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6話

「ふえぇぇ。お城、大っきい。」


お姫様みたいな豪華で可愛らしいドレスを見に纏った愛梨は今、王宮の門を潜った。どうやら愛梨は異世界の乙女というこのアルラシラ王国では王族と同じくらいの待遇を受けられる偉い人らしい。

そう神官のお爺さんに教えられたのだ。この国は何処か自分はどういう状況なのか。あのお爺さんには感謝している。


「でも…これは夢じゃなくて現実ってことよね。」


頬をつねりながら愛梨は呟く。「家に帰りたい!」そう泣いて神殿の人達を困らせたりしたけど泣いたらすっきりした。まだ受け入れられないが少しずつ受け入れられる様に心が準備しているのだと思う。


「ようこそいらっしゃいました。異世界の乙女様。」


大勢の召使い達が頭を下げる。本当にお姫様のようだった。


「乙女様の侍女長を陛下から任されました。ハイデマリーと申します。」


「よろしくお願いします。あと、私のことは愛梨って呼んでください。異世界の乙女様じゃなんだか寂しくって。」


ハイデマリー達は一瞬大丈夫だろうか、と顔を見合わせた。しかし愛梨が望むなら。


「では、アイリ様。よろしくお願いします。」


愛梨は今から滞在する部屋…というか一つの宮殿に案内された。


「えっ!この建物全部私が使っていいの!?」


「はい。アイリ様の宮です。まぁ、すぐにもっと豪華な宮に移るでしょうけど。」


愛梨は両手を上げて喜んだ。その子供のように無邪気で純粋な喜び方は宮廷での闇の深い争いを間近で見てきた使用人達にとって癒しとなっていた。


「ありがとう!!」


「アイリ様、お礼なら陛下に言われた方が良いかと。すぐにお会いできますよ。」


「そうなの?なら早くお礼言いたいなぁ〜。」



******



異世界の乙女が王宮にやって来たと聞いた。今は貴賓を泊める為の宮に一時的に住まわせているようだが、いずれは王后宮に移るだろうと予想された。


(寝たら…落ち着いたわ。)


まだベッドに寝たままのアスティアラはやっと起き上がった。いつもより早く寝たのにいつも通りの時間に起きたので寝過ぎのせいか少し頭が痛かった。


「妃殿下、おはようございます。洗顔用のお湯をお持ちいたしますので少々お待ち下さい。」


カーテンを開けていた侍女がそう言って寝室から出て行った。無意識にアスティアラは自分の隣のシーツを撫でる。しかしそこに温もりはない。


(あっ、そうか。陛下と一緒に寝たわけではなかった。)


たとえマクシミリアンと共に睡眠をとっていたとしてもアスティアラが起きる頃にはマクシミリアンはいない。しかし、アスティアラはシーツ残った体温の温もりを無意識に探していた。それは毎朝の日課と言っても良かった。


(恋しがっているみたいじゃない。)


異世界の乙女が王后になればマクシミリアンがやって来る事も無くなるのだろうか。公的な行事には顔を合わせるかもしれないがそれは年に何回だろう…と無意識にアスティアラは数え始めていた。


公的な行事に国王に付き添うのは王后。つまり側室の王妃であるアスティアラがマクシミリアンと会える回数は片手で収まるくらいだ。会うというよりは顔を見るという表現の方が正しいだろうか。


「妃殿下、お持ちいたしました。」


お湯の入った洗顔用の器を持つ侍女とタオルを持つ侍女が列を成して入ってきた。


「ありがとう。」


いつも通り顔を洗い、侍女達にドレスを着せて貰う。シャノンがやって来て話をする。いつも通りの筈なのに漠然とした不安感がアスティアラを襲っていた。


「ねぇ、シャノン。議会の方では異世界の乙女様について議論されているのかしら。」


「さ…さあ?議会の内容はしりません。しかし西部地方の干ばつなどが議題に上がっているのではないでしょうか。」


シャノンは無理して話題を異世界の乙女から避けた。女が政治について話すのはあまりよく思われていない。求められるのは良い家庭を作れる技術だけ。


「まあ、確かに異世界の乙女様が来たところで干ばつがどうにかなるとは思えないけど。」


はっとアスティアラは口を押さえた。なんてことを言ってしまったのだろう。異世界の乙女を蔑ろにするような発言を王妃がしていい訳がない。勿論オウァルト家の娘としても駄目だ。


「あっ。もしかしたら今代の異世界の乙女様のおかげで干ばつを解決させる何かがあるかも。」


慌てて訂正する。


「今までの乙女様が出来なかっただけで今代は違うかもしれませんからね。」


ぎこちなく笑いながらアスティアラの失言をシャノンはフォローした。そして近くの侍女が聞いていなかったか、確認する。どうやら聞こえていなかったようだ。


(このまま話しているとどんどん失言して行きそうだわ。)


「シャノン、今日は天気もいいし庭園に散歩に行きましょう。」


侍女達にもその言葉が聞こえたのか、テキパキと外出の準備をし出した。「彼処の庭園で新しく花が咲いたと庭師が言っていた」とか「今の時間帯は其処の庭園は庭師が手入れしている時間帯だから」など、侍女達はすぐに最適な散歩コースを割り出していた。


「準備が整いました。」


日傘を持った侍女がやってきた。


「じゃあ、行きましょうか。」

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