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頂上

作者: 都槻 郁稀

 時計回りに下る階段を上る。地表は霞んで見えず、昨日追い越した雨雲は薄く敷かれていた。ゴーグルの前を風が飛び交う。

 安全基準ギリギリのパラシュートと、最小限の荷物を背負い、私は塔を登っている。板を刺しただけのような階段を、一つずつ登る。


 ある日、突如としてその塔は崩壊した。天に登るため、神に近づく為に作られた上り階段が、麓の都市を半分だけ押しつぶしながら、西へ崩れた。


 誰かが、神が崩された、と言った。私は、老朽化を主張した。前文明の遺物だ。今まで残っていたほうがおかしいのだ、と。

 少数派だった。誰も行きたがらなかったその“調査”に、私が推薦された。これも、数の暴力だった。


 もう諦めた。


 帰る家を売り払い、上質な防寒具と食料を買った。下り階段を登り始めた。


 数千と数百の昼を見て、数千と数百の夜を見た。それでも、身体が老いることはなく、足は上へと急いだ。


 日が沈む。雲が光る。残光を受けて光る塔に、誰かの足音が響き始めた。

 軍用食を咥えたまま荷物を背負い、少しずつ上へと歩き始めた。そもそもここは下り階段だ。誰かが降りてきても不思議はないだろう。


 ある。不思議しかない。降りてくるとしたら、それは誰だ? 神か、それとも上り階段に散った無数の探検者か。


 コツ、コツ、コツ。突然に足音が止む。服の擦れる音とため息。座り込んだようだ。目の前の角を曲がってすぐの場所に。

「いつまで登るつもり?」

とその人は言った。


「詮索する気はないよ。君が誰で、何故登ってきたのかなんてのはどうでもいい。僕が知りたいのは、君の持つ理由が本物なのか、君に登り続けるに値する価値はあるのか、の二つだけだ」


ゆっくりと角を曲がる。その人は、壁に寄り掛かったまま遠くを見ていた。首が右へ動く。蒼を反射する眼は、私を足先から頭までじっくりと舐め回した。


「いいよ。通りたいなら通ればいい。けど、降りる許可までは与えられない。それと」


付け足そうとする彼の言葉に足を止める。


「ここから先は君の世界じゃない。一歩でも進んだら、戻れないと思ったほうがいい」


数秒ほど躊躇い、私は足を進めた。心の中に絡みついた紐が、無くなったような気がした。


 数千と数百の夜が訪れ、数千と数百の昼が去った。遂に、頂上に辿り着かなかった。帰ることは許されなかった。

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