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握った拳の行方について

「でも、別れるの、もうちょっと待ってくんない?」

「嫌」

「そう言うなよ。おれとお前の仲だろ」

 今の景にとっては反吐が出そうなセリフだった。なにが"おれとお前の仲"よ。もうそんなものとっくの昔に破綻しているのに。

「いや――、今度用事があって地元に帰らなきゃいけないわけよ。そこで景のこと彼女として紹介したいんだよね」

「なんで今さら」

「あ、勘違いするなよ? 結婚相手として、じゃないから。結婚結婚って親がうるさいから、一応ポーズとして見せておきたいんだ」

「……」

 景は絶句した。それを了承と捉えたのか恵はなおも続ける。

「その後だったらいつでも別れるからさ。おれももっといろんな子と遊びたいし。そういうの親は田舎者だから理解してくれないんだよね――。結婚だの後継ぎだのってさ。でもお前を紹介しとけば少しは静かになるだろ? しばらくはおれの親の相手してやってよ」

「本気で言ってるの」

「はあ? 別に冗談で言うことでもないだろ? もしかして親に紹介って聞いて喜んじゃった? ごめんな――。ぬか喜びさせたな。でもおれがお前と結婚したくないことくらい、いくら景でもわかってただろ」

「うん。恵に結婚する気がないことはわかってた」

「だろ! 景ならわかってくれると思ったわ。日にちは決まったら連絡するからさ。その時だけよろしくな。自分の旅費は自分で出せよ? おれの分も出してくれていいけど。二人の最後の思い出づくりだもんな!」

 今度こそ景の頭は真っ白になった。そしてすうっと息を吸って、はあっと吐く。恵はまだなにかしらをまくし立てているが、もはや景の耳には入らない。

 ぐっと拳を握って景は言った。

「歯、食いしばれ」

「え?」

 景の渾身のグーパンチが恵の頬を捉えた。立ち上がり机にお札を叩きつけて景は喫茶店を飛び出る。

 最後に見た恵はまだひっくり返ったままで、でもそのことに景が感想を抱くことはなかった。

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