表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

2話

「妃に…ですか?」


アスティアラは目を丸くした。貴族令嬢達の憧れ、マクシミリアン王太子からの求婚の言葉に誰しもが胸を高鳴らせるはずだ。しかしそんな事よりもアスティアラは疑問の方が大きかった。


「何故、私を?」


素直に受け取れないのはアスティアラが賢いが故の考えすぎなのか、その謙虚さから来るものなのか。


「ちょうど良い相手だと思った。家柄、教養、王室に入っても問題ない。」


アスティアラが聴きたかったのは何故わざわざ、さっき婚約者に逃げられた令嬢を妃として迎えようとしているのかだ。


「ただこの話をオウァルト嬢に持ちかけたのは2人の利害が一致すると考えたからだよ。」


(そんな事だろうと思った。)


利害の一致など持ちかけた結婚は契約的な何かだ、と言っている様なものだった。純粋にアスティアラを好いていて婚約者に逃げられたのを丁度いいと思って求婚して来たわけではないだろう、と心の何処かで気づいていた。


良くも悪くもマクシミリアンと交流があったアスティアラはマクシミリアンがどんなことを考え行動するのか手に取るようにわかる。


「君は嫁ぎ先が無くなり困っている。次はリーベルス元侯世子(あれ)以上の縁談は望めない。僕は周りから結婚、結婚と言われ辟易している。なら形だけでも妃をとってしばらくは静かな生活がしたいと思ったんだ。」


「確かに、普通の御令嬢に持ちかければ大変お怒りになられるでしょうね。」


「もしかしたら、オウァルト嬢も怒るかもしれないけど側室…第二妃として来て欲しいんだ。」


アスティアラはふふっと笑いをこぼした。


「まさか私がそれだけで怒る心の狭い者だとお考えで?今の私からすれば側室だろうが娶ってくださるだけでありがたいのですよ。」


しかし普段のアスティアラなら怒っていただろう。正妃としての素質が十分に備わっているはずのアスティアラが側妃だなんて…と。

しかし婚約者に逃げられ、なかなかピンチだったアスティアラはショックのあまりこの時正常に脳が働いていなかったのかもしれない。


(問題の解決ではなく、問題の先延ばしが御所望なのね。)


アスティアラを妃として娶り、しばらくは周りも静かになるかもしれない。しかし根本的な子供などの問題は解決していないのだ。


「私は第二妃でも全然問題ありませんが、殿下はそれでよろしいのでしょうか?正妃の座が空いたままだと問題の解決にはなりませんよ。」


「偽装結婚みたいなものなのに、余計な重圧を背負わせるのは申し訳ないから。」


「そうですか。殿下がよろしいのでしたら。」


アスティアラとマクシミリアンは握手を交わす。交渉成立の合図だった。こうして王太子の第二妃、お飾り妃アスティアラが誕生する事となる。



******



「お綺麗です。アスティアラ様。」


あの日と同じ様にアスティアラは鏡の前に座り、リタが化粧を施していた。しかし嫁ぎ先が変わり、誰1人として侍女を連れて行けなくなった。

王宮には王宮の侍女が居る。仕方がない事だとアスティアラは自分に言い聞かせた。


(今回の結婚相手は式直前に逃げる様な人じゃない。)


アスティアラはゆっくりと愛してもいない人の元へと歩き出した。恋愛なんて貴族の娘として生まれた以上縁のないものだと諦めていた。第二王太子妃として王宮で悠々自適に暮らせるなんて、凄くラッキーだ。


(真実の愛…ね。)


せっかくの結婚式だというのにアスティアラは頭の中ではそんな現実ではふざけた、三文恋愛小説の中ならなんてロマンチックな言葉を思い出していた。


「王太子、マクシミリアン・アルラシラはアスティアラ・オウァルトを第二妃として迎え、」


そこまで言うとマクシミリアンはチラッとアスティアラを見た。待ってました…という感じにアスティアラも口を開く。


「アスティアラ・オウァルトは殿下の妃として誠心誠意お支えする事を誓います。」


アスティアラ達の前にいる結婚の宣言のために読んだ大司祭はぽかん…と口を開けていた。こんなに短い宣言は初めてだったのだろう。王族の結婚式は欠伸が出るほど長いと定評があるくらいだ。


「あっ。こ…これで、お二人は夫婦となり…アスティアラ・アルラシラは王太子マクシミリアン・アルラシラの妃となったことを宣言いたします。」


普通の結婚式ならここで拍手やら歓声やら聞こえてくるはずなのだがそんな音よりも騒めきの方が大きかった。


「えっ?今ので終わり?」


「短すぎるだろう。」


公爵令嬢を側室として迎えるという事に反発は起こりかけたが何せ婚約者に一回逃げられている公爵令嬢だ。そこは皆仕方がない…という感じで触れなかった。

しかしいくら側室だからといってこんなに結婚の宣言を短くしていい理由にはならない。


(まぁ、私はただのお飾りの妃だからこんなものなのか。)


マクシミリアンはアスティアラに笑顔を向けた。アスティアラも笑顔を返す。


(誰もこの結婚がただの偽装結婚の様なものだと疑っていない。)


バルコニーに出ると今日だけは王宮の庭園に入ることが許された国民達がアスティアラとマクシミリアンを拍手や万歳の声で出迎えた。彼らは結婚の宣言が異例の速さで終わったことを知らない。


アスティアラは完璧令嬢の…いや、完璧妃の笑顔で手を振り続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ