第3話
土屋君とは手を繋いで一緒に帰ったり、一緒に昼食を食べたり、甘酸っぱい青春を謳歌してます。
夏休みに入って、一緒にプールに出かけたり。赤字に白のドットの入った水着姿はまさにグラビアアイドル顔負けのむちむちぷりん。
「智花、可愛い…」
と土屋君にも褒められたのだ。
「ほんと?」
「うん…悩殺されそう。」
土屋君にはちゃんと私が魅力的に見えているらしい。今だけはこの体型を感謝。二人でレジャープールを思う存分楽しんだ。一緒に泳いだら、今度は海の生物が見たくなって、水族館に行く約束もした。連続デート。もうわくわく。
手を繋いでの水族館はロマンチックで最高のデートコースだと思う。憧れてたんだ。こういうの!海の魚もとっても綺麗で、水槽が透けている薄青い光も神秘的。たまたま人のいなかった深海魚コーナーで土屋君にハグされた。男の人にハグされるのなんて初めての経験!
「智花…」
土屋君の唇がゆっくりと近付いてくる。
あ、キスされる……
キス…タロ…
タロの優しい口付けがフラッシュバックする。
「ヤ!」
唇を重ねられる寸前に土屋君を突き飛ばしてしまった。
タロ以外の人にキスされるんだ…と思ったら急にすごく嫌な気持ちになってしまって、思わず突き飛ばしてしまった。傷ついた顔をしているだろうか…とおろっと土屋君を見ると露骨に舌打ちされた。な、なんか冷たい。怖い。
「ご、ごめん…キスは、まだ待って…」
内心の恐怖を押し殺して言葉を紡ぐと、土屋君が私を嘲笑した。
「ハァ?なに?オマエ自分がそういうの拒否できる立場だと思ってんの?マジあり得ないんだけど。」
豹変したかのように態度を変える土屋君に怯える。
「なあ、愛華。もういいだろ?お前のお遊びには付き合ったんだし。」
土屋君が声をかけると水槽の陰から学校一の美少女と名高い、西崎愛華さんが出てきた。
「キスまで奪えれば完璧だったのにぃ。まーもう一ヶ月は付き合ったしぃ、許してあげるけど。」
愛華さんは土屋君の腕に自分の腕を絡めた。
「な、何で…?」
「愛華が、『泉智花を落として一ヶ月付き合ってこっぴどく振ってくれれば付き合ってあげる。』って言うから仕方なーくオマエと付き合ってやったんだよ。一ヶ月も良い夢が見られてよかったな?」
「あんたやらしい身体してるからって男子にチヤホヤされてうざいのよ。大した顔でもないくせに。これは今からアタシのオトコ。」
愛華さんは土屋君とキスをした。
騙されてたんだ…浮かれちゃって、ばかみたい…
私は泣きながら逃げ去った。惨めだ。男を見る目が無さ過ぎた。最高に素敵な王子様だ!とか思いこんじゃって…ばかみたい…
デート服のままフラフラ。足はおぼつかない。拭っても拭っても涙が出てくる。ボロボロボロボロ泣いた。
「智花よ。そんなに泣いて、どうしたんじゃ?」
声を掛けられて振り向くと、茶色の髪に金色の糸のような瞳。森野君が立っていた。
「振られた。」
端的に述べた。
「それは…」
森野君が眉を顰めた。
私は森野君に、私が騙されてたこと。ただ単に愛華さんの目障りだったから、土屋君に弄ばれて、ついさっき捨てられたことをぶちまけた。
森野君は泣いていた。
「可哀想になあ…あんな男に智花を任せてすまん事をした…」
私もわんわん泣いた。土屋君が私のことを微塵も好きじゃなかったことも悲しいけど、自分に向けられる悪意が存在していたことが怖くて、悲しくて、これからもこんなことがあるんだとしたら、私はきっともう二度と恋などできないと思ったら辛くて泣けた。
「よし。わしが、土屋への想いをみぃんな無くしてやる。智花を守ってやる。だから智花は、もっと良い恋をするんじゃ。いつか子供を産んで幸せな家族を作れ。わしの愛しい智花。」
フワッと体から、いらないものが抜けていった気がした。
ポツンと繁華街に一人で佇む私。
あ、あれ?私、誰と喋ってたんだっけ?誰かと喋ってた気がするんだけど。思い出せない。何か泣いたら随分すっきりした。失恋記念にケーキでも買って帰ろう。
美代子を呼んで失恋パーティー。
「男なんて星の数ほどいる!」
美代子は私を慰めてくれた。振られはしたが案外堪えていない自分に気付く。愛華さんと土屋君から凄い悪意を向けられはしたが、なんだか誰かに守られているような気がして、心がぽやんとあったかい。なんだか、これから先もやって行けるような…勇気が出る。あんなクズの事引きずらずに済んでよかった。弄ばれて振られたことはさっぱり忘れて新しい恋を探そう!人間は忘れっぽい生き物らしいからな。それを私に言った人、森野君は今頃元気だろうか。学校辞めちゃって何をしてるんだろう。よくよく考えてみれば、私は森野君の友達だったけど、森野君がどこに住んでるかとか連絡先とか全く知らなかったことに思い当たった。聞いておけばよかった。人生は一期一会らしいけど、森野君と再会する機会などあるのだろうか。なんだかすごく、森野君に会いたい。