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30 乱入


「ヒーリングサークル! お前だけが回復できると思うんじゃねえぞ!」

「ちいい! これでも食らいなさい! ホーリーバースト!」


 マリーゼが武器に手を添えて光を集めて俺目掛けて放とうとする。

 間違いなく大技で広範囲攻撃と見た!

 今だ!


「セイフティサークル!」


 マリーゼの足元目掛けて防壁を発生させるセイフティサークルを展開、本来は敵の攻撃を受け止める結界だけどこんな状況で放ったらどうなるかね。


「な! ギャアアアアアアアア!?」


 バキンと轟音を立ててセイフティサークルは瞬時に砕け散るけどマリーゼの放った大技は着弾点で大きく炸裂した。

 つまりマリーゼ自身にな。


「ぐううう……調子に乗ってぇえええええ! 私をこんなにした報いを絶対に受けさせてやる!」

「それはこっちの台詞だヒス聖女!」


 マリーゼも締め付けに対して回復魔法で対処するが、元から締め上げている個所に掛かる回復魔法だからな。

 幾ら傷が治っていても継続的に発生する痛みは無くならない。


「痛い……いたい! いたいいたいいたい!」


 やがて痛みに耐えかねてマリーゼが腕に手を当てて杖を取り落とした。

 チャンス!

 そう思って杖を蹴り飛ばそうとしたその時――。


 ぼん! っと俺の脇腹に激痛と爆発が発生して吹き飛ばされる。


「な――」


 吹っ飛ばされた俺が見たのはギャラリーに居たギルド職員たちが俺目掛けて魔法を放っている姿だった。

 同時に俺の刻印が作動して胸を締め上げる激痛が走る。

 刻印の痛みの規模は今までの非ではない程強い!


「うぐうううううう……」

「大丈夫ですか! マリーゼ様!」

「囚人の分際でマリーゼ様に乱暴狼藉を働くとは! 身の程を知れ!」

「このギルド内で聖女であるマリーゼ様への乱暴狼藉! 罪が増すと思え! 刻印起動をもっと強めろ!」


 職員が囚人用の刻印起動の道具らしき四角い何かを握りしめている。管理者や看守以外もそういった道具を持っているのかよ。

 決闘で相手が不利だから起動させたってか?

 痛みよりも怒りが込み上げてきた。


「ふざけんなぁあああああ! その女が決闘を申し込んで来てお前ら黙って見ていた癖に風向きが悪くなった途端それか!」

「ふふん。何を言ってるのかしら? 私は犯罪者に身の程を教えてあげるってお仕置きをしていたにすぎないのよ。アンタ如きがこんな真似をして良いはずないじゃない!」


 ぐううう……職員にやられた脇腹がひどい火傷になっている。

 刻印も心臓を握りつぶさんとばかりに起動してるけど、そんな痛みよりも怒りがどんどん込み上げてくる。

 なんなんだよ。

 本当、何なんだよもう! 俺が一体何をしたってんだよ!

 ふざけんな! 異世界に来る前からそうだけど、俺が何か悪い事したか?

 やっても無い事で村中にいちゃもん付けられるわ、異世界になんか勝手に巻き込まれて行くわ、村中が持ち上げられて追い出されるわ、魔物には裏切られてやっても無い罪を被される。連行中に村中を始めとした街の連中には石を投げつけられ罵られ。

 しかも刑務所で毎日毎日血反吐を吐くような拷問されて、骨が何度も折られては治されて、運よく刑務所の外に出て大物を倒す手伝いをして……俺、何か悪い事したか?

 褒めてくれとか言う気はねえよ。けどさ……頑張って、どれだけ虐げられたってやって行こうとしたんだぞ。


「まったく、私の指輪を盗むなんてとんでもない犯罪者ね! しかも私の肌にこんな食い込む腕輪をはめさせるなんて! 私にした無礼だって許せるもんじゃないわ!」


 職員たちがマリーゼに嵌めさせた腕輪を強引に引きはがし始める。

 腕輪がひどく傷つけられる痛みも加算されて俺はその場で転げまわった。

 ギルド職員が俺を力づくで腕を逆手に回させて抑え込んだ。


「ちゃんと余罪を確認するのよ! この指輪はね! 私のだけど仲間に拾わせに行かせた物なの。きっとこいつが隠していた魔物に私の仲間を殺させてギルドで換金出来ると思って持ってきたのよ!」

「そんな事……してない。ふざけんな! なんでも俺の所為にするんじゃねえよ!」


 なのに変ないちゃもん付けられて一方的な攻撃しか認められない勝負をさせられた挙句、更に妙な罪状が追加されるとか!

 刑務所に入っていた俺にそんな事出来る時間がある訳ねーだろ!

 本当、何なんだよ! やってらんねえよ!

 あーもう限界! もうやめた! 

 ルナティックムーン? エクリプスムーンで魔王が復活する? 大いに結構、お前らみんな死ねよ!

 もう知ったこっちゃねえよ!


 と、意識を放とうとした次の瞬間――。


「ガァアアア!」

「ふべ――」


 影が人込みを飛び越えて素早くやってきて、ゴス! っと音が響き渡り俺を抑え込んでいた職員が吹き飛ばされる。


「な……」

「は?」

「ほんの少し目を離していたら、随分と……ふざけた事をしているようね」


 そこに現れたのは周囲の温度が熱いのか冷たいのかわからない程に殺気を放ち、怒りに拳を握りしめたファナだった。

 ファナは吹っ飛ばした職員を蔑みの目を向けつつ転がる俺へと寄って容体を確認、マリーゼの方へとゆっくりと、強く地面を踏みしめて歩き出す。


「ちょっと、何なのよ! アイツは!」

「どこの誰だか知らないけど、アキヒコに対して酷いことをしたみたいね。私、この職業に就いてからここまで怒ったのは三回目なんだけど……あなたは私の怒りを受け止められるかしら?」

「み、みんな! この囚人を取り――ぐが――!?」


 ブン! っとギルド職員がファナに向けて拘束の指示を出そうとした直後、足枷に着いていた鉄球が高速で横に薙ぎ払われる。

 その一撃で近づいていたギルド職員が吹っ飛ばされてノックアウトする。


「囚人が……これだけの狼藉を働いて刻印が作動しないと思っ――ふべ!?」


 バチバチと刻印から放たれる赤黒い雷がファナの全身を駆け巡るが、ファナは知った事ではないとばかりに一歩、また一歩とマリーゼ目掛けて歩みを進めて行く。

 刻印の起動で勝利を確信していたギルド職員がそのまま殴られて昏倒する。


「悪いけど、心臓を潰されたって今の私は止まらないわよ?」


 ドシン、ドシンとファナはマリーゼの前にまでやってきて、へたり込むマリーゼを蔑みの瞳で見つめた。


「……」

「何よこのリープッド……何なのよ! いや、アンタ見覚えがあるわ! ノリスケ様が見どころがあるってお誘いをした囚人じゃない! どうしてノリスケ様に選ばれたアンタがこんな奴に肩入れするのよ!」

「ああ……あの下心丸出しで私を態々呼んだ人の仲間なの? 私に人の姿になれとか胸を揉ませろとか妾にしてやるとか不愉快な事を言ってたから一発軽く叩いただけで気絶とか、一体なんなの? アレ」

「勇者となるノリスケ様に何やってんのよアンタはぁあああああああああ!」


 ファナの返答にマリーゼが激高してセイントビームを力の限り放つ。


「……」


 放たれたセイントビームをファナは裏拳で跳ね飛ばした。

 跳ね飛ばされた先にあるギルドの壁が貫通して外が見える穴が開く。


「ああ……あああ!?」


 弾かれたセイントビームの後を見て、恐怖におびえながらマリーゼは恐慌状態でホーリーボールをファナに向けて放とうとして、その手を叩き落とされる。

 それだけで嫌な音が響き渡り、マリーゼが痛みに悶絶した。


「ギャアアアアアアアアアア――!? 痛い、痛い……誰か、この無礼者をどうにかして! さっさとこいつらを死刑にするのよ!」 

「へぇ……見た所、貴方偉い人なんでしょ? なら貴方を殺せば私も今度こそ即刻死刑にさせてもらえるかしらね……そうだったら喜んでするけど?」

「ヒィイイイ! 私に、こんな事して許されると思ってんの!? そうよ! 私を傷つけたらアンタじゃなくてアイツをもっと酷い刑務所に収監させてやるわ」

「はぁ……どこまでも醜い……それ、私が何もしなくてもするでしょ? そんな事、させると思う?」


 ファナはマリーゼの手からすり抜けた俺の腕輪を拾い上げて……渡していたヒールシロップを漬ける。

 ひんやりとした感覚と共に腕輪の傷ついた痛みが引いていく。

 そして……痛みで転がる俺の傷口にも残ったヒールシロップを振りかける。


「まだ……アキヒコの痛みが……」


 そしてファナは、マリーゼが落とした、解除された小さな杖を拾い上げ……特殊武器へ変化する。

 それは元が小さな杖だったはずなのに大きな杖の形状をした特殊武器だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 一般的な制度を知っているはずであろうギルド職員がこれとか・・・ この国で魔物使いのイロハを教わるのは、よほどの幸運がない限りは無理ですな・・・。 聖女(心底から頭がおかしい)はきっちりとや…
[一言] やっちゃえ、バーサーカー!(CV:門脇 舞以)
[一言] 聖女(笑)ェ…。 よりによってバーサーカーを本気で怒らせるとは…。 リープットにセクハラするポンコツニート勇者は甲冑悪役令嬢にどついてもらったほうがいいかもしんない…。
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