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35 ジャイアントアルミラージ

「アキヒコさん!」


 ロネットがなんか声を上げて俺の名前を呼んでくる。


「なんだよ」

「魔物とはいえ死体に無意味に鞭打つ行為は感心しませんよ」

「は! こいつらにそんな優しさを掛けてやる価値なんて微塵も無い事がわからないのか? 力を得たら調子に乗って好き勝手する奴らだぞ? 優しさってのはな、掛けて良い奴と悪い奴がいるんだよ」


 ジェリームの残骸を蹴り飛ばして答える。

 見た目がかわいいから優しくしなきゃいけない? 魔物愛護の精神か?

 知った事かよ! そんなエゴイストに付き合っていたって俺が受けた屈辱は晴れないっての。


 裏切られるようなことをしたから?

 何言ってんだ。俺はライムが望むものは出来る限り叶えたし答えた。

 受ける依頼だってわかるように諭してから出かけて報酬の殆どをライムに使っていた。

 落ち度があると糾弾されるとしてもここまでされる謂れは無い。


 何が奴隷のようにこき使っただ。

 好き勝手行きたいところに言って俺にわがまま放題していただろ。

 格上相手の魔物で今の俺たちには無理だって注意したのに突撃するし、助けるのだって苦労したんだぞ。

 一緒に冒険して魔物を倒したんだから経験値が手に入るのは当然だ。

 だから、力を持ったら調子に乗る魔物なんて生き物に優しくしてやる義理なんて無いんだよ。


「ですから――」

「ロネット、嫌なら刻印で罰則を課すしかないよ」

「好きにしろ! 例えどれだけの罰を与えられてもやめないからな」


 少なくとも俺はジェリームって種類の魔物が目の前にいるって事が我慢できないね。


「……決めた事ですから引き返ししませんが……アキヒコさんが冷静になってくださるのを祈るばかりです」

「アキヒコがジェリームが大嫌いなのは聞いてる。じゃあ他の魔物に同じ事をするの?」


 ファナが聞いてきたので考える。


「……」


 ジェリームは仕留めたらスカッとするから絶対に仕留めるのは決めている。

 けれど他の魔物に同じことをするかと聞いたら魔物なんて反吐が出るけどやる気は起きない。

 いちいちやっていたら時間の無駄だ。


「やらない」

「じゃあそれで良いんじゃない? アキヒコはジェリーム系に慈悲を掛けないけど、他の魔物の死体へ過度の攻撃はしない。妥協ってそういう物でしょ?」

「落し所を用意するって考えか。ロネット、君はどうする? 全面的に禁止も出来るよ」

「……アキヒコさん、始めて会った……あの時ジェリームちゃんを可愛がっていたあなたは嘘だったのですか?」

「嘘なものか。本気でアイツとやっていこうと思った。けど、あの時の俺は愚かだった。ただ、それだけだ」


 ライムの正体に気づけなかったんだからな。


「そもそもだ。強くなるのに魔物を倒さないといけないんだろ? 俺にはタダでさえ制約があるんだ。見かけた勝てる魔物を攻撃して何が悪い」


 俺の返事にロネットは嘆くように頭を横に振る。


「否定はしません。今はルナティックムーンという危機が迫っていますからね。ジェリームへの過度な攻撃は貴方が酷い方だと私は判断しますが、それでも続けたいのでしたら続けてください」

「ああ!」


 そうして俺は移動の最中、見かけたジェリームを片っ端から仕留めて行った。

 なんてやっていると無数のジェリームと、大きなジェリーム……エリートビッグジェリームって魔物が俺たちの方へと跳ねて来た。


「なんだ? ジェリームを片っ端から仕留めてるから報復にボスでもやって来たのか」


 お前らみたいな汚物生命体にそんな殊勝な考えがあったとはな。

 だからなんだ。丁度良い。返り討ちにしてやる。


「エリートビッグジェリームにそんな性質ないですよ。単純に縄張りに入ったから襲って来たんですよ」

「大きいだけで強い魔物じゃないけど、ジェリームのボスに遭うなんて運が悪いね。アキヒコを連れてるせいかな」

「なんでも俺の所為にするなっての!」


 ロネットとルアトルが杖を出して精製武器をまとわせて構える。

 戦闘開始だな。陣形的に考えて俺は近接よりの中距離で魔法弾をぶちかますか。

 って所でファナが周囲をキョロキョロしながら鼻を鳴らしている。


「ファナ? どうした?」

「えっとね。匂いが――」


 ポヨンポヨンと、エリートビッグジェリームが俺達からそれて去って行き始める。


「え?」

「おやおや」


 そこに土煙を上げて追いかけてくる何かが跳躍し、エリートビッグジェリームに降り注いだ。


「ピギィ!?」


 ズブチィ! って音が響き、土煙が巻き起こると同時にエリートビッグジェリームが大きくゆがむ。

 さらに連続音が響き渡り、バシュッと周囲に粘液が飛び散った。


「エリートビッグジェリームはどうやらあの魔物から逃げていただけみたいだね」

「一体何が……」


 と、俺たちが目を凝らして土煙が晴れるのを待って土煙に潜む魔物を確認する。

 するとそこに居たのは耳の長い大きなウサギ型の魔物だった。

 額には短めの一本角が生えているウサギ。

 うん……馬並みだけど馬みたいな細身じゃなく横にも大きいので馬よりも大きい。

 異世界ではこんなでかいウサギの魔物が居るんだな。

 そしてこれがジャイアントアルミラージって魔物なんだと魔物使いとしての感覚で魔物名が判断出来た。


「キュー!」


 エリートビッグジェリームを倒してジャイアントアルミラージは勝利の雄たけびを上げているようだった。


「どうやら目当ての魔物とご対面出来たようだね」

「ええ、もっと時間がかかるかと思いましたが運が良かったですね。ファナさん、匂いがしたんですね。わかりました」

「うん、そうなんだけど」

「キュ!」


 ジャイアントアルミラージは俺たちが居る事に気づいたのかバッと俺達の方へと体の向きを変えて構え……俺を凝視する。

 やべ! 狙われてるぞ。


「キュキュウウウウウウ!」


 スタスタと……いや、なんか優雅な歩調でこっちに歩いてくる。

 なんのつもりだ。

 それとも何かの攻撃手段か? 間合いを図っているとかそんな感じでさ。


 そうして悠然と、敵意が無いとばかりに静かに俺たちの方へとやってくる。

 ファナが拳を握りしめて構えるけれど、おくびにも辞さないとばかりだぞ。


 牽制の一撃をしてやる!

 この魔物め! 喰らえ! マジックショット!

 ボンと腕輪から魔法弾を放ってジャイアントアルミラージに当ててやる。


「キューン!」


 魔法弾がジャイアントアルミラージの肩に命中するのだけど、あん! っとばかりにジャイアントアルミラージは喜びの表情になって態勢を崩すが即座に態勢を整えて再度、歩いてくる。

 いやなんだその動きは! もっと敵意を見せろコラ! なんで俺を凝視してんだよ。

 マジックショット再発射!


「キュー! キュキュー!」


 やはり魔法弾が当たるとジャイアントアルミラージは同様の表情になってから近づいてくる。


「一体何をするつもりか判断に悩む動きだけど……アキヒコに続くとしようか」


 ルアトルが俺に合わせて牽制の魔法弾をジャイアントアルミラージに放つ。


「キュウウウ!」


 するとジャイアントアルミラージはルアトルの魔法弾は受けるかとばかりに前足で弾いた。


「私だって続きますよ!」


 同様にロネットも光の玉を杖から放ったが、やはり弾かれた。

 俺の攻撃だけ受けているのはなんでだ?

 弾く価値も無い心地いい攻撃力だって言いたいのか、このウサギ野郎!

 完全に舐め腐ってるだろ!


「手加減したとは言え、ファナさん!」

「えっと、アキヒコ。あのね、実は言おうと思っていたんだけどさ」


 ファナが何故かここで俺の方に顔を向けて反応に困るって顔で話そうとした。

 その直後、ジャイアントアルミラージは素早く俺に飛びかかって来た。


「キュウウウ!」

「うわ!」


 ボフっと俺にのしかかってきてすりすりと頬で擦り始めた。


「キュウウ……ウウウウ」


 涙を流しながら、何度も何度も、抵抗している俺を物ともせずに頬ずりをやめない。

 そしてガバァっと力強く俺に両前足でハグしてのしかかる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 立派なジェリームスレイヤーサンになって! 明彦もきっと喜ぶよ! [一言] 種族名が違ってたから再会はもっと先だと思ってた
[一言] お、お前だったのか!?
[良い点] ゲレゲレ!?ゲレゲレじゃないか!! [気になる点] あれか、以来の毛の匂いとは別物なのかな
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