02 未知との遭遇
「ふん! ここは……そうだな。何が起こっているのか調べて来い」
団体行動という概念はないのかこの野郎は……とは言っても何もせずにいるのも問題ありか。
「武器を丁度良く持っている者を周辺探索に向かわせるべきでは?」
少なくとも見覚えの無い腕輪を持つ俺よりは抵抗する方法があるだろう。
「何を言っているんだ! 不測の事態に対処するにはこいつらが必要だろうが!」
つまり何か非常事態が起こった際、守らせるために武器を持っている奴を動かすつもりはないと……。
こんな状況でも上司という権利だけはしっかり行使して責任とかは取らないのか。
「良いから行ってこい!」
はぁ……ここで言い返すよりも何か異常が見つかるまでは周辺探索を俺がすべきか。
村中と口論をして首を絞めるよりマシだ。俺が拒否したら次は新人へ無茶ぶりするんだろうしな。
「はい」
「もっと元気よく敬礼して言え!」
ここは軍隊か? 殺意しかわかないなコイツには。
ともかく村中の相手をするのを切り上げて俺は皆の元から離れ、丘っぽい所へと向かってから周辺を見渡す。
何処だよここ……遠くに山が見えるけど、どこまでも草原と……それっぽい鋪装されていない道が見える。
地平線まで見える草原って……北海道とかどこかの田舎に来たとでもいうのか?
更に言えばおかしい所がある。
晴れた青空にうっすらと浮かぶ月が……一つじゃなく、三つほどある。
俺の目がおかしくなったのか?
何となく不安な気持ちになって来た。
少なくとも都会とは離れた田舎……にしてはおかしな場所に俺達はいるという事だ。
なんて思いながら鋪装されていないと思わしき道の方へと歩いていく。
するとー……そこに丁度良く……何だろう? 修道服を着た女性と西洋の鎧とかを着た人たちが歩いてきた。
うわ……修道女っぽい人、金髪碧眼の美少女じゃないか? 年齢は17歳くらい?
英語は日常会話くらいならどうにかなるけど……ここって日本……なのか?
疑惑はともかく、まずは話をしてみないと始まらないよな。
「あの……」
「おや? どうかしました?」
よし! どうやら日本語で話は通じるっぽい!
「えーっと……見たところ随分と変わった出で立ちですね」
修道女っぽい美少女が小首を傾げながら俺を上から下まで見て尋ねて来た。
「そ、そうなんですか? すみません。どうも気づいたらこんな所に居て途方に暮れてまして、ここは日本のどこなのでしょうか?」
という俺の質問に少女は何か心当たりがあるようにポンと手を叩いた。
「なるほど……何となくですが事情を察することが出来ました。ニホンというのはおそらくあなたの居た場所の名前ですね」
「は、はい。そうですが……」
なんだ? この流れ……どこかの物語みたいなフレーズに感じて来た。
高校大学で楽しんだサブカルチャーなんかで覚えのある分、ちょっと内心期待してしまう。
「まずは自己紹介からですね。私の名前はロネット=メサイエスと申します。職業はプリースト(プリーステス)です」
職業まで説明するのか? いや、身分説明的な奴なんだろう。
「海山明彦……あきひこが名前です。職業はー……サラリーマンかな?」
「サラリーマン? おそらくあなた達の世界での役職なのでしょうね。ともかくアキヒコさん、非常に酷な説明を致しますので心を強くお持ちになってください」
「は、はい」
「まず大前提としてお話しますが、ここはアキヒコさんが知るニホンという国ではなくレイブルグ国という場所のグレーザ平原という場所です」
ここでロネットという人物のいう事をおかしいと伺うのは簡単だし、何かのドッキリだと思うのは容易い。
けどそれでは話にならない。
何か騙そうとかドッキリって可能性はあるけど騙されて恥をかかされても良いじゃないかと割り切ろう。
「そ、そうなんですか……? どうもピンと来ていませんけど……ロネットさんが俺を騙そうとしている訳ではなさそうなので納得することにします」
「聞き入れて頂き、ありがとうございます。それでですね。おそらくですがアキヒコさんはこことは異なる世界から、この世界に来てしまったんだろうと思われます」
うーむ……本当、サブカルチャーで聞くような異世界転移ってシチュエーションに聞こえてしまう。
こういうのって学生とかが招かれるイメージがあるんだけど……職場で異世界へと迷い込むとかあるんだな。
職場転移……良いのか悪いのかわからないフレーズだ。
「保護をしたいのでよろしければどうか同行して頂けたら幸いです。ここにいるのはアキヒコさん一人だけでしょうか?」
ありそうな展開って訳じゃないけど最初に会ったこの子、ロネットって子や国が悪で俺を騙して自身の欲望を叶えようとするとかそんな感じの奴が思い浮かぶけど……。
かといってここで逃げるのは……後ろの騎士っぽい人とかの人数から考えて厳しいか。
ここで嫌だ! って逃げて俺だけ捕まるのもな……村中が俺を盾にして逃げるって感じになるのは不快だし相手の言い分におかしなところはないから職場の皆を紹介しよう。
「いえ、あっちに俺の仲間が居ます。この事実に混乱する人が出てくると思いますが、一緒に来ていただいて良いですか?」
「もちろんです。みんな、行きましょう。この事態、皆さんわかっていますね」
「ああ」
「実際にこんな事あるんだな」
等とロネットさんの仲間たちが頷いた。反応的に相手も驚いているって感じで良いのかな?
ともかく俺はロネットさんたちを連れて職場の皆が集まっている場所へと案内することにした。
「その腕輪はー……」
ロネットさんが俺の付けている腕輪に気づいて聞いてきた。
「あ、何か知ってます? どうも気づいたら腕に嵌ってまして」
「知っては居るのですけど皆さんを連れて一度に説明した方が良いかと思います。ただ、分かりやすく言うのでしたら、おそらく……それがアキヒコさんの特殊武器なんだと思います」
特殊武器……?
それって一体……とは思ったのだけど俺たちに気づいた村中と職場仲間たちが近づいてきたのでまずは事情を説明するのが先にしたのだった。
「やっと戻って来たか海山……そこにいる連中は何なんだ?」
「周辺の探索をした際に出会ったロネットさんとその仲間たちです。みんなには信じがたい事なんですがどうもここは日本……じゃないとの話でしてね」
と、俺は空を指さして月が複数あるのを意識させる。
「海山! 寝言は寝てから言え!」
やっぱりぬかしやがったか村中。
ただ……ロネットさんを前にして村中はコホンと小さく咳をして気色の悪い笑みを浮かべて応対する。
「非常に失礼した。うちの部下が失礼な事をしなかったか?」
「えー……アキヒコさんの対応に問題はありませんよ。混乱しているでしょうに、しっかりと受け答えをしてこうして私たちを皆さんに紹介してくださいましたから」
ロネットさんは俺を庇うように念押しに答えてくれた。
「少々問題のある部下でね……それでロネットさんでしたっけ? ここが日本ではない……と?」
「はい。先ほどの様子から信じられないと言うようですが事実としか言いようがないです」
「ではなぜ言葉が通じている?」
「異世界からの来訪者には言語が通じる……と言う話があります。細かく説明するにはこちらの書物を見て頂ければわかりますか?」
ロネットさんはカバンから本を取り出して中身を広げて見せる。
そこには……見覚えの無い文字列が掛かれていた。
ルーン文字っぽいようで違うし、なんだろう?
「この程度の事で信用するのは難しい。ふん。日本じゃないとは……妙な格好で冗談は大概にしろ」
お前はしっかりと空を見ろよ。月が三つも浮かんでるぞ!
「――皆さん! 注意してください!」
ここでロネットさんの表情が険しくなり周囲へ気を配る。
ガササっと地面から……大きなうねる、ミミズみたいな生き物が出て来た。