルゲートを使って6人ずつ現地の村へと送り出す。
一度使ったらクールタイムが過ぎるまで暇なのが難点な作業だ。
「ついでにアサシンアナグマの討伐報告をしておきますね」
「あいよ」
ロネットがギルドでの手続きを行っているのを……俺はルリルに寄りかかって待機する。