潜入
私は今、都内某所にある、進〇の巨人の作者の住むと言われる高層マンションに来ている。
ファンサイトの情報によれば、作者の殺人予告が相次いだ為、出版社の意向により、ここに越してきた、とのことだ。
「……ご主人、その格好、何ですか?」
私がマンションを見上げていると、突然ポワロが現れて、質問してきた。
「えっ、分からない?」
緑の作業着に、つば付き帽子。
手には段ボールを抱えている。
「どっからどう見ても、ヤ〇ト運輸の人でしょ!」
「……」
ポワロは何か言いたげな顔をこちらによこしてきた。
……犬に訝しがられる位だと、人間相手にはキツいかしら?
エントランスに入り、ポワロの鼻を使って、インターホンのボタンに付着している作者の匂いを嗅ぎとり、そこから部屋番号を割り出す。
「908号室、と」
ボタンを押し、しばらく待っていると、相手が応答した。
「はい」
「あ、磯山様のご自宅でしょうか? 荷物のお届けに参りました」
こんな自動ドア無視して、ポワロに調査させたらいいだろ、と思うかもしれないけど、私から100メートル以上離れることが出来ない為、少なくとも、作者のいるフロアには向かわなければならない。
ところが……
「分かりました。 一旦荷物の内容を改めにそちらに向かいますので」
……えっ!
こっち来るの!?
「かなり、警戒してるみたいですね」
……そうか。
作者の殺人予告があったくらいだから、荷物も簡単には通過できないんだ。
これから降りてくるのは、アシスタントとか、そういう人かも。
「やばい……」
中にさえ入れればいいと思っていた私は、荷物の中味なんて用意していない。
どうしようか、と考えていると、背後から別な住民がやって来た。
「ちょっと、いっすか」
すいません、と私を横に追いやると、ポケットからキーを取り出し、インターホンに付いている鍵穴に差して、ドアを開けた。
(ラッキー!)
私も急いで中に入り、エレベーターで9階に向かう。
降りる際、入って来た男の人に一瞥されたが、帽子を深めにかぶって視線を切った。
多分、アシスタントだ。
「じゃあ、ポワロ。 私はここで待ってるから、中に入って調査お願い」
「ワン! 分かりました!」
ポワロが扉に向かって走り出した。
が、なぜか中に入ろうとしない。
「……どうしたの?」
「グルルル……」
ポワロが扉の前で低くうなり声を上げている。
「ど、どうしたのよ!」
「フーッ、フーッ…… は、入れません」
……なんで?
「この部屋、殺気で満ちています」




