24 ゴミ掃除
元々タフなのは知っていたけどタフなのはそれが理由か。
しかも自殺を阻止する獣とか言ってたのはそれか。
「人間だと戦士系から派生する職業だね。その雄々しい戦いから傭兵とかが成ったりするね。ほかの戦士系より飛びぬけて力が出せるし強いけど、あまり好んでなる人は少ないよ」
ルアトルが補足してきた。
聞く範囲だと敵味方関係なく暴れるってんだから確かに扱いは難しそうだ。
「……好き好んでなった訳じゃない。選択肢がなかったから選ばざるを得なかったに過ぎないわー」
忌々しそうな口調でファナが続ける。
そうだな……一体どこの誰が職業選定をしているのか知らないが、俺にこんな職業を授けたのなら恨むぞ。
何が魔物使いだこの野郎。大切に育てた魔物が裏切るとかどうしようもないだろ。
「しかも私に憑依した獣の精霊は格段に荒ぶる精霊だそうでねー恩恵は凄いけどその分、他のバーサーカーより制御が出来なくなるのが早いの」
普段のボケーっとした態度とギャップがあるって事なのか。
「そんな訳で強靭な生命力と自己回復が勝手に掛かってすぐに傷が塞がるの……他にも理由はあるけど、厄介よね。あとが残る傷が出来ればまだマシなのに……はぁ」
ああ、だから俺の拷問を肩代わりしてもケロッとしていたのか。
瀕死の俺がヒーリングサークルで回復しきる前に全回復するくらいには自己回復能力が高いとか……羨ましい限りで。
「刑務所内じゃそんな暴れてない様に見えたけど」
「あの程度戦闘でもなんでもないよー出来る限り味方には手を掛けないように意識はしてるし……」
ぼんやりとした口調……投げっぱなしというかのようにファナは答えた。
「一瞬で終わる戦闘とかだと問題ないけどね。長く戦闘を続けると周囲で動くものが無くなるまで制御できなくなるって面倒な職業なの」
「仮に戦闘になったとしても遠くで戦って貰えば良いでしょ。落ち着く前にファナに近寄って殴り殺されないようにね」
「はいはい。つまり刑務所内のダンジョンで大活躍したのはファナだったわけね」
「この前のルナティックムーン辺りの話? 一人で掃除してたわ」
癖が強いね……本気のファナの戦いって奴がどんなのか知らんが一緒に行動するんだからいずれ見る機会は来るかな。
ふとここで思う。
きっとファナの罪状ってバーサーカーとして見境なく暴れて犯罪者として捕まったって所なんだろう。
実に犯罪者らしい職業って事だな。あまり同情はする必要はなさそうだ。
「ま、気にしないで行ってみよう」
囚人共の戯言とばかりにルアトルはそのまま依頼を進めて行く方針らしく、歩いて行ってしまう。
「魔物が多く出てきたら私を置いて逃げて良いからねー後から追うわ。監理官は私の居場所がわかるでしょうし」
そんなここは俺に任せろスタイルの戦闘もどうなんだ?
「刻印起動でどうにかなるんじゃないかい?」
「本気で暴れてる状態だと刻印で心臓を潰したってしばらく動けるって話があるよーその前に獣の精霊が悪さしそうよね……はぁ」
「ああ、そういった話が尽きないね。バーサーカーって、雄々しいと言うけど野蛮とか言いようがない」
「そうね。野蛮でしかないわねー」
「そのバーサーカーは君でしょ。野蛮なリープッドさん」
「家名で呼ぶよりそっちの方が私にはふさわしいわよ」
「ふふふ、すると思うかい?」
「家名でしつこく呼んだらビーストバーサーク・シャーマンがどんなものなのか身をもって教えてあげるわよ」
脅しにも聞こえかねないバーサーカー囚人の危険な話をファナとルアトルはしていた。
コイツ等、俺の知らない何かがあるのかもしれないな。
まあ別にどうでもいいが。
「薄らと寒い会話をしてるなお前ら」
「お褒めに預かり光栄だね」
「褒めてねえよ」
しかし……ファナはバーサーカーか。職業と人柄は異なるという事かね。
普段ぼんやりでいざって時に暴れるってのもそれっぽくないか? 戦闘以外で無駄なエネルギー消費を避けてるみたいに。
こう、幼さが前面に出てい戦闘時は自我の制御ができないってのもそれっぽいとは思うんだけどな。
ファナって死にたがりっぽい所はあるし普段はボーっとしてることも多いんだ。
二週間以上も隣室だった訳だしな。
そんな感じで刑務所から出てのどかに沼地までの道を進んで行く。
ふと思う……これがPTを組んでの行動って奴か……。
思えば最初に城まで案内される時はロネット達について行くだけだったし、城を追い出されての行動も……俺とライムとでの行動でまともにPTなんて組まなかった。
むしろPTは無くても良いんじゃないかって思っていたくらいだ。
「ルアトル」
「何?」
「魔物使いってどんな職業なのか知っているか?」
「誰かと組む事はあまりない職業だし。家畜魔物を飼育して卸す生産関連の人とは話をしたりするけど、それも戦闘に関してとなるとね……上位職となると猶更さ」
やはりそうか。
まあ、人に頼らず戦える魔物か居たらそうなる。
とはいっても下克上されたらたまったもんじゃないはずなんだがな。
依頼内容は沼地に落とした指輪の捜索だったか。
なんでそんな代物を落としたんだとか疑問は多々あるけど、ここで落としたかもしれないって事なのかね。
ザブっと沼地に入って泥を洗いながら手探りで探し始める。
囚人にだけ汚い仕事をさせて雇用者は優雅な見学でもしてるのかね? とルアトルの方を見ると魔法を唱えて周囲に光の玉を飛ばしている。
サーチ系の魔法か?
「アヒキコはそこを調べて。ファナはそっちの岩の下……何かある」
ああ、一応仕事をしてるのな。ルアトルも少し離れた所で杖を沼に入れて何か引っかけて出してる。
「外れ、折れた剣の破片みたい」
ファナがルアトルの指示した場所、沼地の岩の下に体を沈めて手を伸ばして取ってくる。
長毛種の猫っぽいから沼に入って泥まみれになっているのに汚れを物ともしない所業だ。
猫飼いだったら洗わなきゃいけないって頭を抱える姿をしてるぞ。
っと気にせず俺も沼の泥の中に手を突っ込んで何かを引っ張り出す。
先の曲がったスプーンが出て来た。
……ゴミだな。
こんな感じで沼の中に沈んだごみをどんどん拾っていくゴミ拾いの奉仕作業を魔物を倒しながら行う。
大抵魔物が接近してくるとわかるのでファナが先制で殴りかかって戦闘が終わり、俺の手を出す暇がない。
まあ……パーティーを組んでいるから俺にも少しばかり経験値が入るから良いんだけどさ。
やがて日が沈み始めた頃になるとゴミの山がうず高く出来上がる。
まだ目当ての指輪とやらは見つかっていない。
「一日で見つかるとは思ってなかったけど、中々の量のゴミが見つかったね」
どう処理しようかね、とルアトルがゴミの山を前にして言う。
割れたフラスコやコルク、破れた羊皮紙に折れた金属片、何か木で作られた箱の残骸とかいろんなゴミが沼地から出て来た。
これでここは遥か過去に何か文明の名残があるとかなら良いけど……どう見ても冒険者共が使わないゴミをその場で廃棄したようにしか見えない。
「ゴミは持ち帰るべきだというのに……嘆かわしいね」
嘆かわしいとばかりにルアトルがつぶやく。
「特殊武器でも精製武器にでも放り込めば良いんじゃないか」
ゴミだろうと武器に入れれば何らかのボーナスが反映されるだろ。
「アキヒコは異世界から来たからわからないのかもしれないけど、ゴミを体に入れるように感じて抵抗を持つのが普通なんだよ」
「そんなもんか? 魔物の死体も似たようなもんだろ……嫌なら俺が貰うぞ」
腕輪への攻撃でいろんな所にダメージを受けたから、特殊武器や精製武器は心の一部って考えもあるのかもしれない。
そこにゴミを入れるのは、そのまま汚れを入れる……心情としてはわからなくもない感覚だが、糞とか汚物じゃないんだから気にする必要ないだろ。
幾らゴミでも腕輪に収めれば多少なりとも解放ボーナスでステータスが上がるし。
まあこの世界の連中が嫌がるって言うんだ。ありがたくいただくとしよう。