10 初めてのテイム
翌日。
ギルドの制度に関して、ザックリいえば掲示板で依頼を探してそれを受注、ほかにも競争相手とかいるから気を付けつつ依頼された品を納品することが信用の無い者が上位の依頼や仕事にありつく方法だと学んだ。
大分日も暮れていたし、掲示板の依頼も減っているので初心者向けは朝に来ると良いって事で一泊した。
「まあ、ロネットから……それじゃあサービスしないとね」
ロネットさんが教えてくれた宿屋に紹介状を見せると食事込みで格安で泊めてくれたので非常に助かった。
しばらくお世話になっても良いそうで、今の俺からしたら非常にありがたい。
ともかく、こうして朝一でギルドに行って、募集している依頼の一つを受注することが出来た。
城下町から少し離れたいる丘付近で出没するウッドレントという弱い魔物を倒して手に入る木材の納品だ。
木工の練習に使うのに良いそうだ。薬草採取とかじゃないけど、初心者には良い仕事らしい。
初心者同士でパーティーを組んで依頼を受けるってのも良いみたいなんだけど……魔物を連れてない魔物使いでLv1となるとパーティーに声を掛けるのもどうかと思って一人で出来る依頼を受けた感じだ。
まずはこの腕輪がどの程度戦力として使えるかが大事だし。
「よーし! 行くぞ!」
「ピー!」
俺は城下町から一歩踏み出して丘へと向かう。
空は相変わらず大きな月が浮かんでいて、ブラックな環境から文字通り新天地へと進んで行くのを祝っているかのようだ。
「モギョ!」
そうして歩いていると……歩く大根みたいな魔物、マンドラコンという魔物が俺を見つけて飛び掛かってくる。
「うお!」
敵意満点って感じで突撃してくるぞ!
「喰らえ!」
腕を前に掲げて腕輪でマジックショットを狙いを定めて発射!
「モギョ!?」
バシィ! っと良い感じにマンドラコンが弾かれて飛んでいくが即座に起き上って懲りずに突撃してくる。
あんまり攻撃力が無い感じなのか?
「連射連射!」
バシュバシュとマジックショットを連射してマンドラコンの接近を許さずに打ち続ける。
跳ね飛んだ所で追撃のマジックショットを当てた所で動かなくなった。
EXP8獲得
という文字が薄っすらと上がって消えた。
うん。マジックショットの使い勝手は悪くないぞ。
まあマンドラコンって魔物と呼ぶか怪しい位、弱い魔物らしいけどさ。
「ピー!」
「倒した魔物ってどうしたら良いんだっけ? あ、特殊武器は吸えるんだっけ?」
どうやって吸うんだ?
試しに腕輪をマンドラコンに近づけてみるとスッとマンドラコンが腕輪の内側へと収納された。
これで良いのかな?
ちょっと確認。
マンドラコン 1/20 ボーナス 体力+2 条件未達成
どうやらマンドラコンを20体腕輪に吸わせると体力が増える様だ。
地道な強化って奴で良いのかな?
なんて思っていると……フッと、どこからともなくマンドラコンが俺の目の前に出現して呼びかかってきた。
「モギョオオ!」
「うわ!」
思わず驚いて急いで逃げながらマンドラコンにマジックショットを当てて倒す。
「びっくりした……」
これがこの世界の法則って事で……良いんだよな。
ギルドの人とかにマリーゼから聞けなかったことを聞いたので知識としてはわかったけど、この世界の魔物はどこからともなくポップする性質を持っているらしい。
倒しても一定範囲でそこに生息する魔物が再出現する。なので倒して根絶って概念はこの世界には存在しない。
一説では月が呼び出しているとかそんな話があるそうだ。
ただ、再出現が発生するにも法則があって、一定範囲内でその魔物の最低数を下回らないといけないんだとか。
なので人里などでは魔物が再出現しないように魔物を捕獲して閉じ込めて生かしているらしい。家畜化させてるって事だとか。
ただ、ルナティックムーンという満月の日は制御してあるはずだけど魔物がポップして周囲の人々に襲い掛かる。しかも満月の夜は出現法則が乱れて危険な魔物が出現するそうだ。
これがルナティックムーンという話なんだとさ。
もちろん出現する魔物の中には人に襲い掛からない安全な魔物もいる。
街や村があるのはそういった安全な魔物が多い地域なんだそうだ。
「特に問題なく戦うことは……一応できそうだ」
Lv1だけど魔物相手に腕輪の魔法弾で倒すことが出来た。
マンドラコンがLv1でも倒せる雑魚ってだけだけど、それでも倒していくことでLvが上がっていくんだからやってやれない事は無い。
話によると次のルナティックムーンは二週間半後辺りに起こる。エクリプスムーンはまだ先だ。
人里に居れば他の戦える人たちが代わりに戦ってくれて比較的安全なんだろうけど、自衛できるようにするに越したことはない。
「やって行くぞ!」
「ピー!」
と俺は自分を奮い立たせて魔物使いとして戦う術を考える。
俺が授かった職業は魔物使いという魔物を使役して戦うという職業だ。
上位職業になるには最低Lv55以上必要で、上位職業は色々と分岐する……そうだ。これは転職可能条件を満たせばわかるらしいのでLvを上げることを優先すれば良い。
それでだ……あくまで腕輪の魔法弾は攻撃手段の一つでしかなく、魔物使いの本領は魔物が居ないといけない。
その為にはテイミングをしないといけないって話な訳で……ジェリーム、お前はテイミングしたっけ?
特に何かした訳でも無く俺にそのままついてきたので気にせずにいたけど、いい加減やっても良いよな?
昨日の夜もご飯あげたし、俺に懐いているみたいだし、悪い気はしない。
何となく魔物使いとしての感覚がテイミング出来ると教えてくれる。
「ピー? ピー!」
なんとも友好的な反応、いや、俺の言葉はきっとわかってないだろうけどさ。
さて……じゃあテイミングをするか。
「テイミング」
――必要道具がありません――
ステータスウィンドウが飛び出して警告が表示される。
え? テイミングに必要な道具があるのかよ。
知らなかった。
うーん……後で必要な道具を確保してまたここに来ればいいのか?
という所でウィンドウがスクロールしてテイムカラーが明滅している。
テイムカラー……テイムって飼いならされたとか人に馴れたって単語だ。
カラーは襟って意味があって、テイムするカラー……。
もしかしてテイムカラーってテイミングの代行を腕輪で出来るって事なのか?
俺は腕輪の形状を大きく輪っかにしてジェリームの頭に載せる。
「ピー? ピピ!?」
ビクッとジェリームが驚きの表情を浮かべたがやがて輪は腕輪となって俺の腕に収まった。
テイムカラー完了。
ジェリームを登録しました!
ジェリーム Lv1 種族 ジェリーム ♂
主人 海山明彦
所持スキル
たいあたり 採取 人語理解
ウインドウにそう表示される。どうやらテイミングが完了したようだ。
「どうやら登録完了したな」
「ピ!」
スタッと俺の足元に着地したジェリームが了解って感じで鳴いた。
「俺の言葉がわかる?」
「ピ!」
コクリと頷いた。どうやら魔物を使役する事が出来るようになったようだ。
俺の初のテイミングした魔物はこのジェリームとなった訳で、これから苦楽を共にする仲間になったんだ。
ブラック企業勤めだったから仲間と言うか部下に同じ思いをさせるわけにはいかない。
しっかりと優しく育てて行こう。
「手始めにしなきゃいけない事は……やっぱ名前を付ける事だよな」
うーん……どんな名前を付けたら良いかな?
「お前はどんな名前で呼ばれたい?」
「ピー?」
この辺りはよくわかってないのかジェリームは首を傾げている。
とりあえず呼んでいる内に慣れていくもんだろう。
ジェリームか……正直ゲームのスライムみたいな魔物だから……スライムのスを抜いてライムってのはどうだ?
「よし、お前の名前はライムだ。これから俺はお前をライムと呼ぶ、どうだ?」