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26 グレートマッドサラマンダー

「野太い……」


 それってどんな悲鳴だ? 野郎の悲鳴って事だろうか?


「ちょっと待って」


 ルアトルが耳に手を当てつつ何やら魔法を唱える。


「……何か大物に誰かが襲われているみたいだね」


 大物ね。今の俺達は探せど見つからない指輪を探している訳だけど。


「どうするんだ?」

「そりゃあ当然、確認だね。ボケっとしてたらこっちに火の粉が掛かりかねないからね」

「助けに行く、とかじゃないんだな」

「手に負えるか確認してからじゃないと判断できないでしょ?」


 まあ、そうか。


「あっち」


 ファナの指さす方向に俺達は向かう。

 すると……負傷した冒険者らしき一行が命懸けとばかりに20メートルはありそうな泥を纏ったサンショウウオみたいな魔物、グレートマッドサラマンダーと言う魔物から撤退している光景に出くわした。

 あそこまで大きな魔物もいるんだよなー……ライムと一緒に居た頃に数回だけ遭遇したことがあった。


「ギョオオオオオオ!」

「うわあああああ!」

「はぁ……はぁ……た、助けて! だ、だれか!」


 おお、足早いな。沼地で泥濘がちな道だから冒険者は足を取られがちで徐々に距離を詰められている。


「で、監理官様、どうします?」


 若干皮肉を込めて聞いてみよう。今の俺が勝てる相手じゃない。

 この辺りのボスって位、格上の相手だ。


「んーグレートマッドサラマンダーとなると相応に準備しないと厳しいね。あんな魔物がこんな所に出現していたとは依頼書には全く記載されてなかったよ」

「逃げてる人たちはどうするの?」

「ファナ、どうにか出来るかい?」

「命令とあらば従うまでよ」

「頼もしいねーんじゃ彼等が逃げられるように助力して上げよう。僕は魔法を唱えるからその間、注意を引きつけておいて」

「了解」


 ファナが地面を強く蹴り、身軽に跳躍しながら逃げる冒険者と追うグレートマッドサラマンダーの頭目掛けて飛び上がって踏みつけた。


「ギョブ――!?」


 目の前の獲物とは異なる所から攻撃を受け、グレートマッドサラマンダーは頭を地面にぶつけて勢いで後ろ足が上がって転がった。

 ファナはその隙から再度飛び上がって距離を取る。


「あ、あんたは」


 冒険者たちが息を切らしながら振り返って乱入したファナに声を掛ける。


「私が注意を引きつけるからあっちへ」


 ファナは冒険者たちに俺たちの方を指さして逃げ道を誘導する。


「ギョオオオオ!」


 乱入したファナに意識を向けたグレートマッドサラマンダーは雄たけびを上げながらファナに向かって泥を吐きつけてくる。


「ニャアアアア!」


 ドチャっと飛んできた泥をファナは横っ飛びで避け、その隙に懐に潜り込んで腹に拳を叩き込む。

 ドゴォ! っと音がしたのだけどグレートマッドサラマンダーは効いて無いとばかりに手でファナに向かって殴りかかる。

 片手でグレートマッドサラマンダーの拳を受け止めたファナはもう片方の拳で受け止めた手を殴り返して離れた。


「オラオラ!」


 マジックショットを放って俺も攻撃をするのだけどビクともしない。グレートマッドサラマンダーの皮膚に着いた泥がわずかに飛ぶだけで全然ダメージが入ってないぞ。

 くっそ……。

 で、ファナの様子なのだが攻撃を受け止めた片腕が折れたのか変な方角に曲がっている。


「……」


 痛みは知らんとばかりに形を整え……筋肉で固定したとばかりに腕に力を込めて形状維持をしている。

 いや、無茶すんな! どんな筋肉の使い方だよ。

 スキルで誤魔化してるのが分かるぞ!

 いざって時用のヒールシロップを取り出し、ファナの腕目掛けて投げつける。


「ん?」


 バリンと瓶は上手い事ファナの折れた腕に命中した。

 そのまま流れるようにファナの足元にヒーリングサークルを瞬間展開。


「おーなかなかやるねー」

「感心してないでさっさと援護射撃でもしろ」


 微力だけど回復効果がそこそこ聞いたのかファナはこっちの折れていたはずの手を軽く振って回復したと見せて再度飛び掛かる。


「にゃ……にゃああああ!」


 ぶわっとファナの体毛が膨れ上がり、地面を踏みしめて突進して殴りかかった。踏みしめた地面の泥が大きく跳ねる。


「ギョオオオ!?」


 うお……グレートマッドサラマンダーの顔が殴られた方向に大きく向いたぞ。

 さすがにダメージが入ったのは間違いない。


「ギョオオ!」


 殴られた怒りでグレートマッドサラマンダーは一回転して尻尾でファナに攻撃を仕掛ける。


「フシャアアアアアアア!」


 その尻尾の攻撃をファナは木の葉のように受け流しながら空中に大きく飛び上がり回転しながら足枷についていた鉄球を全身を使って振り回してグレートマッドサラマンダーの脳天目掛けて振り下ろす。


「ギョ!」


 良い感じの衝撃が響くけどそれでもグレートマッドサラマンダーに効果的なダメージを与え切れている感じはしない。

 鉄球は即座に引き寄せ、鉄球を片手にファナは着地、即座に急接近してグレートマッドサラマンダーの懐に入り込んで全身を使った突進を行う。

 ゴスッとダメージが入ったように見えるけれど、ファナの形相が……なんていうか理性なく暴れまわる猫を思わせる形相をしている。


「ガアアアア!」


 グレートマッドサラマンダーの腹に噛みつきを行い、噛み千切って肉を吐き捨てる。


「あれが理性を失ったファナ……か」

「敵味方の区別はつかない状況にもうなっているだろうから近寄らないようにね。じゃないと味方にやられちゃうよ」


 普段のボケっとしている姿は微塵も無い。

 今まで魔物との戦闘は即座に終わらせていたので理性ある戦闘が出来ていたのだけど……雄々しいとしか言いようがない。


「いやーあのLvであそこまでやれるってのは中々ないよ。さすがは理性を代償とした野獣の精霊をその身に宿した戦士だね」


 くるくるとルアトルは杖を振り回して掲げる。


「ファイアブラスター!」


 ルアトルの杖の先から赤い光の玉が精製され凝縮された熱線がグレートマッドサラマンダーに放たれる。


「ギョオオオオ!?」


 ファナを丸ごと食いつくさんと大口を開けて噛みつきを行おうとしたグレートマッドサラマンダーに強烈な熱線が命中し、口の中が焼かれて煙が立ち上った。

 おお……中々良いダメージが入っているんじゃないか?


「た、助かった」

「注意を引きつけてるから逃げるなりなんなりしてくれると助かるよ。ただ、彼女にむやみに近寄らないようにね」

「あ、ああ……」

「う、うう」


 怪我をしている奴が居たのでヒーリングサークルを展開して回復の手助けを行う。

 俺も何か出来ることはないのか?

 ルアトルの魔法も効果が切れて、再度詠唱に入っている。


「行けそうなのか?」

「ファナが良い感じに引き付けてくれているけど、今の状況だと決定打に欠けるね」


 ルアトルは逃げて来た冒険者たちに顔を向けて考える。


「君たちはどうする?」

「無理だ。今の俺達が敵う相手じゃねえ」

「接近したくでもバーサーカーが居る中で近寄って戦う事なんて出来ねえよ」

「う……」


 辛うじて歩けるようになったけど戦闘は無理なけが人もいる。


「ファナに任せて逃げるってのが無難な所なんだけどねー。問題は野獣が撤退してくれるかって所かな」

「それってファナは逃げもせずずっと戦うって事だよな」

「そうなるね。理性を失ったバーサーカーは周囲に動く物が無くなるまで戦い続けるから」

「チッ!」


 ファナの様子からグレートマッドサラマンダーは一人で勝てる相手かどうか非常に怪しい。


「いやー囚人を戦死させたら膨大な違約金を支払う羽目になるし、どうしたもんかね。避難させてから出来る努力はしなきゃいけないんだけどさ」

「刻印起動で抑え込めないのか?」

「刻印の痛みで我に返ってくれるか五分五分って所だね。しかも戦闘の邪魔になる訳だし逆に危険になりかねないよ」


 くっそ……ここはどうしたら良いんだ?

 俺が出来ることは手持ちのヒールシロップとヒーリングサークル、もしくはセイフティサークルを展開させるのが関の山だ。

 マジックショットはグレートマッドサラマンダーにカほども効果が無い。

 近接をするにしても俺じゃファナの足を引っ張りかねないし、敵味方の区別がつかないファナに俺が攻撃されかねない。


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