16 裏切り者の本性
「賑やかになるなライム! お前の妹分だぞー」
「ピ……」
俺がルリルを持ってベッドで寝るライムに声を掛けるのだけど、ライムは疲れたのかうつらうつらと寝入ってしまっていた。
まったく……マイペースな奴だな。
ともかく、明日からしっかりと力を付けてクラスチェンジするぞー!
と……俺はルリルを片手に決意を込めていたのだった。
色々とあってルリルを仲間にした。
ルナティックムーンまで大分近づきつつある……俺のLvも47まで上がってあと少しでクラスチェンジって所まで来たある……運命の日の事だ。
「よし! あとは作戦通りに陽動と雑魚魔物の殲滅をして依頼を達成させるぞ。ついでにLv上げた!」
「キュッキュー!」
新たに仲間になったルリルとライムを連れて俺達は打ち合わせ通りに指示された範囲の防衛網を張ろうと森の中を進んでいた。
「ガウ! ガウガウ!」
「おーし、早速チェイスウルフが出て来たぞ! サクッと行くぞー!」
まだLv1なので戦わせられないと判断しているルリルには待機させて、ライムに向かって指示を出しつつ俺は魔法弾を放とうとした。
その時――。
「――ピ」
ドゴォ! っとライムがなぜか俺に強烈な突進を背後からかまして来て俺は吹き飛ばされて木に打ち付けられた。
「キュ!?」
「ガハ――な、なにを……」
抗議の声を上げると同時にドスっと針が飛んできて刺さり、全身がしびれて動けなくなっていく。
「はは、ざまあ無いな。やっぱり超弱いなお前」
混乱する俺の前に立っていたライムが突如人間の言葉を発した。
「何をだって? そりゃ決まってんだろ? 弱いご主人様って言うお荷物の言う事なんて従えないんだよ」
「キュー!」
ルリルがライムに向かって威嚇の声を上げて飛び掛かるのだけどライムは体を鞭のようにしならせてメイプルラビットを殴りつける。
「キュ!? キュー……」
その一撃を受けてルリルは地面に転がって昏倒してしまった。
「こっちも雑魚の癖に何威嚇してんだよ。まったく」
ルリルに視線を向けていたライムが再度俺に視線を戻した。
チェイスウルフ達はそのまま俺達を襲い掛かる……事は無く、ライムに付き従うように行儀よく座っている……?
「な、なんでこんな事を……」
どうにか動かせる口でライムに事情を尋ねる。
なんだ? 俺に何か問題があったのか?
するとライムは心のそこから軽蔑するような視線を俺に向けて口を開いた。
「あのさ? 状況をよく考えてみろよ。これまでの日々でさ、お前……ずっと俺にただ付いてきて経験値を掠め取って来てるだけのお荷物じゃないか。俺は食べれば食べるほどいろんなスキルを習得してお前よりも遥かに早く強くなって行ってるんだぜ? 何だって出来るし覚えられる」
確かに今までの出来事でライムと一緒に魔物を倒していく毎にライムはいろんなスキルを習得し、格上の魔物を相手に戦ってきた。
ただ、俺だって援護や手当をしていた。
正直、俺よりも遥かに強くなってるなって認識はあったけど、その分の報酬はしっかりと応えたつもりだ。
手に入る報酬でライムが望むものは出来る限り揃えた。
「そんな強くて知恵もある俺にさ、お前は必要かって考えてみろよ? もう何処でだって俺は生きていけるんだぜ? お前の存在価値って何?」
「何って……」
街とかの施設を俺が利用出来る事だろう? 他にも補助や回復、荷物の管理とか色々とやってきたつもりだ。
「どうせ色々と手伝ったとか言う気なんだろうが、お前が居なくても俺は困らないの? わかんねえの? 寄生虫はお呼びじゃねえんだよ。もう俺は俺の好きに生きることを決めたんだ」
そんな……いや、魔物を使役するって事はどこかで魔物に反逆される可能性ってのは脳裏に過ったけどさ……俺は出来る限りライムの世話をしたつもりだ。
強い魔物に挑んで負けそうになった時は回復を掛けたし、勝ったけどぐったりしていたライムに手当てもした。
出来る限り戦いやすい様にと知恵を絞って戦いやすい地形に誘導とかもしたんだ。
ライムにこんな事を言われるような事をした覚えはない。負けた時にしつけとかするはずないだろ。
「ま、最初の数日俺の世話や戦う術を教えてくれたことに関しちゃ感謝してるけどよ。それはそれ、これはこれって奴だ。さて……まだご主人様って奴から頂かないといけない退職金があったな」
ライムは動けない俺から腕輪を外し、俺に見えるようにチラつかせる。
それからポイっと空に投げて口の中に放り込み……ボリボリと咀嚼――!?
「うぐぅううううう……」
ライムの咀嚼に合わせて胸と頭に強烈な痛みが走り意識が遠くなっていく。
「かー! 実った果実の収穫って奴? クソな主人だけど、これは超うまいぜ! 色々とスキルが獲得できるのが分かるぜー」
ボリボリと俺の腕輪を噛み砕いて食いながらライムは言い放つ。
く……くっそ……!
「お? 死んだのか? この――」
ここで俺の意識は遠くなって途切れた――。
「キュ……キュウ……キュ」
ゆさゆさと揺すられて俺は目を覚ました。
「うう……」
体中が重たい。まるで病み上がりのような体の重さと痛みだ。
体を起こして状態を確認すると……着ていたはずの衣服は下着を残してすべてはぎ取られて居た。
「キュ……」
声と揺すった相手が誰なのかを見ると、ルリルだった。
ルリルは俺の意識が戻ったことを喜んでいるのか俺を見上げて笑顔を向けている。
死ぬかと思うほどの激痛だった。あれが武器破損のダメージか……。
く……せっかく育てた魔物だって言うのにこんな事がされる謂れは無いだろ。
急いで報告した方が良い事だろ。
それもあるが……身ぐるみ剥がされてパンツだけになってるぞ。
「そうだ……武器……」
と思って腕輪を意識すると俺の腕に嵌っていた。
砕かれたはずの腕輪……なんだけど今まで使っていた腕輪ではなく最初に見た形状になってしまっているぞ?
恐る恐る俺は……ステータスを出して確認する。
海山明彦
職業 魔物使い Lv5
装備 特殊武器 腕輪
スキル テイミング オーラボール
魔法 無し
種族スキル 連携
な……Lvが5まで下がってる!? 47まで上がっていたんだぞ!
まさかライムの野郎が俺の腕輪を食った所為で大幅な弱体化まで掛けられたってのかよ!?
くうう……あの恩知らず! とんでもない奴だ!
「キュウ……」
「お前はライムと違って裏切らないよな?」
残されたルリルに尋ねるとメイプルラビットは胸を叩いてキューと力強く鳴いた。
いや……ライムみたいに強くなったら心変わりとかして俺に襲い掛かるとかされる可能性はあるんだけどさ。
それでも……今は身ぐるみを剥がされた状態な訳でどうにかして村に戻って報告し、今後の事を考えて行かねばならない。
ルナティックムーンも近づいているんだ。このままじゃ危機に生き残れないぞ!
「急いで村に戻ろう。今の俺たちじゃチェイスウルフに勝つのさえ難しい」
意識を失っている間に魔物に襲われなかったのが奇跡だ。
いや……ライムの様子から見逃されていたって可能性が高い。
どちらにしても危険な魔物が野に放たれているんだから報告して捕まえるなりなんなりしないといけないんだ。
「キュ!」
ルリルは頷いて俺達は来た道を戻り、村へと向かった。