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21 迷宮に続く場所


「アニキ! 良い殴りっぷりですよー! 凄い吹っ飛んでいきました! 後ろにもっと瓶を並べてどれだけ一発で倒せますかね」

「全部倒すまでやってやるぜ!」


 ボウリングしようぜ。お前ボールな? って感じで屈強で柄の悪い囚人とその配下が俺を殴りつけて転がしてくる。


「何やってるの? 混ぜて貰っても良い?」


 その声に柄の悪い囚人が青ざめて振り返る。


「お前は……」

「殴れば良いんだっけー? そこにあなたを殴って飛ばせば良いの?」

「ち、ちげえよ! ほら、お前ら行くぞ! クッソ……面白くねえ! 新入り共が調子に乗ってんじゃねぇ!」


 舌打ちして柄の悪い囚人は去って行った。


「クラスチェンジすらしてない者が犯罪自慢のあげく弱い者いじめをする……」


 淡々とファナは去った囚人たちに吐き捨てるように言って笑ってみていた看守をにらんだ後、俺の元に近づいてくる。


「余計なお世話だった?」

「……」


 転職してない犯罪自慢の低級冒険者……という事はライムにLvを奪われる前は勝てる相手だったって事か。

 Lvとかゲームかよ。どこまで無慈悲な差なんだよこの野郎。

 上げたくても刻印と環境の所為でまともに上げられないじゃないか!


「チッ!」


 看守の野郎……俺が助けられてそんなに気に食わねえのかよ。

 腹立たしい……くそ! 俺はこんな所に一生居なきゃいけないのかよ。


「お前も俺が犯した罪に対して弱いとか思ってのか?」


 やってもない罪なのは元より、ライムによって弱体化したというのを誰も信じてくれない。

 本当、反吐が出る!


「アキヒコは犯罪をやってないって言ってたじゃない。なのに罪に対しての強さを私に聞くの?」


 ファナがキョトンとした様子で小首を傾げて俺に答える。

 う……ああ、そうだよ。やってない罪で俺はここに収監されて囚人共に絡まれて力尽くで殴られてたんだよ。


「これまでのアキヒコの様子から見るとそんな事をするような人には見えないと言うのが私の感想かなー」


 刑務所に収監されて二週間……隣の牢屋だからかファナにとって俺の行動は筒抜けって言いたいんだろう。

 それはこっちも同じだけどな。拷問される時間も似たり寄ったりだし。

 ただ、時々看守に連れられてファナはどこかへ行くのが分かってるけど、それは依頼とか刑務所内の力仕事とかに駆り出されてきたと言っていたっけ。

 俺には小柄にしか見えないが腕力は相当あるっぽい。

 そんなファナが俺が常日頃から愚痴る、無実の罪の訴えに対して……そう答えた。

 ファナは本人も言う犯罪者なんだろうが……それでも俺が犯罪を犯すような人には見えないという感想を持って言ってきたのは、少しばかり気が楽になるように感じる。

 囚人同士の傷のなめ合いとも言える関係だし、ファナが何を申告したって俺の無実を証明する手立てにはならない。

 けど……それでも、俺を見ている相手がいると感じた。

 人は信じられない。魔物も信じられない。ファナはどっちに俺は認識しているのだろうか。

 この世界の基準では人……らしいけど俺からすると魔物とも言える。

 人でも魔物でもなく獣人って扱いがきっと正しいんだろう。

 誰も信じることは出来ない。けど、他の奴よりはファナは……マシなのかもな。


「ファナ=ポシュ=クーン。お前に面会が来てるぞ」


 看守の所に何やら来てファナに向けて聞いてくる。

 するとファナは片眉が上がって露骨に嫌そうな顔をしていた。


「さっさと行け!」

「……はいはい。行けば良いんでしょ……まったく……」


 普段はボケっというかマイペースな感じでぼーっとしてながら周囲に意識を向けているファナがここまで露骨に不満な態度でいるのは珍しいな。

 ……面会ね。

 つまりファナには面会に来るような奴がいるって事だ。

 それだけで異世界に来て天涯孤独となった俺からしたら恵まれているようにしか感じられない。

 ……脱走は胸の刻印でできない。Lv上げも刻印に手に入る経験値を吸われる……ライムを殺す目処が立たない。

 いや……手立てはあるか。

 非常に不服だしまず教えてくれないが看守の野郎に聞いてみるか。


「なあ」

「ん? なんだ?」


 ビリっと胸の刻印から痛みが走る。

 まだ何もしてねえのに起動させんじゃねえよ。近寄ってすらいないだろうがこの野郎!

 ちなみに腕輪のスキルを許可なく発動させようとすると問答無用で刻印が起動して転げまわるほどの痛みが走る。


「く……時々、この区画に迷い込むアンデッドが来るのを先に、掃除の仕事とか……無いのか?」

「ああ、それか、無くはないしお前らの仕事だ。地下墓地に出現するアンデッドの清掃業務がな」


 やっぱりそういった仕事があるのか。


「まったく……定期的に厄介なアンデッドが湧く挙句、ラットゾンビが病を持ち込みやがるからな。ま、次のルナティックムーンで妙な主が湧く前に整地用に掃除係が選ばれんだろ」


 整地用……ボス相手に余計な雑魚が出てこないように隔離しておくって事なのか?

 魔物ってどんな仕組みかよくわかんないけどリポップするらしいからな。


「この前の主撃破したバーサーカーリープッドがまた任されんだろ。ネズミ捕りは得意だろうし」


 一体誰の事を言っているのかわからないが、ここでも地道に経験値は稼げるようだ。


「なんだ? お前戦いたいって面してやがるな? ボコボコにされてた魔物頼りの犯罪者が。アンデッド共を使役出来ると思うなよ? 魔物使いじゃ出来ねえぞ」


 アンデッドは魔物使いの使役の対象外ってのは何となくわかっている。

 非常に不服だけどな……これも魔物使いって奴の感覚なんだろう。


「ま、犯罪者の魔物無し魔物使いがどうやってここのアンデッド共を相手に戦うか見物だがな。お前が指名されるのを楽しみにしてるぜ」


 くくく……と看守は俺を馬鹿にするように呟いていたが俺は少しでも強くなる手立てがあるのが分かって、そんな嘲笑は右から左へと聞き流していたのだった。

 とりあえず聞きだせた話だと次のルナティックムーンの機会があるようだ。

 この時のルナティックムーンは規模が前より強いんだったか?


 ここで立候補すれば掃除係の組に所属出来る。

 上手い事やって行けば……多少はLvがあげられるはずだ。

 強くなれば囚人を連れてどこかに行こうって監理官って奴が俺を選んで外に連れ出してくれる可能性は上がる。

 エクリプスとかそんな大災害が近づいているそうだが、知った事か。

 現に俺が投獄された際に起こった騒動での被害なんて聞いてないし、この世界の連中が死のうが知った事じゃない。

 むしろ死ね。


 それより俺の生命優先だし、ライムを殺す方が大事だ。

 たとえ何年、何十年経とうがアイツをぶち殺してやる。

 もう魔物使いなんて反吐が出るスキルなんて使わずに……腕輪のスキルで強くなってやるんだ。

 そう、俺はこれからの方針を決めて来るべき時に備える事にした。


 後は掃除係に任命される際にどんな組み合わせで掃除をするかだな。

 さすがに俺一人で掃除とかはさせてくれないだろう。


 ……この重犯罪者区画で一緒に戦う囚人共ね……さっきの暴行とかを考えると碌な奴がいない。

 下手すれば盾にされて大怪我ないし魔物相手に殺されかねない。

 単純なLv上げも大事だけど鍛錬も大事だ。例え牢獄に居ても肉体鍛錬くらいは出来る。腕立てから何まで……出来る限りの自身の強化をしよう。

 腕輪での近接戦闘の練習だって何だってしてやる。


 なんて計画を進めながらの翌日の事。

 昼休みの時間……刑務所内の休憩所の庭での事。

 ファナが木の下で丸まって昼寝をしている所に遭遇した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 毎日の更新お疲れ様です。 海山氏の何クソって感じに前に進み始めるのが、好感を持てます。 ツライことだらけですが、それでも先に進む意思を持って歩いていく姿はいいものです。
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