47 移動スキルの使い方
翌日。
体力を十分回復させた俺は作戦通りに村から出て水源である洞窟へと足を運んだ。
ロネットとファナと一緒だ。
「アキヒコさん、準備は良いですか?」
「ああ」
狭い洞窟と聞いて俺も入ったけど、なるほど……確かに入り口はかなり狭い。しかも所々ベタベタしている。
洞窟内も複数に枝分かれしているようだけど幅はかなり窮屈だ。
足下を流れる小川を静かに進んでいくと……なるほど、大きなカタツムリみたいな魔物が少し広まった所に居る。
「あそこに居るわね」
ズルッズルっと動きながら這って洞窟内に迷い込んで来る獲物を探して動いているようだ。
モチャモチャと苔も食べているけど……水源を汚染、大きなカタツムリみたいな魔物、ル・カルコルから何かが漏れて水を汚している。
ちょっと水に触れているとピリピリしているからには毒があるし、空気も息苦しい。
「ちょっと強めの毒があるみたいだからアキヒコさんは注意してくださいね」
ロネットが解毒の魔法が使えるのでどうにかなっているけど居なかったら体力がどんどん落ちて動けなくなる可能性は高かったな。
「ああ、それじゃ作戦開始と行きますか」
「上手くいけば良いのですが……」
「これに関しちゃ自信があるから任せてくれって」
「で、どこで仕掛けるの?」
「行き先はわかってるんだろ? ならその先で仕掛ける」
このル・カルコルは洞窟の奥を根城にしていて、水源を汚している。
戦闘以外じゃあまり動かない魔物のようだけど洞窟内を少しは這って移動している。
縄張りに食い物が無いかと探しているんだろう。
そんなル・カルコルが進む先に俺達は待ち構える。
「!!!」
獲物を見つけたル・カルコルは……うお、思ったより早い速度で狭い洞窟内を這ってくる。
少し下がった方が良さそうだ。
「読み通りの動きで助かるけど早いな」
「そ、そうですね」
ブシューッと洞窟内に毒の息を吐いてくる。
「せ、セイフティーサークル!」
毒を遮断するためにセイフティーサークルを展開、ピリピリとセイフティーサークルが徐々に溶けて行くのがわかる。
毎度思うけどあんまり頼りにならない防壁だ。
「ほーら、こっちだこっち」
チッ! 目玉というかツノをこっちに伸ばしてくる。
そうじゃない。もっと体を動かせと俺達は下がって行く。
「ファナ、まだ戦わなくて良いからな」
「わかってる。これくらいは平気だけど、うずきはするわ」
バーサーカーの性分かね。
悪いが今回はあんな無理な戦いはさせるつもりは無い。
「よーし、よし」
ル・カルコルは一定の距離を取る俺たちを追いかけるために殻のある体を這って動き出した。
「んじゃ、サクッと畳みかけるぞ。ポータルゲート! ファナ!」
「ええ」
カッと……ル・カルコルの殻のある体の真下に事前に設置させた腕輪が起動し、ル・カルコルがそこに入り込む。
「!!!???」
同時にファナが延ばして、中に落ちないように目玉や吸盤でひっつくル・カルコルの柔らかい部分を理性が効いている間に近づいて力の限り殴りつけて引き剥がした。
ずるっと……ル・カルコルの全身はポータルゲート内に落下。
「落とし穴に引っかけたみたいです」
「間違ってないな」
「移動スキルってこんな使い方があるんですね」
「本当は壁の中とかに設置してやりたい所なんだけどさ」
「そんな所に移動したらとんでもない事になるのでは?」
よくわかったな。
「じゃ、追いかけよう」
「ええ」
「ここを通るの怖いですね」
「そこはルアトルとルリルに任せた所だ」
というわけで俺たちもポータルゲートを通り、ル・カルコルを落とした地点……村近隣の決戦の場へと移動する。
俺が空中に腕輪を投げて登録した地点に腕輪は突如出現し、ル・カルコルがそこから落下してくる。
「きたきた、すごいね。アキヒコの言った通りだ」
「キュー」
「!!!???」
ル・カルコルはそのまま地面……大きく掘られた穴の中に無数に上に向けて設置された武具と魔法で作り出された氷のトゲの上に轟音を立てて落下。
全身を串刺しにされて声にならない声を上げる。
「初手としては十分だね。みんな、一気に畳みかけるよ!」
「「「おう!」」」
村の戦える者たちが穴を取り囲むように陣形を組んで穴の中にいるル・カルコル目掛けて思い思いに攻撃を行う。
「キュウウ!」
そこに高らかに跳躍したルリルがル・カルコルに向けてスタンピングを行い。同時に現れた俺たちを受け止めるために跳躍、そのままルアトルの隣に着地。
「いやぁ……移動スキルを仕掛けてこんな罠にするなんてよく考えたね」
「使えるスキルは使ってやっていたからな」
ライムが居た頃にも似たようにポータルゲートを使って倒したい魔物をおびき出しライムに仕留めさせていたんだ。
「お前の所為でどれだけ村が困らされたか! 食らえ!」
と、村の連中が嬉々ととしてル・カルコルに向かって思い思いの攻撃、石や手製の槍などを投げつけて攻撃している。
だが、その言い方は俺が囚人として引き回しされた時に言われた台詞なのであまり良い気分にはなれない。
何かのテンプレートだと思う事にする。
「!!!」
抵抗とばかりにル・カルコルはブシューッと毒の息とできる限り体を伸ばして獲物を捕らえようとするけれど、事前準備されていた深い穴からは出られる気配は無い。
「ル・カルコルは僕たちでも手こずる魔物だけど、ここまで一方的に攻撃できると楽なんてもんじゃないね。アイシクルエッジ!」
ルアトルが氷の刃を放つ魔法でル・カルコルを攻撃し、時折穴から這い出そうとするル・カルコルの行く先の土壁を凍り付かせて妨害する。
「よっと!」
ファナはいろんな攻撃が飛び交う中に入り込んで周囲の攻撃をかいくぐりながら腕を振り上げてル・カルコルにたたき付けを行った。
うお……地響きが起こるぞ。どんだけ力を込めてんだ。
なんかのスキルなんだろうけどさ。
「!!」
うお! 毒の息以外に髙圧縮した水の刃を吹き付けてきやがった。
「みんな! 気をつけろ!」
ゴロゴロとなんか上空に雨雲が起きている。
なんだこいつ、どんだけ力を持った魔物なんだよ。
「くっそ……しぶとい」
「一方的に攻撃できるけど、まだ倒れないのか。どんだけタフなんだよ」
「ル・カルコルはこんな姿でもドラゴンの一種らしいからね。むしろここまで追い詰めれているのが奇跡ってもんさ」
村人たちが補充とばかりに石や槍を運び込んで来る中、ルアトルが説明を行う。
ドラゴンの一種……そりゃあタフって事なんだろうな。
そんな少しばかり攻撃の頻度がやんだ瞬間。
「キュー!」
ルリルが足りない攻撃の分を補うとばかりに飛び出してル・カルコルに向かってスタンピングを行い飛び乗る。
「!!!」
大きな獲物が飛び込んできたので反撃しようとル・カルコルはルリル目掛けて高水圧の水を吹き付けようと試みるがそれよりも早くルリルはル・カルコルの頭部らしき部分に噛みついた。
同時にジャリン! っとキリングアナグマを切断した時と同じ音が響き渡り、ル・カルコルの首が跳ね飛んだ。
ビク! っとル・カルコルの体が痙攣したかと思うと、くたっと力が抜け、経験値が表示される。
うお……とどめはルリルが行ったけど、ル・カルコルって奴、かなりの経験値を持っていたみたいだ。
俺のLvが一気に5も上がってるぞ。
昨日と合わせて10……嘘みたいな成長速度だ。
バシュッとルリルにル・カルコルからの経験値が入って俺にスキルを覚える時の光が飛んできた。
スキル・サイレントウォークを習得しました!
魔物使いとしてのスキルみたいだな。どちらにしても使わないスキルだな。
「キュウ……」
さらにルリルから別の光が放たれて俺に飛んできた。
もう一つスキルを習得か?
ん? 腕輪の方のスキルみたいだ。
スキル・魔弾の射手を習得しました!
魔弾の射手……マジックショットの亜種スキルかな? もしくはサポートスキルだろうか?