アリバイ
後日、警察の事情聴取があり、私もそれに付き添うことになった。
時刻は昼。
刑事と、アシスタント2名、編集、作者の磯山さんが作業場のマンションに集まった。
「被害者のアイカワさん(32)は、自室で首を絞められ殺されていました。 死亡推定時刻は深夜0時。 その時、何をしていたのか教えて下さい」
刑事が一人ずつ話を聞いて回る。
まず始めに、作者の磯山さんが自分のアリバイを語った。
「ずっとネーム書いてました。 翌日の6時が締め切りだったので、外に出ている暇も無かったです。 ガクトさんに聞いたら分かりますよ」
話を振られ、編集者と思しき男性が応じた。
「その日は原稿が仕上がるまで別室にいました。 間違いありません」
磯山さんとガクトさんのアリバイは取れている。
となると、怪しいのはアシスタントの2人かしら?
刑事が2人に話を聞くと、アシスタントのドモンさんが説明した。
「その日は3人で、一緒にここを出ました。 終電の少し前で、家に着いたのが0時頃だったと思います。 アパートの人とすれ違ったんで、確認してもらえれば」
刑事はメモを取りながら話を聞き、今度はもう一人のアシスタントの方に向き直った。
「キッカワさん、あなたは何をしていました?」
「駅で他の2人と別れて…… 0時には家にいました」
「それを証明する方は?」
「……いません。 で、でも、私にはアイカワさんを殺害する動機はありません!」
キッカワさん(22)は女性のアシスタントで、漫画家を目指して間もない新人らしい。
まだ職場に入って半年とのことだ。
「アイカワさんから嫌がらせを受けていた、何てことは?」
「ありません!」
他の人の証言と照らし合わせても、パワハラの類を見掛けたことはない、とのことだ。
「……分かりました。 ご協力、ありがとうございます」
こうして、一旦取り調べは終わった。
私は、玄関で帰り支度をしながら、事件のことを考えていた。
(う~ん…… あの時の殺気は、結局殺されたアイカワさんのものだったのかしら? それとも、やっぱり他の3人?)
容疑者は、アシスタントのキッカワさん。
編集者のガクトさん、作者の磯山さん、それ以外の第三者、だ。
ドモンさんという線もあるけど、アリバイもあるし、ポワロが殺気を感じ取った時、その部屋にはいなかった。
アリバイという点で、疑わしいのはキッカワさんになる。
「……あれ?」
その時、私は違和感を覚えた。
玄関に、ある物が立て掛けてあったからだ。
(……空気入れ?)
「あ、ドモンさん、ちょっといいですか?」
帰りがけ、ドモンさんに質問してみた。
「あの、磯山さんって自転車乗ってるんですか?」
「自転車? ここは駅から近いし、持って無かったと思うけど」
……!
もしかして……




