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7話

アスティアラとシャノンに侍女達が日傘をさしてゆっくりと庭園を歩く。


「綺麗に咲いているわね。」


「そうですね、妃殿下。」


その時、静かな庭園の雰囲気を壊すような若い娘の声が聞こえてきた。


「ふわぁぁぁ!!すっごぉーい!こんな広い庭園、見たことないよぉ〜。」


(何だろう…。凄く不快感を感じる。声の感じかしら。)


こんな表現を使用するのは不本意だが、「きゃぴきゃぴ」といったような声だった。


「妃殿下、もしかしてあの方は。」


声が聞こえた方に歩みを進めるとそこには黒髪黒目の少女が居た。この世界にも黒髪の人はいるが、彼女の髪を見てしまえば他の黒髪なんて灰色に見えた。


「あっ、こんにちわ!私、アイリって言います。」


「異世界の…乙女様ですか?私はアルラシラ王国の王妃アスティアラ・アルラシラと申します。」


アスティアラはアイリよりもアイリのすぐ後ろでアスティアラを見下したように見つめる侍女が気になった。多分アイリは王后になるのだから側室であるアスティアラを見下しているのだろう。

それにアスティアラの侍従の人数よりアイリの方が多いのも原因かもしれなかった。


「異世界の乙女様って堅苦しーから、アイリって呼んで!」


完璧妃として笑顔を絶やさずニコニコしているアスティアラだが、アイリの溌剌とした笑顔には勝てない気がした。ずっとあの笑顔を絶やさないのだから。

あの笑顔に比べればアスティアラの満面の笑みはただの微笑になってしまう。


「いくら異世界の乙女様といえど、妃殿下にあまりにも無礼では…。」


侍女の1人がそう言いかけた時、アスティアラを見下すように見ていたアイリの侍女が口を開いた。


「アイリ様は異世界の乙女様ですよ。妃殿下の方が無礼なのではないでしょうか。」


お互いの侍女の険悪な雰囲気を察知したのかアスティアラが止める前にアイリが動いた。


「もうっ!ハイデマリー、私は気にしてないよ。皆仲良くしよ!」


ぷくっと頬を膨らませ腰に手を当てる。そうしたかと思えばパッと笑顔になった。表情がコロコロ変わるな…とアスティアラは思った。


「アスティアラ様、仲良くしてくださると嬉しいでっす!」


アイリはアスティアラの手を握る。振り解いて数歩下がりたい気持ちを抑えた。


「私も異世界の乙女様とお近づきになれて嬉しく思います。」


「あーっ!異世界の乙女様じゃなくってアイリでいいって言ったでしょ。私もアスティアラって呼ぶから!」


またアイリはぷくっと頬を膨らませ「私少し怒っています」という感情を全身で表していた。


「でもアスティアラじゃ、ちょっと長いなぁ。ティアラって略せばいいかなぁ?」


アイリは腕を組んで真剣に悩んでいる。アスティアラは自分の名前を長いという理由で略されようとしていることに少なからず怒りを感じていた。しかしそれを悟られぬように笑った。


「ねぇ、アスティアラは何て呼ばれてたの?」


「家族からは『アスティ』の愛称で呼ばれております。」


「じゃあ、アスティって呼ぶね!」


その時後ろからアスティアラ一行でもアイリ一行のものでもない足音が聞こえてきた。その足音は近づいてくる。


「騒がしいと思えばアスティアラと異世界の乙女殿か。」


やって来たのはマクシミリアンだった。後ろには侍従達を引き連れている。


「ご機嫌よう、陛下。騒がしかったのならば申し訳ございません。」


アスティアラは頭を下げる。アスティアラの侍女達もアイリの侍女達も頭を下げた。この場で頭を下げなかったのはアイリだけだった。


「へーか…って、王様かぁ!陛下、あの宮を私に下さってありがとうございます!!」


アイリはマクシミリアンに近づいて頭を下げた。


(わざわざ近寄らなくてもいいでしょう。)


アイリが元々居た位置からでも十分お礼は言える。アイリは近づきすぎだった。アイリにマクシミリアンに近づいてほしくない…そんな感情がアスティアラの中で渦巻いていた。


「挨拶が遅れてしまってすまない、異世界の乙女殿。私はマクシミリアン・アルラシラ。」


「陛下、私はアイリです。異世界の乙女じゃなくてアイリって呼んでください。」


アスティアラは2人が並ぶ姿を想像してしまった。国王と王后としての2人を。


(何でしょう、この気持ち。)


黒いシミのような感情がこびりついて取れない。


(嫉妬?)


いいや、違う。とアスティアラは首を振った。2人はお似合いに見えた。その時やはりあの言葉を思い出す。


(真実の愛…まさに2人にぴったりじゃない。)


世界を超えての壮大な真実の愛。それにただの契約結婚が勝てるわけがなかった。


「そろそろ失礼致しますわ、陛下。アイリ様。」


シャノンや侍女達は驚いたようにアスティアラを見る。彼女達から見たアスティアラはマクシミリアンと仲の良い夫婦だったからだ。嫉妬の一つもせず静かに身を引くなんて思っていなかったのだろう。


(仕方がないじゃない、相手は異世界の乙女なんだもの。神に選ばれた王后の座に相応しい人なんだから。)


アスティアラを呼ぶマクシミリアンの声が聞こえた様な気がしたが、振り返らずにアスティアラはそのまま宮に帰った。

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