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青い海のさざ波について

 景は黙々と歩いて海辺までやってきた。さざ波の音を聞いていると、怒り狂った頭が徐々に冷めてくる。

 そこでカバンからいつかもらったブーケを取り出す。既に萎れたブーケは、本当は恵の顔に叩きつけるつもりでいた。しかしそんな余裕もなくぶん殴ってしまったのだ。

「ま、いいか」

 景は一人ごちて萎びたオレンジ色のブーケをまじまじと眺める。なんか可哀想になってきた。なにが可哀想なのか景にはわからないのだが。

「うん。終わり終わり」

 おおきく振りかぶって、唇を引き締めて。

 一瞬の躊躇もなく景はブーケを海に投げ入れた。

 ブーケはきれいな弧を描いて海へと吸い込まれる。僅かに水面ではねて、その後沈んだ。

 泡が立つこともなく、再び浮かび上がってくることもない。

 それでいいのだ。

 景と恵は一緒になることができなかった。そのことを残念だと思わないわけではない。だとしてもこれ以上一緒にいることはできなかった。だから別れた。

 景はスマートフォンを取り出してぽちぽちと操作する。

 もうこれで恵から景に連絡することはできないだろう。景から連絡する気もない。

「はーー、次、行こう」

 くるりと踵を返して景は帰路につく。家に帰る頃には恵の顔も曖昧になっているだろう。

 景は前へと歩き出した。

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