04 短い船旅
「驚いているようですね」
船の甲板で空を飛ぶ様子を眺めつつ動くプロペラなどを見ていたらロネットさんが俺に声を掛けて来た。
「そりゃあね。俺の居た世界だとこんな乗り物が無くて何もかも新鮮だよ」
「楽しんでくれて何よりです。私も聞いた話なのですけど異世界から来た方々はこういった私たちの世界の品々を見ることで信用してもらえるって話があるようです」
「なんか又聞き的な言い方だけど、何かあるの?」
「これは話しても大丈夫ですね。はい。この世界ではアキヒコさんたちみたいに異世界からやってくる方々が見つかることがあるんです。なのである程度、信用して貰うための決まり事があるんですよ」
なるほどなー……どうやらこの世界では異世界からの来訪者が多いって話みたいだ。
話の内容から頻度はそこまで高いわけでは無い様だけど。
「これから俺達は何処へ行くの?」
「お城に招かれて教会の方々と面会するそうです」
「王様に会うんじゃないんだ?」
「それはー……大きく期待される異世界からの方々がいらっしゃったらですね。何分、王様との面会は相応に手続きが必要なので」
安易に王様に会うってのができないのかー……まあ一国の王様に安易に会えたら苦労しないか。
それこそ召喚主が国だったらって感じだろうし。
どうもロネットさん達から聞いた話だと俺たちを召喚した術者がいるとかそういう話ではないらしい。
この世界では時々、俺たちみたいに異世界から引きずり込まれてしまう人たちがいるって話だ。
研究者の話だとこの世界の人たちはそんな人の末裔なんじゃないかって話もあるそうだ。
「そこで色々と話をしてアキヒコさんたちに身の振り方とかの相談をして下さると思います」
「ロネットさんたちは来ないの?」
「私たちは途中までの案内ですね」
おや……ロネットさんたちとはこの後お別れか、ちょっと残念だな。
「まだ待たせるのか! 一体俺たちをどこまで連れて行くんだ!」
村中がイラついているのか周囲の連中に何度目かの詰問をしている。
「ピー……」
ジェリームが村中の声に怯えを見せてるぞ。魔物より落ち着きのない奴だ。
いい加減、案内されている最中なんだから大人しくしてろよ堪え性が無いな。
この飛空挺の速度も中々早いし……王都ってのにもすぐ着くだろ。
「その……アキヒコさん」
「何?」
ロネットさんが俺の腕輪を見つめている。
「国はアキヒコさんたちに期待してますので頑張って下さい」
「なんかあるの?」
ちょっと不穏な雲行きなやり取りの予感。
「そうですね……アキヒコさんたちの話だと平和な世界から来たとの話ですので、ちょっと不安な事……って所ですね。この世界では誰しもが戦えることを求められる……それだけは覚えて下さい」
「そうなの?」
「はい。私たちはなんとも思わないのですが、過去に異世界から来た方の言葉だと凄く物騒だって話ですので」
うーん……これはロネットさんと俺たちの認識の違いって事なんだろう。
「あ、そろそろ王都が見えてきましたよ。あと少しの辛抱です」
「もう船旅は終わりかー……残念だなー」
もう少し飛空挺に乗っていたかった。
ただ、なんか感覚だとこの飛空挺……新幹線とか電車な扱いなのかな? ちょっとお高い感じなのはわかるけど。
「それでは、またどこかで会えた時によくして頂けると幸いです」
「あ、うん。道中ありがとう」
こうして俺はロネットさんと別れて、国の人たちに案内されて城の教会へと到着したのだった。
まだ夕方だ。色々と事が起こりすぎてて目が回るね。
「ここが城か……」
「ピー」
どこぞのホテルの会場みたいな雰囲気だなぁ。
なんて思いながら俺達は案内された部屋へと行く。
「ようこそ、異世界の皆様!」
物々しい魔法使いや僧侶みたいな服装を着た人たちと、代表っぽい金髪で黄金色の目をした美少女が出迎えてくれる。
なんかこれでもかっというくらい目がキラキラしたロネットさんとはまた別のかわいい感じの子だな。
「自己紹介が遅れました。私、マリーゼ=アラフォンと申します。職業は聖女です」
だからその職業って何なの? 色々と教えてほしいんだけど聞く機会がなかった。
「俺の名前は村中典助だ。そしてここにいる者は俺の部下たちだ。代表としてここに招かれた訳だが、君が代表か?」
村中がここぞとばかりに代表を強調して言い切る。
まあ……現在いる面子の中で会社内の立場は一番上だから間違いはないな。
「今回、皆様に事情を説明する意味で私が代表であることは間違いありません。どうか皆様、私共の話をしっかりとお耳に入れて頂けたらと思います」
「ふむ……それで、一体どうして俺達は異世界という所に来てしまったんだ? 部下の話だとお前たちが招いた犯人たちだろうと聞いたが」
「滅相もありません。私共が貴方達異世界の方々を故意に招くようなことをすることはありません。そうですね……過去の異世界人の方々からお聞きになった資料によれば、地震や洪水、嵐のような自然現象に巻き込まれこの世界にたどり着いた……と理解して頂けると良いかと」
「よくわからん! 責任者を出せ! そして早く俺たちを日本に帰せ!」
いや、しっかり理由を説明していただろ! 本当の事を言っているかは別としてだけどさ。
村中の奴、理解力が無いとは思っていたけどこんなにも状況判断ができない奴だったのか。
マリーゼさんが貼り付けた笑顔で村中のセリフを聞いてたぞ。
「えー……非常に酷な話をしなくてはいけないのですが、私共の技術を持ってしても……」
「何だと! 今すぐ帰せないというのか!」
「元の世界に戻る術があるかは存じませんがこの世界で皆様が探求なさることを止めるつもりはなく、協力は惜しまない事をここに断言いたします」
「調子に乗るんじゃないぞ! なんでもいいから早く日本に帰せ!」
顔を真っ赤にした村中がマリーゼさんに詰め寄り胸倉に手を出そうとした所で周囲の僧侶たちに阻まれて止められる。
「ぐぬ! 失礼にもほどがあるぞ! お前たちは被害者である俺達を何だと思っているんだ!」
僧侶たち、中々凄いな村中の拳を受けてもびくともしないとばかりにマリーゼを守りながら立っている。
異世界の人たちって強靭なんだな。
まあ後でカラクリはわかる訳だけど俺はそう判断していた。
とはいえ、村中が代表で話をしてたら話が何時まで経っても進まない。
ここは他に話が出来そうなやつが間に入って進めるべきか……。
「あの……良いでしょうか?」
「はい」
「海山! 貴様! 勝手に間に入ってくるな!」
「相手も困ってるじゃないですか。地震で被災した時に救援に来た人たちに無茶ぶりをして殴りかかるなんてことを村中課長はするんですか? 日本のどれくらいが被災したのか位は聞くものでしょう? 今は少しでも情報を教えてもらうべきでは?」
「ぐ……」
具体的な指摘を受けてさすがの村中も言い返せずに黙りんだ。
ここは俺が話を進めないとあの理解力の無い奴では知りたいことも聞けそうにない。
「失礼しました。それでー……俺達が元の世界に戻る方法を探すことに関して協力は惜しまないという事で良いんですよね?」
「はい。異世界の皆様が帰りたいという思いがあるのは過去に来訪した異世界人の方々の話からもこちらは察することができます」
「それで……俺達はこれからどうしたら良いのでしょうか? 最終目標が元の世界への帰還だとしてです」
「そうですね。それを説明する前にこの世界の現状を先に説明した方が良いかと思います」
マリーゼさんはそう区切ってから深呼吸を一度してから話し始めた。
「この世界では、道中で皆様も遭遇したであろう魔物や様々な脅威が存在します。この魔物という存在は街等の比較的安全な場所以外でどこからともなく出現する性質を持ちます。そしてその環境に根付き、我が物顔でそこを縄張りにして近寄る者を攻撃します」
村中がロネットさんと出会った時の事を思い出して顔色を青くさせた。