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03 懐き


「な、なんだ!?」

「気を付けて! ミドルワームです! 見たところ皆さん戦闘の心得がない様子、私達の後ろから出ないで」

「ヒィイイイ!?」


 舐め切った態度を取っていた村中が突如現れた異形の化け物を前に腰を抜かして座り込む。

 ロネットさんたちはそんな俺達を守るように前に立ち、各々武器を取り出して戦い始めた。


「ホーリーボール!」


 そして手から光の弾を出して大きなミミズの化け物にドカドカぶつけていった。


「ミドルワームなんて大したことがない相手だけど後ろの連中に怪我なんかさせられないもんな」


 って言いながら仲間の戦士っぽい人物が大きなミミズに剣を振りかぶって切り裂いて仕留める。


「よーし楽勝。君たち大丈夫?」


 目隠しを付けた魔法使い風の少年らしい人物がこちらの怪我が無いか尋ねてくる。


「あ……ああ」


 戦いなれた動きをしているロネットさんたちに絶句して見ていた職場の連中を他所に俺が応じる。

 村中が腰を抜かしたこと以外は特に問題は無い……はず。


「な、なんだんだ! あれは! 一体なんだ! おい!」


 驚きながら村中はミミズの化け物の死体を指さして声を上げる。

 こんなもんが出てきたら日本じゃないってのは信じるしかなくなっちゃうよな……話が早くて助かったと思うべきなんだろうか。


「冗談じゃないって事でしょ。村中課長」


 ここでドヤって訳じゃないけど信じるしかありませんよって感じで俺は村中に向けて言ってやった。


「こんな化け物が当然のように出てくるみたいですし、ロネットさんたちも俺たちを保護したいようですから同行しましょうよ」

「そ、そうだな……ここは危険のようだ。安全な場所に連れてけ」


 こんな所でも偉そうなのは何なんだよ村中、助けてもらった癖にさ。


「信じて下さりありがとうございます。では着いてきてください。ようこそ、異世界からの来訪者の皆さん」


 と言う訳で俺達はロネットさんたちは俺たちを連れてゾロゾロと草原にある街道へと導かれ、その街道を進んだ先にある街へと向かった。

 その道中。


「おい! いつまで歩かせる気だ! 休むぞ! 腹が減った!」


 村中が歩き疲れたと言って勝手に転がっている手ごろな石に腰かけて休み始めた。

 どうした村中、お前、営業で歩きっぱなしになることはザラだとか説教こいてた癖にこの程度で休むのか?

 まあ……又聞きだけどまともに営業なんてしてなかったと聞くけどさ。


「……少し休憩にしましょうか。これ、少ないですが私たちの食料ですので皆さんで分けて食べてください」


 ロネットさんたちが食料として……お、サンドイッチをくれた。


「早く寄こせ! なんだ、その程度しか寄こさないとはどういうことだ! 俺が代表なんだぞ!」


 村中がここで他の連中より多く寄こせと注文しているけどロネットさん達は事務的に渡してくれる。

 ま……わがままぶっ放している村中を気にしていたら何時まで経っても進めないから当然か。


「ふう……」


 俺も近くの岩に腰かけ、サンドイッチを齧る。

 食感がやっぱり違うな……パンが硬めで風味が強い、クセがある感じだ。

 肉も塩気が強いから好みが分かれるだろう。

 口に合わない訳じゃないけど、まだそこまで腹が減ってないのでちょっと多く感じる。


「ピー」

「ん?」


 ピョンピョンと……半透明のボールみたいな魔物が一匹、俺の近くまで来た。

 思わず立ち上がってロネットさんたちへと視線で助けを求める。


「あ、大丈夫ですよ。そのジェリームは襲ってくるような魔物じゃないんで、警戒する必要は無いです。あんまり強くもないですし」


 野鳥とかそんな扱いなのかな?

 ジェリームって魔物が俺が近くを通っているのに特に敵意など無く跳ねている。

 オンラインゲームとかで言う所のノンアクティブな魔物って事なのかな?

 それとジェリームって俺の日本のゲーム知識経験で言うとスライムだな。本来のTRPGにおけるスライムってもっと粘菌みたいなもので触れた物を酸で溶かす厄介な魔物らしいけど、日本のゲームに登場するスライムは割とかわいい見た目で最弱の魔物ってイメージだ。

 ジェリームもそれに近い弱い方の魔物っぽい。

 ジェリームの一匹が俺に近づいてきて食べているサンドイッチを見て涎を垂らしている。

 腹が減っているのかな? それとも単純に美味しそうに見えるのか。


「食うか?」

「ピー?」


 くれるの? って感じで顔を斜めにさせる動作が、なんともかわいげがあるな。

 良いぞ。

 サンドイッチを一つ、ジェリームの口元に差し出すと恐る恐ると言った様子でジェリームは俺からサンドイッチを受け取って頬張る。

 モシャモシャとサンドイッチを食べるジェリーム。


「ピー!」


 美味しいって感じで目を輝かせ、体で喜びを表現して跳ねる。

 それはよかったな。


「ピピー!」


 警戒心が無いのかそのまま俺の隣に来てすり寄るジェリーム。

 おお……かわいい所があるじゃないか。

 ビーチボールと水を合わせたような……うん、おもちゃのスライムをもう少し硬くしたような肌触り。


「ピー!」


 ムシャムシャとサンドイッチを食べるジェリームを撫でつつ俺は水筒の水を飲んで食事を終える。


「さーて……そろそろ休憩も終わりみたいだ」


 村中が立ち上がって歩き出したのを確認した所でロネットさんたちが案内を再開する様だ。

 移動するとピョンピョンとサンドイッチを上げたジェリームが付いてくる。


「もうサンドイッチは無いぞー」


 ほらほら、帰りなさいと適度に手を振る。


「ピー!」


 ピョンピョン! って跳ねて感情を体で表すジェリーム。機嫌が良いのはわかったよ。

 これは懐いているって事で良いのかな?

 ジェリームに近づいて屈み、おもむろに抱きかかえてみる。


「ピー」


 おお、そのまま抱きかかえられたぞ。敵意ある感じじゃない。


「どうしました?」


 ロネットさんがジェリームを抱えて歩く俺に気づいて声を掛けて来た。


「なんか抱き上げることが出来ちゃって」

「まあ……懐かれてしまったんですね」

「そうなのかな? どうしたら良いでしょう? やっぱりこのまま置いて行くべきでしょうか?」

「少し待ってください」


 ロネットさんが俺に何やら手をかざしている。

 ふわりと何か風が掛かるような不思議な感じ。


「なるほど……あなたなら連れて行っても良いと思いますよ」

「そうなの?」

「ええ、大丈夫ですので、この子が気に入ったなら連れて行っちゃいましょう」

「ピー!」


 なんかジェリームも元気よく鳴いている。

 そのまま俺は成り行きでジェリームを連れて行くことになってしまったのだった。




 街に着いた。

 うわー……なんていうか中世っぽいとしか言いようがない外国の街並みと、空を飛ぶ船みたいな乗り物を前に、異世界の来たってのをマジマジと見せつけてくれる。

 サラリーマンになって、こういうのは物語の中だけだって割り切っていたけど心躍る出来事だなぁ。


「皆さん。ちょっと待っていてください」


 ロネットさんがそういうと街の中の……大きな教会のような建物に入って行き、しばらくしてぞろぞろと団体で人たちがやってきて俺たちを出迎えてくれた。

 それから空飛ぶ船に乗って……王都って所の大きな教会にまで案内された。

 この道中での事だ。


「うわー……本当に空飛ぶ船だよ。ゲームの飛行艇に乗っちゃった気分」

「ピー」


 俺の近くで成り行きを見守るジェリームは俺の真似をして付いてくる。

 特に暴れるような様子はない。


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