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療養中~2

「それで・・・やはり、マクナム領に赴くことにしたの?」


ジョルジュが心配そうにジュリアの顔を覗き込む。ジュリアの顔色はまだ血の気が失せている様子もあるし、歩くこともままならない状況なのだ。


「ええ。今はまだ無理だけど、回復次第すぐに向うつもり」


「結婚式の前に、君にあちこち行ってもらいたくないんだが」


ジョルジュは渋い顔をする。怪我がまだ十分に回復していない上に、結婚式もそう遠くない日取りで決定している。


「式の準備はマーカスに任せても問題ないとは思うけどね・・・」


「マクナム領を相続したからには、やはり責任というものもあるし」


「わかっているよ」


端整な顔に、ほんの少し唇を緩めて、ジョルジュは微笑む。


「それじゃ・・リハビリを始めようか」


話が済んだとばかり、ジョルジュは立ち上がり、椅子に座っているジュリアにさっと手を差し伸べる。その手を取ると、ジョルジュが肩を支え、椅子から立ち上がらせてくれた。


彼が差し出す手をしっかりと握ると、暖かくて大きな手に包まれる。


おぼつかない様子で、一歩、また一歩と足を出すジュリアにジョルジュは励ますように声を掛ける。


「そうだ・・・良い調子だ。そう、またもう一歩出して・・・」


彼の肩に掴まりながら、ジュリアは足を一歩、また一歩と踏み出す。長い間、鍛えていた賜物なのか、次第にスムーズに足を出せるようになっていた。


「あっ」


ふとした瞬間、ふらっと足下がおぼつかなくなって、重心を崩した。絶妙なタイミングでジョルジュがさっと腕を出す。彼の胸の中に抱き寄せられて、ジュリアは思わず赤面した。


「随分、歩けるようになったね」


満足そうにジョルジュが微笑む。グレーの瞳が満足そうに細められる。


それを見たジュリアの胸にふんわりと暖かな感情が広がった。


── これを愛と言うのだろうか。


「どうしたの?」


優しい彼の声が、耳に心地よい。ジュリアは、思わず口元に微かな笑みを浮かべる。


「いいえ・・・別に」


ジュリアは若い娘らしく薄く頬を染めて、猫のように彼の胸にすり寄った。誰よりも身分が高い彼。彼が身に纏っているものは、素晴らしい一級品だったし、一つ一つの所作が上品で綺麗だ。


今の自分はジョルジュ・ガルバーニの婚約者なのだ。


── もうすぐこの人の妻になるのだ。


誰よりも利発で、優しいこの人の妻に。


ジュリアの胸は幸せで一杯になって溢れそうだった。今、制作中の本当の自分のウェディングドレスに思いを馳せた。素晴らしいレースに包まれた長いベールに、ふんわりとした美しい純白のドレスだった。


それを来て、今度こそ、祭壇で彼の横にたつのだ。マークも、チェルトベリーの部下達もみんな結婚式に来てくれることになっている。馴染みのある部下達に祝福されながら、結婚式を挙げるのだ。皆に祝福されて、教会で、あの美しいドレスを着て、ジョルジュと式を挙げる。


なんて幸せなんだろう。


そんなジュリアの気持ちを察したのだろう。彼の整った顔に、柔らかな微笑みが浮かぶ。


「ジュリア・・・調子がよさそうでよかった」


そう言って、彼女を抱きしめたまま、やわらかな頬をそっと指でなぞる。


「少し、休憩しようか」


ジョルジュはそう言うと、彼女を抱きかかえたまま出窓へと腰掛けた。ジョルジュの膝の上にジュリアは横抱きに座らされる。


「・・・あの、ジョルジュ?」


戸惑った様子を見せるジュリアに、ジョルジュは口元にえも言われぬほど魅惑的な表情を浮かべ、ジュリアを熱い眼差しで見つめた。


「リハビリは少しお休みだ」


ジュリアは、まだ男性の気持ちに疎く、彼が何をしようとしているのか、見当もつかない。それなら・・・と、彼の膝から立ち上がろうとして、ジョルジュに遮られた。


「そういえば、まだ君からご褒美をもらってなかったね?」


ジョルジュは口元に小気味よい笑みを浮かべ、当然だと言う顔をする。


一体なんのことなのか。


「ご褒美って・・・?」


ジュリアがジョルジュの膝の上から彼を見上げれば、彼の視線はさらに熱を増す。


「そう・・・ザビラから君を救出したご褒美だよ」


彼のグレーの瞳は面白そうにジュリアの顔を見つめている。


ご褒美とは、金銭的なこととは思えない。何しろ、彼は王族に近い位を持つ公爵なのだから。


「えっと・・・ジョルジュ、それはどんなご褒美なのですか?」


ふ、と彼が笑う。その笑顔が素敵すぎて、ジュリアの心臓はドキドキと音を立てる。こんな素敵な人が自分の婚約者だなんて、夢を見ているようだ。すぐに目が覚めて、チェルトベリー子爵領の騎士の宿舎で目が覚めるんじゃないだろうか。


彼は端整な顔にさらに晴やかな笑みを浮かべて、自分を見つめる。


「・・・当然、貴女に決まっているじゃないか」


そう言って、彼はジュリアの頬に両手を当てる。真っ直ぐにジョルジュと視線がかち合い、ジュリアは真っ赤になって狼狽える。すでに一線は越えてしまっていたが、あの時は、正気じゃなかった。正直言って、何をどうしたのか、はっきりした記憶がない。うっすらとは覚えているが、詳細については、恥ずかしいので出来るだけ思い出さないようにしていた。


「そ、それは具体的にはどういう・・・」


ジュリアは慌てて立ち上がろうとしたが、気づけば、がっつりジョルジュの胸に抱きしめられていたのである。


狼狽して口を開こうとしたジュリアの唇に彼が人差し指をそっと押し当てた。


黙って、と言うことだろうか。


ジョルジュの目がそっと細められて、彼の唇がジュリアの頬に触れる。ジョルジュの強烈な色気のせいで、ジュリアの頭は酔ったようにクラクラとする。


「あ・・・」


重ねた唇の合間に、ジュリアの吐息がそっと吐き出される。彼の唇は張りがあるのに、柔らかくて。


「そう、ジュリア。体の力をもっと抜いて・・・」


ジョルジュが優しく導くように、ジュリアの耳元で低い声で囁く。ジュリアは戸惑いながらも、おずおずと彼の唇に再度、自分の唇を重ねた。


「私もマクナム領へ一緒に行こう」


ジョルジュが何かを決心したように、その言葉を口にする。結婚式を控え、再びジュリアと離ればなれになるのは、耐えがたいことだった。


「ジョルジュ、お忙しいのでは・・・?」


「ああ、仕事が忙しいのは当然だが、君を一人でマクナム領へと行かせたくないんだ」


また何かあったら、どうするんだと心配するジョルジュに、ジュリアは笑う。


「もうザビラのようなことはないと約束します。私一人でも大丈夫です」


「・・・まだ怪我も十分に癒えていない。君一人では行かさない」


そういうジョルジュの意志は固いようだった。最初に、ジュリアにファーストネームで呼ぶように約束させた時と同じで、ジョルジュが言い出したら、テコでも動かないことをジュリアは知っている。


そうして、結局、マクナム領へジョルジュが同行することで押し切られてしまったのだった。



短くて大変申し訳ありません。現在、非常に多忙でして・・・(涙

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