45 ムジナハット
「キラーアナグマポイズンダガー……」
腕輪から出してロネットに渡す。
もちろん鑑定して貰うためなのと雇用主だからだ。
「確認しますね。これも品質がずいぶんと良いです。売れば良いお金になりますので後で金額相応の品を買いましょう」
俺への高額な金銭を渡せないので相応の品にしてくれる訳ね。
「それとも腕輪に入れて登録の促進をしますか?」
「攻撃と素早さがそこそこ上がるけど、それ一本でいけるのか?」
「おそらくいけますね」
ふむ……。
「ロネット、アンタはどっちが良いと思う?」
「そうですね……今回はアキヒコさんのボーナスのために登録をした方が良いかと思います。足りなくても必要数を減らせるでしょう」
「キュー」
って形でロネットは俺にキラーアナグマポイズンダガーを返してくれた。
まあ……俺じゃ使えないしな。
……思えばこうしてドロップした物をライムに食わせたりしたっけ。
ドロップ品ってそこそこ出るって認識だったな。あの頃は。
「ルリル」
「キュ?」
「おまえも食うか?」
なんてな。ルリルに捕食の能力は無い。
「キュー?」
ふんふんと差し出したキラーアナグマポイズンダガーの匂いを嗅いでいる。
ポイズンだから毒があるし食わせないけどさ。
「キュ、キュッキュー、キュあああ」
食べろと言うなら食べますって感じで鳴いて口を開けるな。
「ルリルさんはアキヒコさんに懐いていますからね。望んだら食べれないものでも口に入れちゃうかと……」
……どうしてロネットの方がルリルの事をわかってる感じなんだろうな。
いや、なんとなくわかるけどさ。
「冗談だよ」
これでさっきの戦闘で捕食を覚えました! ってなったんなら急いで報告するところだった。
俺はキラーアナグマポイズンダガーを腕輪に入れて登録する。
キリングアナグマ 20/20 ボーナス 攻撃+7 素早さ+5 条件達成!
「足りて登録できたぞ」
フッと腕輪から光が放たれてルリルの方にも飛んでいく。
「キュー!」
ルリルにも能力アップボーナスが掛かったな。ライムの時にもあった現象だ。
「後はムジナハットだが……」
ポロッと腕輪から出して形状を確認。
キリングアナグマの頭の皮を使って作ったフードみたいな奴だ。
「ムジナハットは被る装備品ですが……アキヒコさん被ります?」
うーん……判断に悩む。
防具の効果として切れ味向上とそれなりに防御力がある。
「ロネットは?」
「私が装備する必要は無いですね……」
「売って何か別の素材に宛てるで良いか」
「キュウ?」
ルリルが首をかしげたので頭に乗せて見る。
もちろんサイズが合わないのでネタにしかならない。
「何でルリルさんの頭に?」
「よくわかってないみたいだったから乗せて見ただけだ。やった訳じゃ無いぞ」
「キュ!」
ルリルはニコッと満面の笑み、俺が絡むと機嫌良さそうだなお前。
「ただいま、何かあったの?」
ここでファナとルアトルが戻ってきた。
「ああ、魔物共が村に襲撃に来てな。追い返した所だ」
「ええ、ルアトルさんたちの方はどうなってますか?」
「いやぁ……どうやら水源にいる魔物の所為でこの辺りの魔物の数が増えているみたいだね。魔力の流れでわかったよ」
「洞窟も調べた。かなり狭くて避けるのは難しいよ。おびき出すとかするにしても全然出てこない。それとやっぱりル・カルコルだった」
どうやらファナの方も収穫はあったようだ。
しかも今回の魔物の出現数を増やしている原因っぽい。
「ファナさん。倒せますか?」
「殻が固いし、戦う場所は狭いし戦ったら苦戦すると思う。捕まったら抜け出すのも厳しい」
「天下のバーサーカーリープッド様でもおだぶつかい?」
「死ねたら良いわね。泥仕合の末に勝利じゃないの?」
本当、ルアトルってファナへの当たりが強いなー……ファナも寒気のする笑顔で応対するし。
死なれたら俺が困るんだが……。
「狭いって事はルリルが入れないか?」
「そうね。その体躯じゃ厳しいわね」
「キュー……」
ルリルが戦闘に参加できなさそうで不満そうな声を上げる。
「なんか頭に乗せてる?」
「ああ、ドロップ品を冗談で乗っけてる」
「キュ」
「似合わないね。骨の方が似合いそう」
「それもどうかと……」
まあ、確かにルリルの場合、体が大きいからな……サイズを合わせれば不自然じゃ無いけど頭の大きさに全く合ってない。
小さすぎて似合わないって感じだ。
「話は戻してどうやって倒しましょうか、おそらくその主の所為で魔物の出現数が増えているのでしょうし……」
「ギルドに報告してもっと上位の冒険者を斡旋するとかか?」
俺たちの手に余る相手って可能性は大いにあるわけだし、これだけの被害を出している現状から見て最善手としては間違いない。
「似たように各地で魔物の主が周囲に騒動を起こしているからね、手が足りない状況じゃ無いかな」
まあ……俺も捕まる前に受けた依頼はそんな感じだったもんな。
「もうすぐルナティックムーンですが、その前に仕留めないともっと面倒になる可能性も十分にあります。どうにかして私たちの手で仕留めたい所です」
「となるとファナに頑張って貰うのが良いかな? 狭くても頑張ってくれるよね」
「はいはい。命令には従うわよ」
なんとも投げやりなファナの態度とルアトルの提案に苛立ちを覚える。
少しは自分の体を大事にしろよとファナの事は思ってしまうのは俺のわがままなんだろうか。
元から死にたがりだからこういった状況こそ望んでいるって事なんだろうけどさ。
「狭いって話だけどよくそんな所にいるなそいつ」
「大型のカタツムリみたいな魔物なのよ。殻はあるけど狭い所で引っかかる事は無い構造でね。殻は固いし、狭い所にいるし体を伸ばして捕まえようとしてくるしで面倒な感じね」
ふむ……ファナは短時間の戦闘以外だと理性を失って暴れてしまうので連携は厳しいし、場所も悪いのでルリルも入り込むのは難しい。
「洞窟を煙で燻して息ができないようにするとかは?」
「水の中でも呼吸できる魔物だね。逆にこっちが入りづらくなるだけだよ」
酸欠も狙えないか……洞窟を魔法で破壊しても生き残りそうな魔物なんだろうな。
じゃなきゃ先にやってないだろう。
ちなみに先に来た冒険者がそれを行った所為で洞窟がより狭くなってしまったらしい。
余計な事をしたもんだ。
「よく出現する魔物なのか?」
「いいや、居るのがわかったのはこの前のルナティックムーンの後だそうだよ。その際に出現して縄張りにしたんだろうね」
ルナティックムーンは本来沸かない魔物も現れる現象……今回だけのボスで倒したら再出現は無いか。
倒せば解決って事で良いようだ。
「なら手は一つあるな」
「アキヒコ、何か名案でもあるの?」
ルアトルの質問に俺は頷く。
猪突猛進だったライムに注意して作戦を立てて強い魔物を倒してきたんだぞ?
できることは何だって使うのが手って奴だ。
「まあ、ちょっとした作戦がな。いろいろと準備があるし、その後の事を考えないといけないけどさ」
と、俺はロネットたちに閃いた作戦を提案する。
それを聞いたロネットたちは揃って納得をした。
「なるほど……確かにそれは名案ですね」
「アキヒコがいるからこそできる作戦だね」
「戦いやすい状況を構築する考え、魔物を使役するならではの発想?」
「いやいや、どっちかというと魔法使いとか頭が大事な職業なら考える作戦だろ」
「とはいえ、上手くいけば続くいろんな行動に出られるよ。早速準備に取りかかろう」
「もう夜はずいぶんと更けてきてるけどな」
次の奇襲がくる気配は無いが、村のみんなの表情は明るくは無い。
「準備くらいは僕が村の人たちとやっておくよ。君たちは今のうちに体力を回復させておいて明日の朝に実行しよう」
事前準備は入念にって事ね。