捜索
「あ、あの……」
帰りがけ、今度はキッカワさんに声をかけられた。
「何ですか?」
「実は…… 刑事さんにまだ言ってないことがありまして、聞いてもらえます?」
キッカワさんは、探偵である私に、近頃の職場の様子を説明してくれた。
「アイカワさんは少し癖のある方で、同期のドモンさんとはうまくいっていたんですが、磯山先生とはうまく行っていませんでした。 いつもドモンさんがアイカワさんをコントロールしていたんですが、たまに席を外すと、磯山先生の悪口を聞こえるようにしゃべるんです。 例えば、単行本の酷評レビューを読み上げたり……」
……えええ。
アイカワさんって、そんな人だったんだ。
それで、磯山先生はどう思ってたのかしら?
「磯山先生は、アイカワさんに対して何か不満を持っていたりとかは?」
「部屋が別々で、磯山先生がアイカワさんのことをどう思っていたかは分かりませんが、あんな風に言われて、何も思わない人はいない気がします」
……!
磯山先生には、アイカワさんを殺す動機があるかも知れないってこと?
「……すいません。 私が疑われていたみたいなので」
だから、告白したのか。
それに、このままキッカワさんが疑われるのは良くない。
……調べてみようかしら。
私は駅から引き返し、頭の隅で引っかかっていたことを確認することにした。
磯山先生の住むマンションの、丁度向かいの神社にやって来た。
ここには、幹が太くて、背の高い御神木が生えている。
マンションからは道路を挟んで、100メーターほど離れているから、部屋のベランダから飛び移るのは不可能。
それでも、何らかの方法でこの木に飛び移ることができれば、磯山先生は部屋を抜け出すことができたことになり、アリバイは崩れる。
私は、枝にくまなく視線を走らせた。
「……あった!」
一つの枝から、ひもが垂れ下がっている。
予想通りだ。
ロープのようなひもで、枝に巻き付いており、その先にはペットボトルがついている。
(……間違いない。 磯山先生は夜、ここを抜け出した)
アリバイが崩れれば、後はアイカワさんを殺した手口。
現場に証拠がなくても、私ならポワロを使って調べることができる。
(アイカワさんの住んでいたアパートに向かいましょう!)
アイカワさんのアパートでは、警察が取り調べの最中だった為、入ることはできなかった。
「関係者以外、立ち入り禁止だよ!」
「あ、私、探偵なんですけど」
「……ダメなものはダメだっ!」
(何よ、もう……)
けち臭い警察に少し腹を立てたけど、その付近に残っていた匂いから、磯山先生がここに来ていたことが分かった。
「……先生の所に行きましょう」




