34 忌み嫌われる理由
「殺人……許される事じゃないし、私も許されないと思っているからこうして刑務所で罰を受けてる。けどアキヒコは違うでしょ?」
「ああ……」
あっさりと答える、違うでしょ? って台詞で少しばかり気が楽になる。
今度は逆にファナの方を少し心配してしまうのは自然な考えだろうか。
だから疑問をぶつけてみよう。
「何故、殺人を?」
するとファナは空を……遠くを見るように見上げた。
「……私はね……大切な友達を殺してしまったの。だから……私は、その罪を背負うと固く決めているの……とんだ正義の味方よね」
「そうか」
つまり、何かしらの出来事でファナは貴族の友達を手に掛けてしまったバーサーカーって事だったのか。
相手の家柄も良いみたいだし冒険を夢見て色々とやった末に味方を殺してしまったとか悲惨と言えば悲惨だな。
これがバーサーカーが忌み嫌われる理由なんだろう。
「いずれ私には刑が執行される時が来る。アキヒコ、それまで私はあなたの隣に居るから心配しないで」
「……ああ。約束だからな。その約束が続く限りはあきらめない」
そうだ。
どんだけ理不尽な目に遭ってもこんな事をしたライムに報いを受けさせないと怒りが収まらない。
まだ何も解決していないけど、やって行かないとな。
「さしあたって随分前にロネットが俺たちに朝食を持ってきてくれたぞ。ありがたく頂いてから今日の奉仕作業とやらに出ないとな」
「先に食べてても良いのに、アキヒコって妙な所が律儀ね」
「気を利かせたと言え。俺はそんな礼儀知らずじゃねえよ」
「それは知ってる。刑務所でもそうだったし」
「ほらよ」
ファナにパンと冷めたスープを渡し、俺も食べ始める。
日本のパンに比べてバサバサだけどスープに浸して食べるとそこそこおいしい。
他にヒールシロップを浸すのも良いな。
囚人の楽しみは食事だって聞いたことがあるけど、それは間違いない。
パンとスープだけだけど俺達は食べ終えた。
「ファナって魚とかは好きなのか?」
猫と言うと食事は魚ってイメージがあるけど、実はそれは日本独自の話だとか聞いた覚えがある。
海外の猫は普通に肉が好きなんだとか。
「お魚? 出せば食べる位で特別好きって訳じゃないよ」
ふむ……どうやらファナは魚は好きでも嫌いでもないようだ。
何が好きなのかって……なんで俺はこんな考えをしているのか俺自身がわけわからない。
「ただ、どこかの川で魚捕りして焼き魚を食べるのも美味しいよね。ちょっと懐かしい」
「そうか、じゃあどこかで機会があったらやってみるのは良いかもな。ロネットもそれくらいは許可してくれるだろ」
「うん。それじゃそろそろ行こうかー」
「ああ」
ちなみに俺達は刑務所暮らしの癖で使用したベッドの清掃を行ってしまっていた。
出来る限り小ぎれいにってね。
こうしてゆったりとした朝食の時間は過ぎ、宿の部屋を出て俺達はロネットの所へと合流した。
「おはようございます。ファナさん」
「おはよう」
「やあやあ、お二人とも、昨日は大変だったけど調子はどうだい?」
待っていたとばかりにロネットとルアトルが宿の受付前で座って待機していた。
「悪くはない」
「悪くても仕事はあるでしょ」
「まあ、アキヒコはともかくファナはそうみたいだね。体調管理が大事なんてのは囚人には贅沢な話ってのは辛いもんだね」
「ええ、是非とも良い管理官様に巡り合うのが外出時の囚人の喜びじゃないかしらね? 私はもう少し使い潰されるくらいが丁度いいけど」
「ふふふ……元気すぎるのも厄介なもんだね、君は」
「うふふ……」
だからどうしてこの二人って仲がいいのか悪いのかわからない笑顔の攻防みたいなやり取りを毎度するのかね。
ロネットがそんな両者を見て引いてんぞ。
「えっと……」
「ルアトルの所じゃあれが毎回のやり取りだぞ」
「そ、そうなんですか? ルアトルさん、ファナさんにそんな口調で話すなんて……」
らしくないって様子でロネットがルアトルに尋ねるけどルアトルは黙って微笑むだけだ。
まあ目隠ししてので口元だけで判断してるんだけどさ。
「ファナはなんでルアトルを相手に言い返してんだ?」
「んー……内緒」
だからお前ら話せよ。
実は仲いいんだろ。
「まあ軽いやり取りはこれくらいにして今日からやる次の依頼、君たちの奉仕作業内容を説明しようか」
「ああ」
「何かしらね?」
ルアトルが羊皮紙をロネットに差し出す。
「えー……魔物使いギルドからの指定応援要請のようですね。里親に懐かず脱走したジャイアントアルミラージの捕縛だそうです。この辺りに出没しているとの話ですね」
「捕縛って、そう簡単に出来るのか?」
「そこは昏倒させてでも捕獲しろって事でしょ。殺さないようにしないといけないのが面倒だけど出来なくはないよ」
「ファナは出来るのか?」
「ジャイアントアルミラージくらいなら自我を失う前に抑え込めるかなーたぶん。多少の攻撃は良いんでしょ?」
「みたいです。殺さないように捕まえてくれれば良いそうです」
ルアトルは魔法使いらしいし、ファナの方も経験があるか。
「里親に懐かずとか……やっぱ魔物使いって職業はクソだな」
所詮は魔物って事だ。
本業にしている奴がそんな魔物をおめおめ逃がすとか、やはり魔物使いなんて職業は使えないって事だ。
俺を含めてな。
「アキヒコさん、貴方の職業でしょうに……いえ、それ以上言う気はないですよ。じゃあ行くのは良いのですけど……この依頼書に同封されている毛を元に探せって事ですか?」
「そのようだね。魔法で探知する手掛かりにもなるけど……ファナ、君の嗅覚でどうにか出来るかい?」
ファナは犬か何かか?
なんて思うけどファナは件の毛を受け取って匂いを嗅ぐ。
「んー……」
っと眉を寄せながらなんで俺の方を見るんだ?
「この匂いを嗅いだら追えば良いのね」
「わかるのかよ!」
「そりゃあ彼女はリープッドだからね。バーサーカーでも身軽で罠の発見、匂いの追跡なんてお手の物だろう?」
「まあね」
そりゃ便利な事で、とにかくファナの嗅覚を頼りに目的のジャイアントアルミラージを見つけて捕まえればいいのね。
「それじゃあ行きましょうか」
「わかった。それじゃあ行こう」
こうして俺達は出発した。
泊まっていた街から出て、ファナと一緒に周辺の捜索を行う。
その途中での事。
「ピ」
「ピーピー」
「ピー!」
ポヨンポヨンとレッドとオレンジジェリームが何処かの冒険者に倒されたらしき大型犬並みの大きさをした芋虫の死肉を貪っている所に遭遇した。
ジェリームという魔物は生息地域にあるゴミなどを食べる性質を持った奴で雑食だ。
反吐が出るな。汚物生命体め。
「ふん!」
俺は腕輪を構えて死肉に貪るジェリーム共にマジックショットを放って吹き飛ばす。
「アキヒコさん!?」
「ピー!?」
「おやおや」
俺の魔弾を受けて吹き飛ばされたレッドジェリームが目つきを鋭くさせてこっちに接近しようとするのを立て続けに魔弾を放って仕留める。
「ピイイイイ!」
「死ね」
バビュン! っと水風船が割れるような音と共にレッドジェリームは砕け散った。
「……」
流れるようにオレンジジェリームに魔弾を放って同様に仕留める。
そうして死肉に群がるジェリーム共をすべて駆逐することに成功した。
チッ……経験値が没収される所為で数匹倒しても雀の涙か。
やはり刻印を着けられる前より遥かに少ない。
元々雑魚魔物だからか徴収できる量も少ないっぽいけどな。
大物を倒しても大して得られないなら雑魚を狩って数で誤魔化すか……。
俺は破裂したジェリームに近づいて破片をさらに踏みつけて散らす。
これがライムの親族とか血縁とかだと思うと少しは鬱憤が晴れるな。
今日は枕を高くして眠れる。