27 締め上げ
「ギョオオオ!」
ドバァ! っとグレートマッドサラマンダーがファナ目掛けて泥を吐きつける。
「ニャアア!」
その泥攻撃をファナは避けて飛び掛かりって反撃しては距離を取る戦いをしているけど……。
「ニャアア……ガアアアアアアア!」
「おーウォークライ、更に力を上げてくね。それでも決定打にはなってないようだけど」
雄たけびを上げたファナが爪を出してグレートマッドサラマンダーに切りつけを行う。
その爪の攻撃でグレートマッドサラマンダーの皮膚を切り裂くことは出来たけれど、まだ浅い。
ファナのスタミナが持つかグレートマッドサラマンダーのスタミナが持つかという状況だ。
正面から攻撃を下手に受けたら骨が折れるほどの強力な魔物の攻撃……ファナは今回の戦闘で死線をどれだけくぐっているんだ?
俺はただ周囲の手当てをして見てるだけしかできないのか?
何か……何か手はないのか?
そう思って腕輪を見る。俺の武器の使い方……マジックショットや近接攻撃は歯が立たない。
腕輪……ファナ……初めて会った日の出来事が脳裏を過った。
一か八かやるしかないか。正攻法が通じないなら奥の手だ!
特殊武器が腕輪の俺だからこそできるファナへの手助けだ! その為には……使わないと決めていたけどやるしかない。
「ルアトル」
「なんだい?」
「グレートマッドサラマンダーの足止めとかできないか?」
生憎と俺はバインドウェブは使えなくなってしまっている。まあ、使えたとしても使う気は毛頭ないが、俺が前に持っていた手札だったので勝手はわかっているんだ。
「何かするつもりかい?」
「良いから答えろ」
「相手が相手だからね……2秒くらいなら止められるかな」
「それだけあれば十分だ。俺の指示したタイミングでやってくれ」
「あんまり無茶はするもんじゃないけどね。ファナなら勝てるかもしれないじゃないか」
「ここで見てるだけってのは後味が悪そうなんでね。それに……倒せたらそれだけ強くなれるだろ」
「おやおや、野望は大きいようだね。試しに頑張ってごらん」
そう言ってルアトルは魔法の詠唱を始める。
「お前! 何をする気だ! あの中に入って行くのは無茶だ!」
「死ぬぞ!」
「別に中に入って戦うって訳じゃねえよ。少しでも勝ち目を上げたいだけだ」
刑務所暮らしを舐めんじゃねえぞ!
俺は激戦をしているファナとグレートマッドサラマンダーの視界に入らないように岩などの影に隠れながら近づき機会を伺う。
「ガアアアアア!」
うお! ファナの振り回す鉄球が頭を掠めたぞ。
本当、バーサーカーの雄々しい戦いって感じで争ってやがる。
「ギョオオ――」
ゴボォ! ッとグレートマッドサラマンダーが泥を吐いてファナに浴びせかけようとしたが避けられる。
おーし、遮蔽物確保。
積っている泥を遮蔽物にして更なる接近……下手すりゃ巻き込まれるところまで来た。
俺は片手を上げて、サインの準備をする。
「ガァアアアア!」
「ギョオオオ!」
グレートマッドサラマンダーの突進を空中で受けたファナだったが、空中で受け身をしっかりと取ってダメージを軽減している。
ドバァ! っと周囲の泥やしぶきが飛び散る戦場で呼吸を整える。
尻尾を振り回す攻撃をされたら俺も巻き込まれかねないな……。
タイミングは、泥を吐こうとした瞬間だ。
狙いを定めて足を止めるからわかりやすい。
「ギョボオ――」
今だ!
俺が指さして泥の影から飛び出す。
「アイシクルプリズン!」
ルアトルの放った氷の魔法がグレートマッドサラマンダーの足元で発動し、足場が凍り付くと同時にグレートマッドサラマンダーの手足が縫い付けられる。
「よっ! ほっ! はぁああああ!」
硬くなった足場からそのままグレートマッドサラマンダーの背中に飛び乗り腕輪を限界まで広げてグレートマッドサラマンダーの頭に通して首に掛けて勢いのまま転がり逃げる!
「ボオオ――!?」
泥を吐きつけたグレートマッドサラマンダーは一瞬の隙に驚愕の声を上げていたな。
即座にルアトルの放った拘束魔法は砕け散る。やっぱりそこまで長く効果は維持できないか。
そしてグレートマッドサラマンダーは自らの首に輪が掛けられた事に気づき手を伸ばすが――。
「ガアアアアアア!」
その隙だらけな姿をファナが見逃すはずもなく飛び掛かって引っ掻きと噛みつきを行う。
「ギョオオオ!」
雄たけびを上げて怒りを露わにグレートマッドサラマンダーはファナに迎撃を行うが既にファナは距離を取って力を貯める。
俺は急いで二者の攻撃の射程外へと距離を取り、グレートマッドサラマンダーに掛けた腕輪に意識を向けて締め上げる。
ギュウウウウウ……っと腕輪が締まり始めグレートマッドサラマンダーの首がどんどん細くなり始める。
「ギョプ――オオオオオ!」
グレートマッドサラマンダーは首が絞められて苦しいが手を腕輪に回せば隙とみられてファナが懐に入って拳を振るう。
「うぐぅううう……」
如何せん格上の魔物だから抵抗が強すぎて無理な締め上げで腕輪を通じて痛みが走ってくる。
ただ、それでも効果は……徐々にだけど効果的だった。
「ギョボ――!?」
泥を吐き散らそうとしたグレートマッドサラマンダーだったが締め上げている腕輪の部分に引っかかって泥を吐けずにいる。
しかも呼吸さえもし辛くなり、ぜーぜーと息を切らし始めた。
「ぐぬぬぬ……」
「ガォオオオオオ!」
ファナが全身の体毛を逆立たせて膨れ上がり、力の限り地面を殴りつける。
すると地面にエネルギー上の亀裂が入り、グレートマッドサラマンダーに命中する。
「おーアースブレイクだったかそんなスキルだったか大技だね」
「ギョオオオ!?」
呼吸困難な状況で溜まらず大技を受けてグレートマッドサラマンダーはのた打ち回りって怒りの形相を見せて起き上る。
俺の腕輪の締め上げもしっかりと、首に食い込みを見せる位まで行ったぞ。
ルアトルも魔法を放ってファナの戦闘を援護するのを継続。
やがて……。
「――!! ――!」
呼吸困難になったのか目に見えて動きが鈍りファナとの戦闘よりも呼吸をするために広げようと食い込んで外すのが困難になっている腕輪へ手を何度引っかけようと試みていた。
しぶといな……呼吸が出来なくなってもう20分は死闘をしてやがる。
「ガアアアアアアア! ガア!」
そんな弱り切ったグレートマッドサラマンダーの眉間目掛けファナはトドメとばかりに拳を強く握りしめて跳躍、力の限り殴りつけた。
直後、バキっとファナの拳から嫌な音が響きながら鮮血が飛び散る。
「ギョ……――」
ギュウウっと首に掛かっていた力が急速に弱まり、グレートマッドサラマンダーは白目を向いて轟音を立てて沼の中へと倒れ込んだ。
ググっと経験値が入る。
さすがの大物だからか随分と経験値が入ったな。Lvが上がったぞ。
カッと何かが腕輪の中に吸い込まれるのを感じる。そして俺の意識に合わせてグレートマッドサラマンダーの首を絞めていた腕輪は離れて俺の手元に戻って来た。
お……Lvアップの影響で二つ目の腕輪が出せるようになった。
「こ、この少人数でやっちまったよ」
「すげぇ……」
「さすがはバーサーカー……」
逃げて来た冒険者たちがそんな俺達の成果に驚愕の声を上げる。
「ガアアアアアアア!」
ファナはグレートマッドサラマンダーの上に立って雄たけびを上げる。その腕は折れて血に染まっていた。
雄々しいなんて次元じゃないぞ。狂戦士とはまさにこのことだとしか言いようがない。
あれがバーサーカーの戦いか。
制御できないけどその分、強力か……。