42 治療
「なんだ?」
「件のポータルゲートで村の人たちを送り出せるかい?」
「出来ますよーやれば良いんだろ」
「え?」
村人が俺へと視線を向ける。
「街への護衛だろ? 街には送ってやるから帰りはそっちで冒険者でも雇えよ」
ポイっとポータルゲートを放って転送準備を完了させる。
ちなみにポータルゲートは展開し続ければ腕輪の内側から行き先が確認できる。
一方通行だけどな。
村人はマジマジと俺が展開したポータルゲートの中を確認し、見覚えのある景色だからか驚きの表情で俺を見て来た。
「て、転送スキル所持……」
一体何なんだこの囚人って顔をすんなよ。
希少スキルってのは本当みたいだな。
「アキヒコ、そのスキルって転送人数の上限とかあるのかい?」
「俺と……魔物一匹しか使ってなかったからな……感覚的に6人くらいは行けると思うぞ。ただ、一度使うと再使用に30分くらいは必要だけどな」
この際の使うというのは転送を発動させるって意味だ。
行き先を移す程度だとキャンセル扱いで5分くらいで再使用可能になる。
「それだけあれば十分だよ」
「キュウ」
パチパチと俺を称賛するように耳で音を立てるルリル。
完全に偏見だが、舐めているように感じるからそれくらいにしてくれ。
というか耳で拍手するな。
「という訳で早く街へ行きたい人を集めれば彼が街まで転送してくれるよ。それとけが人に関しては僕たちのパーティーはヒーラーが多くてね」
「……私はやらないわよ?」
ファナがここぞとばかりに拒否を主張する。
「おやおや、アキヒコは癒せてもけが人は治療したくないと?」
「あれは例外。あんまり使いたくないの。あなたは意味を知ってるでしょ? そもそも僧侶様とアキヒコ達がいるでしょ?」
「まったく、しょうがないね」
どうもファナは回復魔法を使うのは嫌らしい。
俺も魔物使いのスキルを使うのが嫌なのと同じく何か理由があるんだろう。
適材適所って事で今回は気にしなくて良いか
「というかアサシンアナグマが随分と湧いてるよな。けが人も多いみたいだし」
「ここまで大量出現をしているとなると、何処かに出現を増長させている主が出現してしまっているのではないかと思いますね」
ルアトルが俺の疑問に応える。
主ね……その魔物の処理もしなきゃいけないか。
……俺が捕まった時のチェイスウルフのボスを思い出すな。
あんな感じの奴がいるって事かもしれない。
「じゃあアキヒコ、ロネットも頼まれると思うけど村のけが人の治療を頼めるかい?」
「へいへい。囚人の俺が逆らえるような命令じゃないだろ。何処へ行けば良いんだ?」
なんて話をしているとロネットがやって来た。
「けが人の治療をお願いされてしまいました。どうやら皆さんも頼まれた所ですか?」
「そうらしい。んで、件の水源を占拠する魔物に関する話はどうなってんだ?」
「やっぱり近くの川を遡った先にある洞窟にいるそうです。日が暮れてきてますから明日が良いかと思いますが……」
ここでファナが手を上げる。
「じゃあ私が下見に行ってくるわ。ルアトルも良いわよね?」
「やれやれ、君が勝手に暴れたら置いて逃げるけどいいかい?」
「偵察程度じゃ暴れないようにするわよ」
「もうすぐ夜ですよ?」
って所で俺は何となく納得はしたぞ。
何せファナはリープッドって猫獣人で、ルアトルは目隠しを付けて平然と歩いている様な奴だ。
夜目が効くのと目に頼らず動き回る二人に夜の闇は何ともないって事なんだろう。
「私とルアトルが暗い程度で後れを取るとでも?」
「頼りにされたもんだね。とはいえ、この状況だと手当てをする君たちを見ているだけになるし、偵察に行くのが最善だろうね」
「アナグマたちの奇襲は……昼間のルリルの様子から戻ってくるまでの時間くらいは稼げるでしょ」
「きゅう!」
なんか作戦がまとまってきてるな……まあいいけど。
「そうだね。そんじゃ早めにやることをやって行こうか……ああ、依頼料の交渉をしておかないとね」
「あ、ああ……治療に関しては――」
なんて感じで依頼料金の交渉をルアトルとロネットは行い、ファナとルアトルは件の水源へと向けて出かけた。
依頼料金に関してだけど、俺は囚人でロネット達に雇用されているだけなので相場はよくわからん。
ただ、ルアトルがその辺りに関して相手とかなり交渉していた。
俺だったら相手の値切りに対して根負けしたかもしれない。慈善事業じゃないって事なんだろうな。
ともかく参考にはさせて貰った感じかな。
俺はさっそくポータルゲートで村人を数名、街へと飛ばした。
「で、次はけが人の治療って事らしいけど……」
村にある診療所兼、教会へと行くと血まみれの包帯巻きの……重傷者が5人、軽傷でも骨が露出するほどの大けがをしている人が8人と野戦病院かと思わしき状況になっているようだった。
どうやら回復に使う薬なんかは在庫切れを起こしているようだ。
魔法での手当で賄っていたのかね。
「どんだけ被害に遭ってんだよ」
アサシンアナグマが群れで襲ってきたにしても、けが人の数が尋常じゃないぞ。
「な、治してもまた戦わなきゃいけねえだろ……」
俺の愚痴にけが人が言い返してきた。
はぁ……ファナやロネット達が優秀だから怪我せずここまでこれたって事なのか?
俺なんてLv10で倒せた相手だっていうのに……まあ数に押されてって事なのかもしれない。
一匹一匹がそれ程でなくても、やはり数は力だからな。
「とにかくまずは手当てをしなきゃいけないか。ロネット、一気に回復させて良いのか?」
「そうですね。ここまで人数がいて、治っても大丈夫なように整復させていますから問題ないですね。広い場所に集めてください」
回復魔法がある異世界独自の準備だよな。
日本だったらこういう時って手術室とか個室で手当てするのに、範囲回復を掛けるから広い場所に集めろなんてさ。
けが人を一か所に集めて俺たちの治療が始まった。
「じゃあやるか、ヒーリングサークル」
範囲指定のヒーリングサークルを展開させてけが人へと治療を施す。
俺の回復スキルは人間相手だと徐々に回復だからなぁ……後はルリル産のヒールシロップでも振りかけりゃ良いか?
品質が高い回復薬って扱いだし、振りかけりゃ傷が塞がる。
「ヒールレイン」
で、重傷者にはロネットが威力の高い回復魔法を施している。
「キュー」
ここでルリルが野戦病院と思わしき診療所内で、俺のヒーリングサークルの縁に合わせてぴょんぴょんとリズミカルに跳ね回る。
着地した場所から淡い緑色の足跡が発生し、俺のヒーリングサークルの光が重なる。
「こ、これは……」
すると怪我をしていた奴等の傷が目に見えてみるみる治って行く。
ほう……かなりの深手だからもう少しかかるかと思ったけど思ったより早く治りそうだ。
これがヒールステップってスキルか?
「すげぇ……あっという間に傷が治って行く……」
「た、助かった……」
怪我の跡が無い事を確認したけが人たちが立ち上がって俺とロネットに礼を述べて行く。
回復スキルが使える奴ってこういう時は便利だよな。
「アキヒコさん、もう終わったんですか?」
「ああ、俺とルリルが合わせて回復を施したから、効果も高かったんだろうさ」
重ね掛けで回復を施したらすぐに終わるか。
で、ロネットの方は重傷者の治療をしている。
「良かったら手伝ってください。体力の消耗が酷いようで回復の効果が薄いようなんです」
うわ……そりゃあきつい。
生きているのも奇跡って次元の話なぐらい……包帯を付けている奴の症状が酷い。
「きゅ、きゅう……」
ルリルが蜜精製を発動させて蜜を作り出す。
……搾りたてって効果高そうだな。
「ヒーリングサークル」
俺のヒーリングサークルに合わせてルリルがロネットの診ている重傷者にヒールシロップを振りかける。
「え!?」
すると重傷者の傷が徐々に塞がって行くのが確認できた。
呼吸が荒かったけど、大分治療も出来ている。