4章 その3
「よし。人に会いに行くだけだから危険な事はないと思うし行こう。」
晴人からの思いがけない提案だったが、深春に断る理由はなかった。思い出の絵本がまた見られるなら。晴人達は、出版関係の人物に会いに行くためにカフェ兼事務所を出た。
時間的には昼だが、例によってこの店は、あまり客は来ない。話すだけならこの喫茶店でも良かったかも、と晴人は密かに思ったが、こちらの都合に合わせる訳にはいかない。プロの探偵として、それは妥協してはいけない泣きの部分だった。
「いい天気だな…」
「そうですね。暖かくて気持ちがいいです。」
深春が、目を細めて馨に同意した。この日は日差しが暖かく気持ちが良かった。もしかしたら、絵本の持ち主とも会えるかも知れないという気持ちもあって、深春のテンションは知らぬ間に上がっていた。
「煙草がうめーな。」
「えっ、ちょっ。」
深春のすぐ側で馨が煙草を吸い始めた。先程の暖かくて清々しい感じの空気が一転して煙たくなった。深春はオーバー気味に手で仰ぐ。
「二階堂さん…吸うなら吸うって言って下さいよ。」
「ははっ、悪かったよ。」
馨は、まるで悪びれる様子もなく、感情もこもっていない謝罪をした。一方で晴人と友里は馨から離れて歩いており、被害を免れていた。
そして、馨は、間髪を入れずまた煙草を取り出し、火を付け始めた。
「煙草うめーな。」
「嘘でしょ!」
馨の喫煙スピードが早すぎて深春は、若干引き気味だった。早死にするなこの人…とか縁起でもないことをつい思ってしまう。深春が、そんなようなことを、ぼんやり思っていると、馨は三本目の煙草を取り出した。