18 拷問刑と隣室の囚人
刑務所までの引き回しを五日間程させられ……俺はレイブルグ国のダブラー刑務所に収監された。
異世界の刑務所ってどんな所なのかと思いもしたんだけど、一種の砦とも言えるような石造りの建物の中に無数の牢屋がある所だった。
刑務所の中心には囚人たちが逃げられない様にする文様の管理を司るオベリスクが立っている。
「よく来たな犯罪者共! ここがお前らの生涯の住まいになる場所だ」
とまあ看守たちが俺たちを出迎えてくる。
それから俺達は刑務所の中に入れられて一列に並ばされる。
「さて」
そこでいきなり刑務所長らしい偉い奴が俺の前に立っていきなり殴りつけて来た。
「うぐぅ……」
Lvが高いのか殴られただけで俺はそのまま壁に叩きつけられる。
「看守のいう事は絶対、それに従えない場合はこのように貴様らには教育的指導をビシバシする。逆らったらどうなるか……わかっているな? 世界はお前たちの命など消えれば良いと思っている所を死ぬまで償う機会を与えて下さっているのだ。感謝するが良い」
何が感謝するが良いだこの野郎!
そう思っていると強引に立ち上がらせられて俺は連行させられ、刑務所の奥の方の牢屋にぶち込まれた。
どうやら相部屋とかは無く牢屋が一つ一つ個人で分けられているようだ。
ただ……見回りする看守側からは丸見えでプライバシーなんて無い。
じめじめした牢屋内……ベッドとトイレらしき壺が置いてある。
それ以外は何もない場所だ。
「く……好き勝手やりやがって……くそ……なんで俺がしてもない罪でこんな所に……」
手枷に足かせまで付けられている挙句、ここ五日の引き回しで体がボロボロだ。挙句さっきの殴打がずきずきと痛んで体中が悲鳴を上げている。
足を引きずってベッドに腰かけた所で看守が怒鳴って牢屋のカギを開けて入ってきた。
「おい! 何休んでいるんだ! まだ貴様にはしなければならない事があるんだ! 黙って待機していろ!」
先に言えよこの野郎! と言い返そうものならまた殴ってくるのが分かっていたので黙って立ち上がって待機する。
どうやら看守たちは他の囚人たちの収容をする仕事をしていたようだ。
「お隣さんが入ったのー?」
そこに、ちょっと高めの声が俺の腰くらいの高さで隣の牢屋から聞こえて来た。
「何をしゃべっている!」
「お隣さんが入ったのか確認しているだけでしょう……そんなキーキー言ったって黙らないよー」
「貴様……」
看守が俺の入っている牢屋から出て隣の牢屋に入るなりドカドカと殴りつける音が響き続ける。
「はぁ……はぁ……わかったか!」
「その程度で息を切らしちゃうの? もっと力を入れないと所長に怒られるよ?」
殴られているはずなのに妙に余裕のある声音で看守に言い返している。
「く……調子に乗るな! この重犯罪者が! ……勝手にしていろ!」
ガチャンと看守は出て行き、そのまま持ち場に戻って行ってしまった。
「そんな訳で隣に入った人、これからよろしくー」
いや……お前がどんな姿なのかすら知らないんだが……妙にタフな奴だって言うのはわかった。
看守も囚人を殺す……まではしないのか?
ともかく、ベッドに腰かける事さえ許されないまま俺は待機させられることになった。
やがて看守たちが戻ってきてゾロゾロと他の牢屋に入っている囚人たちを連れて行ったり戻したりしている。
「嫌だ! やめてくれ! もう悪い事なんてしないから許してくれ! いやだ! いやだぁあああああ!」
と、懇願しながらも無慈悲に連れていかれる囚人が助けを求めながら看守に連行されて俺の前を通り過ぎていく。
しばらくすると顔がボコボコにされてぐったりとしたまま来た道を帰ってきた。
おい……これから何が起こるんだ?
「よし、次はお前の番だ。ついてこい! 従わないと文様が貴様を苦しめるぞ!」
ついてこいも何も手枷に鎖を連結させてそのまま俺を引きずって連れて行くじゃねえか……挙句ビリビリと胸の文様が心臓を鷲掴みするように締め上げてくる。
ゴトゴトと足かせに付けられた鉄球が石畳の廊下で音を立てる。
そうして連れていかれた部屋は……刑務所内に何室もある拷問部屋だった。
囚人を拷問するって……犯人の自供を迫るとかならわかるけどどんな意図があってやるんだよ!
「これはダブラー刑務所に入所した囚人たちへのこの所長直々の歓迎の儀式だ。しっかりと受け取れよ重罪人! おらぁ!」
手枷につながる鎖が天井を通して俺は宙吊りにされ背中に鞭で撃たれる。
「あぐぅうう――」
「ほらほら! もっと声を上げろ! お前のした罪はこの程度じゃ晴れないぞ!」
「ふざけ……あぐ!?」
バシン! と再度鞭を打たれ、俺の返事の声はかき消される。
「なんだぁ? お前はまだ罪が分かってないようだなぁ! おらぁ!」
バシン! バシン! と鞭に始まり棘付き鉄球まで持ち込まれて何度も……何度も……骨が折れる音が響いても所長主導の虐待はやめる気配はない。
ボキっと腕がへし折られ、拳を鈍器で砕かれる。
「ぁあああああ!? ぐううう……」
やがて痛みで意識が飛んだ所で水を掛けられて強引に意識を戻される。
「何寝ているんだ! まだ始まったばかりだぞ!」
手に視線を向けると……こんな手じゃまともに物をつかむことなんてできないだろと思えるほどに変形し紫色に腫れあがっている。
これだけ痛めつけても回復魔法って奴は厄介なもので治るもんなんだ。
看守たちはご丁寧にそれを理解しているのか腕を治して痛覚を元に戻しては砕く作業を繰り返してきやがる。
ただ、治った際はそれはそれで治療痛と呼べる痛みが走り、しかもしばらく違和感が続く。
感覚が完全に治るのには時間が掛かるって事か……。
「うう……」
ここ五日間の行脚とそれまでの暴行、挙句刑務所に入っての拷問も合わせて……このまま殺されるのか……。
ライムへの殺意を糧に何かしら機会が訪れると思って耐え忍んでいたけど……もう、限界だ。
死ぬ……むしろよく俺の体が持っていると感心するくらいだ……。
「ち! つまらん……いや、おい。こいつの腕輪を抜き取れ」
所長は部下に命じてぐったりしている俺の腕についている腕輪を奪い取って手に持ち、マジマジと確認していた。
「ふむ……思ったより伸びるな、次はこっちだ。やれ!」
「は!」
看守がハンマーを持ち、地面に置いた腕輪に向けて振り下ろす。
ガツン!
「――ッッ!!」
音が響くと共に肉体の痛みとは別の激痛が走る。
体の痛みの次は……こんな痛みまで与えて来るのか。
何処まで俺を拷問……したら気が済むんだこいつ等……。
「まだ入って初日の人にするには随分と熱烈な歓迎をしてるねー」
さっき隣の牢屋で聞こえた声が拷問部屋で響いた。
ぼんやりと見える声の主を見ると俺と同じように釣り上げられたまま他の看守に殴打されつつ松明を押し付けられている……なんだ? 長毛種の猫? メインクーンって品種の猫っぽい。
140センチくらいの猫にしか見えない囚人服を着た奴だ。
そいつが俺と視線が合った所で猫なのに微笑んだ。
「もう限界近いみたいだし、死にそうじゃない。加減をしないと国への始末書を書く羽目になるんでしょ? お隣さんにやろうとしている分を私が受け持ってあげる」
「……」
所長は意識が朦朧としている俺の様子を何度も確認してから離れる。
「良いだろう! こいつの分、しっかりと受けろ!」
「今回は痛がっている声を上げる。ぐあああああ! うぐうううう! や、やめてえええええ!」
「ふざけるな! この被虐思考の変態獣人がぁあああああ!」
「ふざけてるつもりはないんだけど……?」
と、朦朧とする意識の中で俺の分を肩代わりする隣の牢屋に収監されている猫っぽい奴と所長のやり取りが長く続けられたのだった。