脱獄 後編
「この時を待っていた。 我が主、黒髪刃を殺した貴様が出てくるのを!」
目の前のバクは、姿形を変えて私の前に立ちはだかった。
背丈は天井に付きそうなほど高く、2本の足で立っている。
加えて、殴られたら致命傷を負いそうなほどに太い腕。
「紫苑!」
兄さんは後ろで何か叫んでいるが、内容まで聞こえてこない。
私は、足がすくんで動けなくなった。
「お前に、用はないっ!」
バクのやつ、キャラ変わっちゃってるし……
気性、荒すぎでしょ。
って、そんなこと考えてる場合じゃ……
「ウッ……」
私は、思いっきりバクの太腕で殴られた。
そのまま壁に激突する。
ああ、最後の最後で何やってるのかしら……
意識が朦朧とする中で、私は声を出した。
「……に、げて」
声になったかも自分では分からない。
頭から流れる血で、視界が赤く染まっていく。
でも、確かに、その姿だけは見えた。
「……」
兄さんが、バクの前に立っている。
そして、その背中ごしからでも分かった。
(兄さん…… めっちゃキレてる……)
「おい、てめえ…… 死にてえのか?」
「死ぬのは貴様だと言っているっ!」
……生身で勝てるわけない!
バクは私から100メートル以上離れることはできないし、階段の入り口に入れるか微妙な大きさだ。
走れば逃げ切れる。
それを伝えないといけない。
兄さんは頭に血、登っちゃってるし……
その時だった。
私のポケットから、指輪がまるで自分の意思を持ったかのように、転がり出した。
コロコロとそれは転がって、兄さんの足元で止まった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
バクが拳を振り上げる。
兄さんが床の指輪に気付き、拾い上げてはめた。
ドオオオオオン、という衝撃音。
振り下ろされた拳で、床がえぐれる。
「にい…… さんっ!」
「……!?」
立ち込めた土煙が揺れ動いたかと思うと、突然、刃が閃いた。
兄さんは、寸前で攻撃をかわし、アームズモードでポワロの刀を手に持っていた。
「燕返し!」
下から上に向かっての斬撃。
バクの左腕を切断した。
そこから、飛び上がり、繋げるように上から下への斬撃を食らわす。
「甲羅割り!」
バクはどうにか反応して、ガードしようと右腕を構えたが、それも骨ごと断つ。
「ギャアアアアアアッ」
振り下ろされた刃は、そのままとどめの動きへと移る。
流れるように左右に振られ、相手の胴体を切断した。
「流し斬り!」
相手が倒されたのを見届け、私の意識は途切れた。
技名がちょいダサいですね(笑)




