15 二匹目の仲間
「じゃあ俺達は出かけてくるから、食べておいてくれよ」
俺も依頼された仕事があるので子ウサギを放置してチェイスウルフ討伐と見回りをすることにして、部屋を出たのだった。
そうして指定された範囲の見回りをして遭遇したチェイスウルフを倒して部屋に戻ると……設置しておいた餌が無くなっていて、子ウサギが藁の上で休んでくれていた。
どうやら食べてくれたようだ。
「おお……良かった良かった。んじゃ餌の追加をしておくからちゃんと食べて体力を回復させるんだぞ」
モンスターヒーリングを掛けて治療を行う。
うん。この調子で行けば完治もいずれは上手く行くだろう。
そんな感じで二日ほど子ウサギの治療を行った所、子ウサギは大分動けるようになってきた。
警戒心も大分薄れたのか俺たちが部屋に戻ると籠以外の場所に居て、急いで籠の中に隠れるようになった。
「キュ……」
モンスターヒーリングを施しつつ背中を撫でる。もう傷は……うん、痕すら残ってない。
完全に回復したと良いけど……まだ震えてる……ショックから立ち直っていないんだろう。
優しく背中を撫でながらキャベツっぽい野菜を子ウサギの口元に差し出す。
恐る恐ると言った様子で子ウサギはキャベツっぽい野菜を食べ始める。
少しは信用してくれるようになった。
そうして餌を食べさせながら子ウサギの健康状態のチェックを行う。
怪我は治療したから特に問題は無し、毛並みは……後で整えてあげないと……乾いた血も付いてる。拭いてあげないと。
お風呂とか行水は後で良いかな。それと……甘い匂いがするなぁ。
これがメイプルラビットって事なんだろう。
ヒクヒクと鼻を鳴らしている子ウサギに俺は声を掛ける。
「怖がらなくて良いから……」
ライムみたいな人懐っこい感じではなく怯えの色が強い。
世話をするとは決めたけど無理に戦わせるのは心苦しいな。少しずつ懐いて貰えば良い……。
「テイミングはもう少ししてからが良いかな?」
やがて……お腹がいっぱいになったのか子ウサギはうつらうつらとし始めて瞼が閉じる。
「おやすみ」
俺も疲れたし、今日は早めに休もう。
ポンポンとなだめるように俺は子ウサギを抱き上げて籠の中に入れ、早めの就寝をすることにした。
……
…………
………………
なんか……胸辺りがべっとりしているような……。
「ううー……ん?」
目を開けて胸の部分に手を伸ばすとべとっとなんか触った。
なんだと思って急いで顔を上げて確認するとメイプルラビットの子供が俺の胸に乗っかっている。
籠の中に入れたはずなんだけど……。
「キュウウウ……」
ランプに明かりを灯してメイプルラビットの子供をゆっくりと持ち上げて確認すると……俺のシャツにべったりと液体が引っ付いていた。
匂いを嗅ぐとちょっと異臭がする。
どうやら寝ている間に俺の上に乗っかって粗相をしてしまったようだ。
これは叱るべきか?
子ウサギを見るとどうやら起きてしまっていたようで怯えの顔をしている。
まあ……人に飼われる際の常識とか身に着けてないよな。
ライムはその辺りの覚えが早くて全く手が掛からなかったけどしょうがない。
俺はゆっくりと子ウサギの頭を撫でてから立ち上がってシャツを脱いで洗濯をすることにした。
「気にしなくて良いから……ゆっくり休んでなさい」
と、子ウサギが再度寝付くのを確認してからシャツを宿の外にある井戸の水で洗ってから部屋に戻る。
すーすーと寝息を立てている子ウサギだけど時々うなされたような寝息になっている。
怖い夢を見てしまっているのだろう。当然だ。家族を一度に失くしてしまったんだし、魔物とは言え心に傷ができないはずはない。
気休めだろうとは思うけどモンスターヒーリングを施しながら俺は子ウサギを抱きかかえて再度就寝したのだった。
まだまだこの子の世話に追われそうだなぁ……とはいえ、ライム以外の魔物が居ればそれだけ効率が上がる。
着実に行こう。籠から出て、俺の上で寝ていたのは信用してくれているんだ。
こうして夜は過ぎて……俺は再度就寝した。
あれから更に数日が経過した。
俺はライムと一緒に頼まれた範囲の見回りを行い、遭遇するチェイスウルフを討伐し続けている。
情報も大分集まってきており、上位の冒険者たちがチェイスウルフのボスを討伐する計画が進んできている。
明日には大々的に作戦が行われるとの話だ。
ま、俺達はボスではなく他のチェイスウルフ退治をすることになるんだけどさ。
「ただいまー」
「……ピ」
「キュッキュ!」
見回りの報告を終えて部屋に戻ると子ウサギはとても大人しく、宿屋の部屋で待機していて帰ってくるなり鳴いて返してくれた。
大分緊張や警戒は無くなりつつある。
昨日は体をお湯で洗って綺麗にすることが出来た。
もう傷跡も無くなり、完治したと判断して良いだろう。
「さて……」
近々ルナティックムーンが大分近づいてきてしまっている。
なんだかんだここ数日のチェイスウルフ退治をしている内に俺のLvも45とクラスチェンジが出来るLvに近づいてきた所だ。
ラストスパートとばかりにルナティックムーンまでにクラスチェンジをしておきたいのは元より、子ウサギもそろそろしっかり育てないと行けない所まで来ている。
「キュ?」
もう俺にも十分懐いて信用してくれている。
あれだけ弱っていたのが今では嘘のようなくらいに元気になってくれて俺もとてもうれしい限りだ。
「よーし」
俺は腕輪を外して広げて子ウサギの首に付ける。
ライムを登録したように子ウサギは目を大きく広げてパチクリとする。
「キュキュ!」
ラジャーって感じで前足を上げて鳴く。元気があってよろしい。
テイムカラー完了。
メイプルラビットを登録しました。
メイプルラビット Lv1 種族 メイプルラビット ♀
主人 海山明彦
所持スキル
たいあたり 蜜生成 人語理解
「登録完了」
この子メスだったのか。
よく確認してなかったからわからなかった。
「キュー」
「んじゃ早速名前を付けなきゃなー……とはいえ、女の子だからな……ウサ子とかラビ子とかどうだ?」
「キュ!? ブー!」
だんだん! と子ウサギが抗議とばかりに後ろ足で地面を叩いて、目に見える形で抗議している。
「うーん……じゃあメイプルラビットだからメイプル?」
女の子っぽい感じの響きだから良いだろ。
「ブー!」
どうやらこれもお気に召さないご様子だ。
「うーん……かわいい感じの名前が良いのかなー……俺もそこまでかわいい感じの名前なんて思い浮かばないぞ」
ライムだってジェリームがスライムっぽいからライムってつけたんだし。
ラビットからラビ子とか考えて……。
「ビット」
「ブー!」
うーん……注文の多い子だ。
そうだなー……メイプルって響きがそれっぽいのはルがあるからだろ?
「ル……ル、ルル……リリルとかそんな感じの響きが良いかな?」
「キュー!」
お! 反応よし!
「んじゃリリルだな」
「キュ?」
あれ? 首を傾げられてしまったぞ? 違うって事か?
「リリル」
「キュ?」
「ル……リリル」
「キュー」
反応はしてるけど片耳を上げるだけだ。間違っている?
「ルリル」
「キュー!」
ピョーン! っと跳ねて子ウサギは俺に飛びついてきた。
「うわ!」
「キュー!」
受け止めると両前足を上げて笑顔で鳴く。
「ルリルって名前が良いんだな?」
「キュ!」
どうやらお気に召したようだ。
こうしてメイプルラビットのルリルを使役する事になったのだった。