プロローグ
高校まではいわゆる普通のオタクであった。勉強して、本を読んで、ゲームをして……友達や恋人こそいなかったがそこそこ満足した暮らしを送っていた。教室ではぼっちだが高校ともなるとイジメに遭うこともなく、平穏に過ごせた。そんな普通の人間だったのだが、大学受験に失敗して、俺の人生は一転した。
予備校に通うようになったのだが、現役時とは違う浪人生活に自分を律することができず、怠惰の極みな生活を送った。次第に予備校には通わなくなり、家でごろごろしているだけ。晴れて無職の仲間入りであった。今では浪人生活とはポーズ、実際にはニート生活を送っている。
夕方に起きて、朝方に寝る。やることといったら漫然とネットを眺めることのみである。
放蕩の限りを尽くし、現在進行形で人生を棒に振り続けている。郷田基徳、18歳にして早くもお先真っ暗人間である。ふと我に返った時などは自殺すら真剣に検討したほどである。
そんな俺が『異世界に行く方法』を見たのはいつものネットサーフィンをしていた時のことだった。いつも通りお日様が沈んで布団から這い出た俺は、特に目的もなくパソコンの画面をカチカチクリックしていたのだが、そこで出会ってしまったのだ。『異世界に行く方法』に。
やり方は簡単で、小さな紙に六芒星を描き中に赤い文字で『飽きた』と記す。その紙を握って眠り、次の日に紙がなくなっていると成功らしい。そういう界隈では割と有名な呪術で、けっこうな人間が試している。そうして皆、失敗しているらしい。
どうせ詰んだ人生だ。この怠惰な生活習慣からはもう抜け出すことはできない。失敗して元々、本当に「俺が受験に受かった平行世界」だとか「剣と魔法のファンタジー」へ行くなどあるわけがない。
そんな厭世観と隣合わせの捨て鉢な心を持って、俺は『異世界に行く方法』を実践した。まさか成功してしまうとは、思いもよらずに。