プロローグ
「ここが兄さんの使ってた事務所ね」
私の名前は若草紫苑。
年は18で、兄さんの後を追って、大阪から東京にやって来た。
私の家は代々「霊獣殺し」を生業にしているんだけど、兄さんが家出したせいで私が後を継ぐことになってしまった。
私は、あんな陰気臭い商売嫌だったし、兄さんが面白そうなことやってるのを知ってたから、逃げるようにこっちにやって来たんだ。
でも、部屋に入って早速厄介事に巻き込まれた。
事務所の机の上に、兄さんのスマホが置かれていて、何件か留守電が入っていた。
その中に、大家からのこんなセリフが入っていた。
「リトルさん、いい加減にしてくださいよ! 今月家賃払ってくれないんなら、保証人の妹さんに連絡しますからね!」
ビックリしたことに、兄さんは家賃を100万も滞納していたのだ。
しかも、保証人がいつの間にか私になっていた。
「リトルって兄さんのことかしら? しかも、勝手に保証人になってるし……」
私は、はあ、とため息をついた。
お金の件、どうしよ。
本家に連絡して、100万借りてもいいけど……
いや、やっぱり家出してきた手前、頼みにくい。
更に、他にもこんな着信が入っていた。
「リトルさん、先日お世話になった校長です。 逮捕されてしまったようで、ご愁傷様と言ったらいいのでしょうか? 釈放されましたら、私のところに来てください。 指輪を預かっておりますので」
この校長と兄さんにどんな繋がりがあったのかは分からないが、指輪というのは霊獣の指輪のことだろう。
私は、先にこの校長の所に向かうことにした。
電話で住所を聞き、四獣学園なる高校にやって来た。
正面の玄関から入り、階段を上って、2階にある校長室にやって来た。
ノックして中に入る。
「失礼しまーす」
校長は机の上でトランプタワーを作っていた。
「あのお」
「わあっ!?」
ビックリした校長の肘にトランプがぶつかり、瞬く間にタワーは崩壊した。
ギロッ、と射るようなまなざしが私に注がれる。
「……何だね、君は」
「連絡した、若草紫苑です。 リトルの妹です」
すると校長は、あわわっ、という声を上げ、慌てて椅子から立ち上がり頭を下げて来た。
「もも、申訳ありませんっ! そこにあるソファにお掛けになってください」
急変した態度を見て、兄さん、この人の弱みでも握っていのかしら? と私は思った。
「指輪、返してもらっていいですか?」
「ゆ、指輪ですかっ!?」
引き出しをガチャガチャ開けて、校長は指輪を探し始めた。
……用意しときなさいよ。
「これです!」
校長の手のひらには、指輪は2つ、乗せられていた。