脱獄計画
兄さんがガラスの穴から渡してきたもの、それは指輪だ。
「……プロポーズっすか?」
「んなわけねーだろ。 具体的なことは、霊獣に聞いてくれ」
兄さんはチラ、と扉の方に目をやった。
ここで詳しい話はできない、ということね。
「……分かったわ。 またね」
私は、留置所を後にした。
事務所に戻り、指輪をはめ、こすって呼び出す。
現れたのは、意外な霊獣だった
(な、なんかかわいい)
不思議の国の〇リスにでも出てきそうな、そんな出で立ちのウサギだ。
ウサギは軽く会釈した後、話を始めた。
「任務内容を説明するピョン」
任務の内容とは、兄さんを刑務所から連れ出し、国外に逃がす手伝いをして欲しい、というものだった。
そのために、自分の能力を駆使して欲しいとのことだ。
「この時計に触ったら、もれなく仮想空間に飛ばされるピョン。 それで何度もシュミレートを重ねて、100パーセント成功する脱獄プランを練って欲しいのピョン」
いくら身内の頼みとはいえ、国外に逃がす手伝いなんて……
正直、兄さんとはまともに口を聞いたこともなかった気がする。
子供の頃は一緒に遊んだ記憶もあるけど、中学に上がったくらいから兄さんは霊獣殺しの訓練をさせられていたから。
(兄さんの、最初で最後の頼み、か)
「……ちょっと、考えてみるわ」
「頼みますよ!」
……ん?
頼み、ますよ?
「……頼むピョン」
「無理してつけんでいいわ!」
私は部屋の中をぐるぐる回り、いい知恵はないかと考えていた。
「んー、あれをああして…… これをこうすれば……」
私の頭の中で、バラバラになったピースが一つずつはまっていく。
偶然にも、私は海外ドラマにはまっていた時期があり、プ〇ズンブレイクは全てのシーズンを見ていた。
主人公のマイケルになった感じがして、楽しい。
(私のIQは大したことないけどね)
しばらく考えた後、私の頭の中に、おおざっぱな脱獄プランが出来上がった。
「ふう、とりあえず、やってみましょうかしら」
私は、再度ウサギを呼び出し、時計に触れて仮想空間へとダイブした。
現在、兄さんが収容されている刑務所の前にいる。
時刻は昼間だ。
通常なら、ゲートを通過するのにちゃんとした理由がなければならないのだが、この日は刑務所の文化祭、という設定にした。
なので、悠遊とゲートを通過することができる。
鼻歌を歌いながら、これ見よがしに警備員の横を通過する。
(フッフーン♪)
「ちょっと待て」
「……!?」
警備員がこちらにやって来たかと思うと、足を揃え、敬礼した。
「楽しんで、行ってらっしゃい!」
(び、びっくりさせんじゃねえよ!)
中に入ると、周りの屋台などは無視して、すぐに刑務所ツアーの列に加わる。
「では、中を案内していきまーす」
旗を振るガイドの後に続き、私たちは監獄の中へと入っていった。