容疑者
殺気で満ちてるって、マズいんじゃ……
これからこの中で殺人が起こる可能性がある。
どうやって止めればいいか、と考えていると、不意に声をかけられた。
「あの~、ヤ〇トさんですか?」
「……!」
この声は、さっきエントランスで通話した男の人だ。
……丁度いいわ。
「あの、お聞きしたいことがあるんですが……」
私は、この人に事情を話すことにした。
廊下だと邪魔になるので、あまり人通りのない階段に移動する。
「何ですか?」
「これから、磯山先生の仕事場で、殺人が行われる可能性があります」
これで納得してくれるかしら?
「……何でそんなこと分かるんです?」
ですよね~。
……どうしよう。
親戚に未来を透視できる占い師がいるとか?
こちらが返答に窮していると、相手は腕を組んで、あー、でもちょっと待てよ、と呟いた。
「どこでそんな情報を手に入れたのかは分かりませんけど、あり得ないことじゃないですね」
男の人は、話を始めた。
磯山先生には、自分を含めてアシスタントが3人いるらしいが、その内の一人はいつまでたっても芽の出ないベテランだそうだ。
そのベテランアシスタントが、3人だけで飲みに行った際、不満を爆発させたらしい。
「あんな小学生レベルの絵で、ふざけんじゃねぇ! って、キレてたんですよ。 だから、あいつには、少し注意した方がいいかも知れないです」
なるほど。
動機もあるし、さっきのは、そのアシスタントが発していた殺気、という線が濃厚みたいね。
「……それなら、殺人が起きないようにマークしといて貰えませんか?」
「……分かりました。 えーと、警察の方ですか?」
さて、何と説明しよう。
未来探偵・リトル?
「……未来探偵です」
「……」
とりあえず連絡先を交換し、経過を待つことにした。
あれから一週間が経過し、事件のことも頭の片隅に追いやられていた頃、突然、スマホから着信が入った。
丁度、人気ラーメン店の列に並んでいる最中だった。
「リトルさん、大変なことになりました!」
連絡をくれたのは、協力者のアシスタントのドモンさんだ。
「この前話してた、ベテランのアシスタント、あいつ、遺体で発見されたんです!」
……ええっ!?




