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23 バーサーカー

 俺は刑務所の入り口で待機させられる。

 やがてやって来たのは……なんだ? 目隠しを付けた魔法使いらしき出で立ちの……少年がやってきた。


「アキヒコ……あの節はどうも」


 どうもと礼を言われても全く思い出せない。

 どこかで会ったっけ? こいつ。まったく印象にない。

 いや、どっかで見たんだけどわからん。


「誰?」

「うわ……酷いな。覚えてないのか」

「そういわれても知らん」

「僕の名前はルアトル=ウォルフ。君……じゃなく、異世界に来た人たちと出会った時に一緒に居たロネットの仲間だよ」


 と、目隠しの魔物使いは名乗った。

 いたのかお前……あの時いた奴だと戦士っぽい奴とかが印象的でロネットさん以外はかなり曖昧だ。

 少なくとも俺とはまともに話していないだろう。


「覚えてない」

「直接話すのは初めてだから……しょうがないって事にしよう。しかし、君も大変だね」

「はぁ?」


 それはどういう意味だ?

 覚えていなかった俺に対する皮肉か?


「まあ、物事はこんがらがって外野の方が騒がしい事もあるさ」

「お前は何が言いたいんだ」

「いや、まあ、気にしなくていいよ。とりあえず仕事を頼むよ」

「……アンタが一緒に仕事をする奴で良いんだな」

「そう。ああ、計3人での行動になるね」

「3人」

「うん」


 振り返ってみるとそこに居たのは……ファナだ。

 足枷に鉄球が付いたまま当然のように歩いてくる。


「君の提案は採用したよ。バーサーカーリープッドのファナ=ポシュ――」

「家名まで言わなくて良いし、態々フルネームを言おうとするのは嫌味?」


 冷淡にファナはルアトルの言葉を遮る。

 看守の場合はフルネームで呼んでも黙っていたけど不快そうだった。無駄な騒ぎを起こしたくなかったのか?

 そもそも家名を聞くのが嫌い……なのか?


「オホン……ともかく、僕が君を雇用した。依頼の内容は色々とあるけど同行してくれればいい。戦闘もあるだろうけどね」

「分かったわ」

「いやぁ。君たちに手伝ってもらって助かるよ。雇用した分はしっかり頼むね」

「はいはい」

「特にファナはね。所長がビシバシこき使えってこっちにお願いまでされちゃったよ」

「殺せば良いのに無駄に生かしている臆病者でしょ。生かす理由ってのがあって殺さないとか厄介よね」

「そんなに生きるのが嫌なら自殺はしないのかい?」

「偉大なる獣様が阻止して暴れちゃうからできないのよ。勘弁してほしいわよね」


 なんか笑顔で言葉の殴り合いをしてないかこいつ等?


「しかし、よく私を雇用しようと思ったわね」

「この編成ならどうにかなると思っているからさ。君が前衛、他は後衛でちょうどいいだろ? 期間は一応次のルナティックムーンまでの雇用で良いかい」

「囚人に断る権利なんてほとんど無いでしょ」


 ファナとルアトルの交渉はすんなり終わったようだ。

 囚人に断る権利はない……ね。


「それで次の条件提示だけどスキルの使用許可は……」


 と、ファナとルアトルは話を続けていく。


「アキヒコは魔物使いなんだっけ?」

「職業スキルを使うつもりはない。育てたって逆恨みした挙句冤罪まででっち上げて主人を刑務所にぶち込む魔物なんか使わん。武器スキルで戦う」


 何が魔物使いだ。くだらない!

 せっかく大事に育ててもこんな仕打ちをする魔物なんて必要ないだろ。ばかばかしい!


「資料通りだね……アキヒコがそれで良いのならそうしよう」


 俺が今使えるのはテイムカラーとマジックショットとヒーリングサークルだ。

 テイムカラーは毛頭使う気はないしマジックショットとヒーリングサークル……ルアトルは見た感じ魔法使い。

 回復役でどうにかなるか。


「使えるのはマジックショットとヒーリングサークルだ。強くなればセイフティサークルとポータルゲートが使えるようになるはずだ」


 少なくとも前と同じ力を得られるのならばだけどな。


「はい。では戦闘時にはよろしく。そこまで危険な魔物を相手に戦う予定は無いけどね……」

「Lvを上げられるならなんだっていい。どうせほとんど奪われるって話だしな」


 罪人の刻印で経験値の殆どを献上する制約が俺には課せられている。


「ルアトルはこの経験値制限を外せるのか?」

「そこまでの権限を持って無いよ」


 ……まあ元から期待してなかったから良い。

 まともに強くなる手立てがなかったんだ。やって行こうじゃないか。

 機会が無いよりは何倍もマシだ。

 そういう意味でルアトルには感謝している。

 ルアトルがそこで依頼書を取り出して広げて俺に見せた。


「依頼は近隣の沼地で指輪の落とし物を探すという物です。なんでも移動中に落としたのだろうという話でして……ついでにもう一つの依頼で、近隣の峠で増えて来た魔物の処理です。再出現が発生するギリギリまで頭数を減らすのが目的になります」


 沼地で指輪の落とし物ね。ついでに魔物退治と来たものか。


「あーい」

「では行くけど……二人共軽装だね」


 そりゃあ囚人服しか持ってないしな。

 刑務所内で厨房なんかで野菜の皮むきとか裁断とかする時に着替えたりするけど、あくまで支給品だ。

 装備が欲しけりゃ自分で調達とかするらしいけど俺は無一文で稼ぎは賠償金と言う名目で徴収される。

 こういう場合って管理者から支給されるものでどうにかするか現地で確保しろって奴だ。


「ああ、アキヒコにはこのローブね。僕のお古で少しサイズが合わないだろうけど着てて」


 渡されたのは低Lvの魔法使いのローブ。似たようなのを前に持っていたっけ。

 ローブ着てみる。少しは囚人っぽさが無くなったかと思ったけど胸の部分の模様がローブの上に浮かび上がった。

 ……囚人ですって事を現す奴くらいなのはわかる。


「武器はどうしたら良いかな?」

「使わないベルトとか希少な魔物の皮で作った紐とか無いか?」

「あるね。ストラトスローのなめし革のベルトが……」


 名前だけじゃわからないけど、ルアトルが服のベルトとして使う代物を出してきたので状態を確認。

 そこそこくたびれてるけど使えそうだ。

 ベルトを輪っかにしてから腕輪と重ねる。するとスッと腕輪がベルトと融合した。



 ストラトスローのなめし革の腕輪 ※装備Lv条件未満による性能低下

 専用効果 魔力増幅 風属性 素早さ増加(中) 陽炎

 武器スキル マジックショット ヒーリングサークル



 ミスリルの腕輪程じゃないけどそこそこ性能の高い腕輪になった。

 どうやら今の俺の強さでは性能を引き出しきれないようだけど初期の腕輪より性能が上がるだけマシだ。


「へーそれが君の特殊武器か。腕輪って所でどんな戦いをするのか気になっていたけど使いやすそうだね」

「輪っかなら大体どうにかなる」

「加工すればどんな素材でも武器に出来そうなのは便利だね」


 どうなのか知らん。俺は腕輪しか武器に使えないしな。


「手枷とかも重ねられるのかい?」

「所長様と看守に命令されて禁止されてる」


 金属製だから出来ると思ったけど腕輪ってわかってるから禁止事項に設定された。

 手枷を腕輪と重ねようとすると刻印発動する仕組みだな。

 なので手枷は単純な重りでしかない。


「ファナは?」

「無くても平気、今着てる服と自前の毛皮もあるし、武器って程じゃないけど手と足にはコレが付いているしね」


 と、ファナは拳を握りしめて言う。

 ああ、刑務所内でも基本的に素手でどうにかしてるもんな。

 爪出して石をゴリゴリ削ってたのは覚えてる。

 しかも鉄球が足かせについているな。

 刑務所じゃその鉄球を勢いよくスケルトン相手にぶつけていたっけ。


「そうかい。じゃあ行こう」


 こうして前衛のファナが先頭に立って俺達は移動する事になった。

 そこで俺たちと同じように連れ出される囚人達が俺たちを指さしてニヤついていた。


「おいおい。あそこの連中、バーサーカーリープッド連れてんぞ。すぐに出戻り必須だな」

「あー……あの噂の奴か。アイツ」

「ずっと刑務所にいりゃあ良いのにな」


 管理者と合わせてヘラヘラしているのをルアトルは不愉快そうに視線を向ける。


「バーサーカー……ね」


 そもそもリープッドってなんだ? ルアトルも言ってたけど。

 俺が首を傾げているとルアトルがファナとばかりに手を向ける。


「そ。私の職業は人間に当てはめるとバーサーカー。正確にはビーストバーサーク・シャーマン。その身に宿った荒ぶる獣の精霊が戦闘において表に出てきて敵味方関係なく襲い掛かるって特徴を持つ職業なの」


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