毒と熊と監視塔
本日は二話同時投稿しております。
この話は二話目です。お気お付け下さい。
侵入者は二人。
革鎧に身を包み、脚は厚手のブーツに覆われている。
腰にはポーチと長剣、短剣。クマみたいなガタイの男性。
もう一人は、ローブを身に纏い、何かを手元の用紙に書いている女性。
コッチは戦闘要員では無いのかな?
このダンジョンは出入口からずっと通路が伸びている。
この通路は俺達が居るのとは違う場所の大広間に通じている。両脇には中広間へと繋がっている扉があり、中広間からは小部屋へと繋がっている。
問題の侵入者二人だが、かなり慎重に進んでいるようで最終の大広間にすら到達していない。通路が長いのもあるが、それでも遅すぎる。
中広間を確認していた様だが直ぐに閉じてしまった。深入りはしないようだ。
ギフトを連れて侵入者が入るであろう部屋に待ち伏せをする。
作戦としてはこうだ。
血だらけの服を利用して、俺が怪我人を装う。
二人が部屋に入ってきた所を、ギフトが背後からサックリと刺すわけだ。
話が通じるのであれば話してみるのもいいだろう。
要するに、行き当たりばったりである。
では、先回りをして待機だ。
□
キィィィィ・・・
・・・男の侵入者が入ってきた。
俺は部屋の扉を背にして寝転がっているので直接見る事は出来ない。なので、侵入者現在地の『地図情報』から確認している。
「おい!大丈夫か!」
声を掛けられるが、男は俺に近づいてくることは無い。警戒しているのか。
「俺は冒険者ギルド所属、クラン『グラート』のアルトゥーロだ。返答が不可能であれば何か合図を出してくれ」
なるほど。男の方の名はアルトゥーロと言うらしい。
コチラに動きが無いと見るや剣を腰から外し、ゆっくりと近づいてくる。
後ろに控えている女もアルトゥーロに続いて近づいて来ているので作戦の第一段階は成功といえる。
これもダンジョンマスターになった恩恵なのかは知らないが、守護者の位置は何となくわかるのでギフトが動き出しているのは確認済みだ。
上手くいってくれよ。
・・・タン、タン、タン。・・・男と俺の距離は5m。
一旦、男の歩みが止まる。潮時か。
(ギフト、頼むぞ)
(かしこまりました)
(ッ!)
思考で会話出来る事に驚きだ。ダンジョンマスターの能力について検証しておく必要があるな。
(人質を取って話はするつもりだ。無理だったら撤退しろよ。階層の地図は分かるか?)
(マスターが指示を出してくれるのでしょう?)
文字だけ見ると不遜にも感じられるがギフトの言葉の内には信頼を感じられた。
「寝てるのか、気絶してるのか。ったく無事で何よりだが」
「この辺りに村は無いはずですが」
(不味い)
(いきます)
余計なことを言ってくれたな。
オレは今は動けないのでギフトに頑張って貰うしかない。
「動けば殺します」
「ッ!」
「すみません、アルトゥーロ様」
(マスター。起きてください)
作戦は成功だ。
ギフトは音も無く女の背後を取った。
その隙に立ち上がって男との距離を取る。
剣を引き抜いてギフトと対面している男は更に驚いた表情をしている。
「何者だ貴様ら。俺達は冒険者ギルドの人間だ。俺達に何かあればお前らもタダではすまないぞ」
「残念ながら最初に仕掛けてきたのは貴様らだ」
「何を言っている!?」
俺達が何者か分かっていないのか?
ダンジョン側の敵対勢力なので情報を持ってると思ったんだが。
「それはコチラの台詞だな。取り敢えず、武装は放棄してもらおうか」
ギフトは軽く剣を首筋に押し当てる。一筋の流れる血を見て男は持っていた剣と短剣とを床に置いた。
(マスター。女性の武装の解除もお願いします)
(わかった)
男を回り込むようにしてギフトの側へと寄る。
「済まないが装備を外させてもらうぞ。動けば殺すからな」
なるべく不用意な接触はしないように心掛けながら武器を外していく。
ローブで隠れて見えなかったが、女も武器を持っていたのか。ギフトに感謝だな。
「お前らの望みは何だ」
コチラの様子を見て男が我慢出来なくなったのか口を開いた。
「悪いがコイツは開放出来ないぞ。まぁ、敵対したいわけでは無いんだ」
「人質を取っていてよくも抜け抜けと!」
「攻めてきたのはお前達だと言ったはずだ。悪いのはお前達で間違いないだろう?」
「ココはダンジョンだぞ!そんな事は重要じゃない」
ダメだコイツ。考える頭が戦闘に回ってるようだ。
「お前は分からないのか?」
脳筋は置いておいて、話を女の方に振る。
何かメモを取っていた所を見るに、頭は良いと思うのだがどうだろう。
「期待にお応えできるとは思いません」
「そうか」
そんなにダンジョンに関する情報が無いのか?
二人とも分からないとなると俺の方が悪いのかも知れないな。
「俺はこのダンジョンのマスターをしている。ダンジョンマスターと言えば分かるか?」
「ダンジョンのマスター、ですか?」
「そうだ。ダンジョンを創り、守護者、お前らからしたらモンスターを創り、従える。それがダンジョンマスターだ」
俺が言い終わると男の方は何かを納得した表情をしていた。
「でだ。俺は無理に戦闘をしたい訳じゃない。ダンジョンを護っていれば良いからな」
「そんなダンジョンマスターとやらが何故こんな所に居る。俺が知っているダンジョンはノコノコとダンジョンの主は出てこないぞ」
「ココは俺のダンジョンだ。他所は関係ない」
俺以外のダンジョン。やはり存在するのか。
だが男の反応はどうなんだ?ダンジョンマスターについて知っているような発言をしたが、俺がソレだと気が付かなかった。最終階層にいるようなモンスターをダンジョンマスターだと勘違いしているのか?
確か冒険者ギルドだったか。なんにせよ情報を得るには味方に付けておく方がいいか。
「遠回りしてしまったが、俺の要望を聞いてもらおう。まず、冒険者ギルドに今あったことを持ち帰り、話が出来る者を連れてこい。別に今日明日でなくとも構わない。そして、冒険者ギルドと協定を結びたいと伝えてくれ。内容についてはまた会った時に話そう」
「その通り実行すれば良いのか?」
「少なくとも今回は見逃す。協定について話し合う場を設けられた時に女は開放しよう。依存は?」
「場を設けられなかった場合。彼女はどうなる」
「殺しはしない」
男は最後に「分かった」と言った。
俺とギフトは女を連れて出口とは逆方向の部屋の扉に近づいていく。
「帰り道は分かるな?それでは頼んだぞ」
男が頷いたのを確認して部屋を後にした。
『地図情報』で見ても不審な動きをすることなく出口へと向かっているので大丈夫だろう。
(マスター。どうしますか)
(そうだな・・・目隠しをして連れ回すか)
場所を覚えられては困る為、目隠しをして適当に歩き出す。
三十分程経っただろうか。そろそろ『謁見の間』に戻るとしよう。
□
玉座に座り一息つく。
ギフトは肩膝をついて俺の様子を伺っている。その隣に連れてきた女が居るのだが、首筋の血が気になった。
傷薬的な物はあるのかと探してみれば『下級ポーション』というのを見つけた。
効果は、簡単な切り傷などに使えるとのことだったので問題ないだろう。
『タオル』と『水』とを追加で購入。
「染みると思うが我慢しろよ。ポーションだ」
一声掛けて傷口を水で洗う。
その後はポーションを傷口に掛けて、垂れてきたものをタオルで拭いてやる。
使い方が分からないがこんな物だろう。
(羨ましい・・・)
何か聞こえた気がするが気にしない。
マナフライ達から魔力を回収し、次の動きを考える。
風呂を創る。食事を創る。守護者を創る。
大体、この三つか。
風呂は小さいのならギリギリ可能。食事は物によるが、三人分だとニ回しか創れない。守護者はMP的にギリギリ。
結局、食事にした。
ダンジョンマスターになってから何も食べてないので空腹がヤバイ。
何を創ろうか。
勝利祈願と言う事でカツ丼を三人分。
捕虜も居るし丁度良いだろう。気分は情報を求める警察官で。
何処で食べようか。床で食べるわけにも行かないし、捕虜に舐められると困る。
そう言えば女の名前を聞いてなかったな。
「名前は?」
「ヴェデッテです」
ヴェデッテか。言い難いな。
「何か略称は無いのか?済まないが言い難い」
「ヴェーデと呼ばれています」
「じゃあヴェーデと呼ばしてもらう」
それでは、『謁見の間』を拡張を始めようかな。
『謁見の間』の大扉から通路を伸ばして、『謁見の間』から出て右側に部屋を創る。
2km四方の正方形で消費MPが100だったので、MP消費はそこまで多くない筈だ。
一応完成。MP消費は部屋で1、部屋全体の装飾で1。合計で2だ。
テーブルの方がMP消費が多いんですがそれは。
テーブルと椅子は高級感がある物を購入したから、MPが無くなりかけで気絶しそうだ。
フラフラして危ないので、立つ時にギフトに支えてもらった。
(ヴェーデの目隠しを外してくれ)
(かしこまりました)
「・・・ここは?」
「そうだな。俺は『謁見の間』と呼ばせて貰っているが何とでも呼んでくれ。これから食堂に向かう。付いてきてくれ」
大人しく従ってくれるので楽で良いな。
食堂に着いた。俺が席に座ってからヴェーデとギフトに席を進める。
「食堂なのですよね・・・。料理が無いようですが・・・」
まぁ、そう思うわな。
配布された技能でカツ丼を創造すると、テーブルの上にカツ丼が三つ現れた。
蓋をかぶった丼の器に割り箸が添えられている。
「これは・・・」
「カツ丼だな。俺の国の食べ物だ」
(ギフトは箸使えるのか?)
(もちろんです)
「じゃあ食べようか。いただきます」
「いた、だきます?」
「いただきます」
俺とギフトは普通に食べれているが、ヴェーデは見様見真似で食べにくそうだ。
そういえば守護者は食事が必要ない筈なんだが?まぁ、いいか。食事は人数が多い方がいいだろう。
「スプーンを用意しようか?」
「すみません。お願いします」
(マスター。それ以上魔力を使うと倒れてしまいます)
(捕虜とはいえ客を無下には出来ない)
意識を離さないように唇を噛み締めてスプーンをヴェーデに手渡す。
やはり、いきなり現れたのに驚いていたが、理解する事を諦めたようだ。