13 子ウサギ
「フェルサ村にようこそいらっしゃいました。アキヒコさん。あ、宿屋まで案内しますね。そこで集まった冒険者の皆さんと作戦会議を行うって話だったはずですので、宿屋の代金も安くできないかお話してみます」
「ありがとう」
リレイアちゃんに案内されて俺とライムはフェルサ村の宿屋へと案内された。
そこでは何人もの冒険者たちが集まって、壁に張られた近隣の地図を元に作戦会議をしているようだった。
リレイアちゃんは宿屋の店主に俺の事を紹介しながら安くできないか交渉をしてくれていて、その間に俺は作戦会議の場に交じる。
代表らしい屈強な男冒険者に声を掛ける。
「依頼を受けてさっき到着した明彦だ。職業は魔物使い」
「ああ……増援か助かるが……一人、じゃなくて魔物使いだから一人と一匹か」
「そうなる」
「魔物使いって事だな……ふむ、依頼内容は知っているな? チェイスウルフ一匹に付き――」
と、依頼内容の確認を行い、これからの方針を話し合う。
どうやらこの辺りのチェイスウルフは大量に増えている状況の様だ。
理由としてチェイスウルフにボスと思われる魔物が居る所為らしい。そのボスが居る限りどれだけチェイスウルフを倒してもこの騒動は終わりを見せないって話だ。
解決方法は当然ながらチェイスウルフのボスの討伐なんだけど……そのボスをおびき出して倒すにしてもまずは増えすぎているチェイスウルフの討伐をしないと始まらない。
チェイスウルフの数を減らすのが優先される。
「そんな訳で近隣のチェイスウルフ討伐が目的となる。お前はこの辺りに出るチェイスウルフを倒して貰いたい」
「分かった」
依頼を受ける段階で現地に居る一番強い冒険者一行がボス退治をするってのは聞いていた。
あくまで俺とライムはその手の討伐の手伝いとして魔物の数を減らすのが目的だ。
「しかし……いくら魔物使いとはいえ一人と一匹で大丈夫か?」
「大丈夫だ。道中でも何匹か倒してきた」
「ほう……チェイスウルフはそこそこ強い魔物なんだが、大して苦戦しているように見えないという事は初期職とはいえ腕に覚えがあるって事で良いんだな。死んでも苦情は受け入れんからな」
少なくともライムと俺が居ればあの程度は倒せない相手じゃない。
「そっちこそ、こっちは仕事をしたのにボスを取り逃したとかするんじゃねえぞ?」
ちょっと乱暴に、任せたぞ! って感じで返すと屈強な男冒険者は任せろって感じで手を上げて答える。
「おうよ」
そんな訳で俺が担当する範囲が決まった。
リレイアちゃんが宿屋の店主と交渉してくれたおかげで部屋も安く確保できたので早速、チェイスウルフ討伐に出かける事にした。
「さーて……サクサク行くぞー」
「……ピ」
こうして村から出て……担当範囲で出てくるチェイスウルフ討伐に出る。
「ヴァウヴァウ!」
お? 早速出て来たな。確かに数が多いぞ。
「ライム」
「ピー」
ライムがファイアブレスを横なぎで吐いてチェイスウルフ達を焼いていくがすり抜けて俺に向かって飛び掛かってくるのが数匹いる。
「よっと! ほらよ!」
取り逃したチェイスウルフに腕輪に力を込めてマジックショットを放つ。
ライムの力を宿したマジックショットはジェリームの形をしてチェイスウルフに命中して大きく吹き飛ばした。
「キャン!」
「よーしよし! どんどん行くぞー!」
マジックショットを連続発射してよろけたチェイスウルフを倒す。
うん。そこまで苦戦する相手じゃないな。俺でも接近しきる前に倒せる。
そうしてサクサクと頼まれた範囲を巡回していくと……。
「これは……血痕か……」
地面に血の跡が続いているのを発見、誰か怪我でもしていたら大変だと思って後を追う。
仮にチェイスウルフが怪我をしていたとしても、遭遇したら戦えば良い。
「ピ……!」
「ライム、どうした?」
ライムが何か感知したのか素早く跳ねて行ってしまうので追いかけるのだが……その先には……。
「ヴァウヴァウ!」
木の下に開いた穴に顔を突っ込むチェイスウルフが居た。ほかに二匹……何か獲物を食っている。
ちょっと嫌な感じだ。とはいえ チェイスウルフを見つけたって事だな! やったなライム!
「ピ! ピー!」
ビュンとライムはお食事中のチェイスウルフ達を通り過ぎて行ってしまった。
「おい……どこ行くんだー! おーい!」
「ヴァウ!」
サッと視線をライムに向けたチェイスウルフだったけど、あっという間に行ってしまったライムではなく、俺への視線を向けて来た。
うわ……どうやらお食事の邪魔をされて気が立っているっぽい。
「ヴァウヴァウ! ウウウウ!」
新たな肉とばかりにチェイスウルフは俺目掛けて掛け、飛び掛かってくる。
「オラオラオラ!」
マジックショットを連射しながら近づいてきたチェイスウルフを腕輪の一つを近接モードのジャマダハルにして突き刺して仕留める。
ズルっと嫌な手ごたえもここ一週間で大分慣れた。
「キャイン――」
「キャ――」
チェイスウルフの喉笛を切り裂くことに成功し、一匹を仕留め、残り二匹をマジックショットを放って倒すことに成功した。
「ふう……ライムの奴……一体どこに行ったんだ」
主人を置いてどこかに行くだなんて……後で注意して教えて行かないといけない。
後はチェイスウルフが何の肉を食っていたか……だよな。場合によっては報告に行かないといけない。
誰か犠牲者が出ていたら報告しなかったら困るに決まっている。
異世界であろうとこう言った社会上必要な事は変わらないだろう。
社会人の常識、ほうれんそうって奴だ。報告、連絡、相談だ。黙っていることでより被害を出したりする。
……村中の野郎は自分はしない癖に俺たちには敷いていた規則でもあるんだけどさ。
あとで誰かに責任を擦り付けたり尻拭いさせる奴には無い考えか……。
そういえば海外の映画とかだと自分の不利になりそうな事を嘘ついて誤魔化すシーンとか多いけどアレはどんな意味があったんだろうか。
嘘を吐くと痛い目見るぞ? って暗喩? 主人公も吐いたりして仕事を得たり、得をしてるシーンが多いからよくわからないな。
考えが逸れた……チェイスウルフが何を食っていたのかの確認だ。
確認すると……人じゃない。魔物の死骸のようだけど……これは、野ウサギか? 食い残されたところを見ると二匹……じゃないな大きなウサギが二匹に小さいウサギの破片? あんまり目に良い光景じゃないけど弱肉強食って事で受け入れるしかない。
なんか甘い匂いのするウサギの亡骸だ。
「……ウゥ……」
「ん? なんか居るのか?」
木の下の開いた穴の方からゴソゴソと音と共に声が聞こえる。
チェイスウルフが顔を突っ込んでいた所だよな……。
そっと穴をのぞき込むとそこは巣穴だったようで奥に赤く光る眼が二つ……。
怪我をしている小さなウサギ穴から顔を覗かせてヒクヒクと鼻を動かしながら周囲を見渡し始めた。
視線の先は俺が倒したチェイスウルフ、それから……ウサギ達の亡骸。
よろよろと怪我をした体を引きずってウサギたちの亡骸の方に近づいていき震えているように見えた。
「キュ……ウウウ……ゥゥ」
ああ……こりゃあ馬鹿でもわかるだろ。穴に命からがら逃げだせた生き残りのウサギだよ。間違いない。
しかも子ウサギだろコイツ……。
「……そうだな。弔ってやらないと」
子ウサギの親族たちの亡骸を集めて俺は地面を掘る。
当然のことながら血で汚れてしまうけど知った事ではない。
チェイスウルフ達が掘り起こせないように深めに掘ってから俺は子ウサギの親族たちを掘った穴に埋めて墓を作り、冥福を祈る。
どうか……安らかに……。
「キュ……」
俺が弔っているのを察しているのか子ウサギは大人しく佇み、見つめている。
やがて……クラっと子ウサギがそのまま倒れ伏した。