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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
八章 変法自強
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最古のダンジョンマスター

 ラフラインはグラキエス教国の北にある国だ。

 大きさでいえばノーマリーより少し大きい。しかし、人口はそう多くない。

 国土の大部分が丘陵(きゅうりょう)であり、北部に向かうにつれて森が広がっていく。ちなみに、丘陵(きゅうりょう)とは、なだらかな起伏や小山(丘)が続く地形のことだ。

 生活の殆どが自然の恵みで賄うことが出来て、強力な魔物も少ないらしい。

 種族毎に居住区を分けてはいるものの、結構密集して生活している。ソレを纏めて国にしたのがジャンナ殿と言うわけだ。


 以上が、ラフラインについての情報。

 もちろん、彼女にも幾つかの質問が飛んでいく。


 森ではどんなものが取れるのか。

 戦争が起こったとして、どれだけの兵を動かせるのか。

 現在居る種族の数と特徴。


 まぁ、こんな感じで順調に進んでいたのだが、ルーチェの質問が俺を動揺させた。


 「ラフラインの北部には創世記から存在するダンジョンがありますよね?それはどうなっていますか?」


 目に見えて驚いていたのだろう俺に、周囲から視線が向けられるが、そんな事はどうでもいい。

 北部にダンジョンがある。それは、俺が探していたダンジョンマスターの家系でないか?そんな風に思った。

 ダンジョンマスターになった当初、アブラムから聞いた、DMOに所属していないダンジョンマスター。DMOも手を出すのを(しぶ)ったというダンジョン。

創世記から存在するというのなら、その力は強大な筈。神と何らかの関わりもあるかもしれない。まずはブリッツが買ってきてくれた『創世記』を読まなくてはいけないが。


 「今は、というか、ここ何10年とダンジョンが元になって起こった事件は無い。それどころか、ダンジョンの魔物が森の強力な魔物を間引いているのが現状だ。・・・ハッキリとは言えないが、当分の間は危険は少ないと思う」


 ダンジョンマスターが野生動物を殺す理由を、同じダンジョンマスターである俺は知っている。

それは、MPの回収。

 守護者をダンジョンの外に出してまでMPを集める理由までは俺には測りきれない。ただ、獣人たちを襲わないのは、意図的に襲うのを避けていると見るべきか?・・・何が目的か全く分からないぞ。

 MPを集めると出来ること・・・。守護者創造、支配域創造、魔法。瞬時に考えついたのはこの3つだけ。俺が知らない機能がダンジョンに備わっているのか?


 「エバノ様、・・・エバノ様!聞いていますか?」

 「え、・・・あぁ、すいません。少し考え事をしていました」


 考えている間にルーチェから話しかけられていたみたいだ。

 その内容は、たった今俺が考えていた事だった。


 「ダンジョンマスターとしては、この動きをどう見ますか?」

 「そうですね・・・。まずは、敵対の意思はないと見ていいかもしれません。・・・長くなっても?」


 全員が頷いたのを見て、俺の考えを吐き出す。


 「ダンジョンマスターが生き物を殺すのには理由があります。その理由とは、殺した生物に応じたMPが自分のMPに追加されるということです。そして、溜まったMPを用いて生物を創造し、ダンジョンを護らせる。 こうした流れを繰り返す事でダンジョンは成長していきます」

 「そんな仕組みが・・・」


 誰かの呟きを無視して、ユックリと自分の考えを紡いで口に出していく。


 「ラフラインの住人を襲わないのは、単に得られるMPの多い少ないとは関係無いと思います。MPが欲しいだけなら、周辺の生物を一掃すれば簡単に手に入りますから、そのダンジョンマスターは獣人とは敵対したくない。もしくは、そこまでしてまでMPが欲しい訳では無い。という事になる筈です」


 ここまで言い終えて一息つくと、ジャンナ殿から質問があった。


 「ならば、こちらから手を出さない限りは襲われないと?」

 「恐らくは。今後がどうなるかは分かりませんが」


 俺の一言に、彼女の顔に安堵が浮かぶ。

 取り敢えずの憂いは無くなったのだから当たりまえか。


 その後は、ラフライン北部のダンジョンが襲ってきた場合の対処法。トハン帝国に対する動き方について地図を用いて協議してお開きとなった。

 時刻は午後の5時。4時間程話していた計算になる。体力的にも精神的にも疲れたが、その分得られるモノは多く、今後の指針も見えてきた。


 時系列順に並べていこう。

 まずは、街を色々と創り直し、経済の流れを作る。

 その途中でノーマリーから経済アドバイザーが派遣される予定になっている。

 アルト殿の御息女がウチに来るのが、1ヶ月半後。

 その半月後には『果てしない渓谷』に道を作る事業が動き出す。


 2ヶ月先の計画までしかないものの、その時になれば何かしらは次の指針があるだろ。

 問題の種は幾つも抱え込んでいるのだ、暇になるはずが無い。


 部屋に戻るとアルト殿から手紙が届き、続いてギフトからも手紙が届いた。

 アルト殿からの手紙には、差し当って必要になってくる事業と、それの維持管理の仕方が書かれていた。

 ギフトからは、俺の手紙に対する返信だ。


 幸い、住人達は貨幣知識を持ってくれていた。住人達によって作られた野菜を俺が買取り、それを住人が買えば貨幣は広がるだろうとのこと。

 シュヴァルツヴァルトの特産品としては、野菜の他に、ポーションを作ってはどうかという提案が出たらしい。ポーションと言えば、ヴェーデを治療した時以外には見かけなかったが、『四階層』で栽培していたものがストックとして大量にあるようだ。

 シュヴァルツヴァルトに現在足りないモノとして意見が出たのが、医療機関、宿泊施設の2つ。自由に動けて『回復魔法』が使える守護者が少ないのと、以前のように大勢の人が来た時に泊まる場所が無いと困るという理由からだ。後は、馬車が行き来できるように道幅を広くするぐらいかな。


 今の俺のMPは54,147。守護者を創るにしても、領域を広げるにしても十分なほどにMPの貯蔵がある。ルーンフェンサーに変換すると、530体だ。

 大勢の人間が来るのなら、砦の防御力を強化した方がいいだろう。住宅街や農地にも見張りを置かなければいけないだろうし、『大聖堂』の守護者達だけでは手が足りのは分かっている。それを考えると、簡単に守護者を創造しようとは思えなくなってくる。


 結局は、ダンジョンに戻ってからだな、と思考を停止させ、疲れを少しでも抜こうと楽な姿勢をとるのだった。


 □


 夕食が終わると、『三階層』にある転移陣と対になる方陣を部屋に作成し、ハヤブサを帰還させてフクロウとブルーダ、デクレアを呼び出す。

 ブリッツを観察していたという人物を調査するためだ。空の目としてフクロウ、戦闘になった場合にブルーダ、尋問用にデクレアという感じだ。

 ブルーダは実戦を経験していない。外見は結構好きなんだけどな・・・。黒いミイラみたいで。いかんせん、戦闘する機会が少ない。


 「ハヤブサから教えられた場所に向かってくれ。必要であれば、城外での戦闘を許可する」


 そう言うと、素早く移動できないデクレアを懐に入れてブルーダが部屋から出ていった。フクロウはそんなブルーダの背後を飛んで追いかける。


 ギフトにはアルト殿の手紙と、ソレを実行しといて欲しいという内容の手紙を渡しておく。

 アルト殿にもお礼の手紙を出さないとな。


 明日は魔法使い同士の親善試合と、今日に引き続いて同盟の内容についての話しがある。

 今日の様子を振り返ってみれば、話しの主導権はルーチェとアルト殿にあったように思う。

 ワイアット殿が俺の『果てしない渓谷』越えの話しを出したのも、俺や周囲に威圧的な姿勢を見せて主導権を握ろうとしたのではないだろうか。

 その企みはルーチェとアルト殿のフォローによって潰れたが、ワイアット殿もすぐに引いたので、そこまで主導権を握りたいとは思っていなかったんじゃないか。


 明日の話し合いで議題に挙がるおそれがあるのは何だろうか。

 まず、トゥイ殿が護衛として連れて来た人魚の話しが出るだろう。人魚の保護をダンジョンで出来るなら楽なんだがな・・・。まぁ、そんなこと言い出せる空気では無くなったから断られるだろうが。

 今日の会議ではシュヴァルツヴァルトとラフライン、新しく参加する両国の問題の確認。そしてその対処をしたから、明日はもう少しスムーズに進むだろう。


 『創世記』でも読んで寝るかな。凄い分厚いから読み終わるのにどれくらい掛かるか分からないけどな。

 世界創造か・・・。ダンジョンマスターも創造系の技能を持っているのだから疑似的な物ならできるかもしれない。もし創るとしたら新しい階層を用意して、俺以外は入れないようにし、条件を何通りも試して、幾つも概念を生み出して、それでようやく出来るかどうか。ダンジョンの処理能力に限界があったり、拒まれたりしたら失敗に終わるけどな。

 なんにせよ、俺だけでは絶対に無理だ。

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