始めてのお使い
時間で言えば10時頃。1つの試合が数分で終わるのもあって、午前の日程は早めに終わった。
「皆様、本日の催しは如何でしたでしょうか!各国の健闘を見て、私の興奮は未だ収まりません!」
実況者への返答は、広場中に響く歓声だった。
観客達にも満足してもらえたみたいで良かったよ。
「明日行われます、魔法使い同士の親善試合でも皆様のご期待に応えてくれる事でしょう!本日はありがとうございました!!」
盛大な拍手と共に騎士達が主の所へ帰っていく。
ブリッツは何人かの騎士に話しかけられていたがどうかしたのか。ブリッツも快く応えているので悪い事ではないようだが。
「ご苦労。いい試合だった」
「ありがとうございます」
「彼等は何の様だったんだ?」
「今度お手合わせを、との事でした。次の機会ならばと答えたのですけど、大丈夫でしょうか」
「いいんじゃないか?繋がりが増えるし」
どうやら対戦のお誘いのようだ。ブリッツの試合を見ていた騎士も居たんだな。
俺としても知り合いが増えるのはやぶさかじゃない。
今回の試合の勝率としては7割ぐらいだろうか。ブリッツ、ユェーが全勝、ルーンが2勝3敗、残りの守護者はそれぞれ1敗ずつしている。
まぁ、申し分のない戦果だ。
試合も終わったので部屋に返される。ここから昼食までは自由時間となる。
レイ達は街に行くみたいだな。俺は今朝考えていた案を纏めてギフトに送らなければならないからお留守番だ。
「ブリッツ、本を買ってきてくれないか?内容はお前に任せる」
「分かりました」
「宝石を幾つか渡すから、それでも売ってくれ」
足元を領域にして幾つかの宝石を創り出す。ルビーとかサファイアのありきたりなものだが、この星でも高値で売れるだろう。
この時代の本は高価だろうから足りるか不安だな。10個ぐらい渡しておくか。
んじゃ、手紙を書いていくか。
まずなんだっけ・・・、そうだ、住民がお金の使い方が分かるかどうかの調査をしなければいけない。
次は、シュヴァルツヴァルトで何を中心に売るか。野菜とあと1つぐらいは欲しい。
現段階の話しで決まっている事も報告しておかないとな。今決まっているのはグラキエス、ノーマリー、シュヴァルツヴァルトとで『果てしない渓谷』に道を造る計画か。
『果てしない渓谷』に道を造るのなら地図があった方がいいな。領域内だしコレは俺の方で創っておこう。
あとは、シュヴァルツヴァルトに足りないものを守護者で考えてもらって、それを纏めておいて貰おう。
手紙をダンジョンに居るギフトに送った。こういう時、直ぐに届くのは楽でいいな。
守護者も送れたりしないものか。地下から地下へは移動が可能なのは分かっている。
今回は地下から地上への移動だ。守護者が居る地下から、俺の足元にある領域へと飛ばす。
帝国が似たような実験をしていて成功させていたし、俺にも出来るはずだ。
「『三階層』、大広間に転移陣を設置。転移先は使用者が決める。陣のオン、オフはダンジョンマスターか、それに準ずる者のみ操作出来る。転移する際には使用者のMPを消費する」
こんなものか?ゲームの仕様だとこんな感じだと思うが。
試しにハヤブサに来てもらおう。街を偵察してもらいたいしな。
少しすると、目の前にハヤブサが現れた。右腕を出せば、翼をはためかせながら止まり、頭を俺に擦り付けてくる。指で軽く頭を撫でやり、メラニーに声を掛けた。
「広場に行く。付いてこい」
「畏まりました」
右腕に止まっていたハヤブサが俺の頭上に止まりなおしたのを見て、メラニーが笑を深めた。彼女は何時も笑ってるが、今の表情は本物っぽいな。
扉を開ければ、待ってましたとばかりにあの下女が姿を見せた。
今回は新入りと思われる少女を連れているので、何か用事があるのかもしれない。
「・・・」
「・・・」
互いに視線があい、沈黙が訪れる。
新入りの少女は、1回俺の頭に視線を向けてハヤブサの存在に気付き、ゆっくりと視線を下げて顔を赤くしてプルプルとし始めた。
「エバノ様、おはようございます。親善試合おつかされ様でした」
「ええ、気遣いありがとうございます」
「何処かお出かけで御座いましょうか。不肖、私めがご案内させて頂きますが」
下女の手が新入りの腰に回ったかと思えば、少女の顔が少し強ばった。
何事も無く話し始めたが、あれ後ろで絶対抓っただろ。下女の世界って怖い。
「広場までですので案内は要りませんよ」
「そうでございましたか。では、この子を連れて行って下さいませんか?」
「ええ、構いませんよ」
彼女自身がそうやって地位を上げたのだから後輩も、と思うのはよく分かる。
しかし、残念ながら俺には新入りが昇進出来るとは思えない。まぁ、俺がどうこうして地位が上がるはずもないので了承させてもらった。
通路を歩いていると、ハヤブサが可笑しいのか好奇の目で見られる事があった。流石に下女エリートともなってくるとノーリアクションなので、それはそれで寂しい気もする。
何事も無く広場に着いた。
さっきまで親善試合の会場として使われていたため、後片付けや明日の準備で多くの人数が動いていた。
ハヤブサを右腕に止まらせ、腕を振るようにしてハヤブサを飛ばす。
取り敢えずの偵察目標は、治安の確認、警備の数くらいだろう。ブリッツでは確認出来ない空からの調査だ。
さて、部屋に戻るかな。
□
ブリッツside
主から宝石を預かり、道行く人に宝石商人の居場所を聞いて辿り着いたものの、幾つか問題が発生しています。
「だから、大金貨100枚までしか出せませんと言っているではありませんか」
お預かりした宝石は10個。そのどれもが片手では1つしか持てないような大きさのもの。加工までされているのですから大金貨100枚では到底足りません。
銅貨1枚 18円 ×4枚↓
銀貨1枚 74円 ×12枚↓
金貨1枚 888円 ×20枚↓
大金貨1枚 17,760円
日本円に変換すると、だいぶ安くなりますね。
私が持ち込んだ宝石1つのおおよその値段は、大金貨で112枚程。ぼったくるにも程があります。
「すいませんが、別の店で売ることにします」
「ちよ、ちょっと待ってください!!まだお話しは」
後ろが煩いですが、気にせず街の中を進む。
今の私の姿は親善試合の後なのもあって鎧姿です。そんなにカモには見えないと思うのですが。
街を歩いていると、大きな杖を持った若い男を見かけた。
何の変哲もない男だったのですけど、私の目を引いたのは、大きな杖の先に取り付けられた宝石でした。
格好からして魔法使いである事は確実。杖を造った工房を尋ねられれば宝石も売れるはず。
「突然申し訳ありません。少しお話しをよろしいでしょうか」
「え?・・・あぁ、はい。構いませんよ」
男性はどうして話しかけられたのか分かっていない様だ。
騎士の格好をした人物が急に話しかけてくれば誰でもそうなるでしょう。
「その杖の製作者を紹介して頂けませんでしょうか」
「そういう事でしたか。今から向かうのでよろしければ御一緒にどうです?」
「それは助かります。よろしくお願い致します」
スムーズに会話は進み、杖の製作者の所まで案内して貰えることとなりました。
会話していると、彼の知性を感じる事が出来る。話し方も丁寧であるし、姿勢も良い。
貴族出身者である可能性が高いですね。
そうして着いたのは、煙突の付いた1件の建物。肌色の建物が多い中、ココだけは薄い灰色の壁をしていた。
店先に置かれた看板には、『灼熱の丘』と書かれている。
「ここは教国の騎士団で第1部隊の隊長を任されている人物の御両親が経営しているんです」
「ブランドン殿のご両親が・・・。それは期待出来そうです」
店に入ると、暖かい風のお出迎え。その後に、優しそうなご婦人の挨拶が聞こえてきました。
店内を素早く見渡せば、武器の1つ、1つに、大中小と3つ用意してあり、簡単なオーダーメイドなら請け負うと書かれている。
一目で分かりやすく、清掃も行き届いている。
男性とご婦人は知り合いらしく、すぐに私のことを説明して貰いました。
「彼はどうもこの杖に興味があるみたいで、紹介して欲しいと言われて連れてきたんだよ」
「それは助かるよ。お客は多い方がいいからね。で、何の用でここまで?」
私は腰から袋を外して、カウンターの上に置き、事情を話した。
ここなら適正価格で宝石を買ってくれるのでは、と。
「確かに大金貨100枚は無いね。ココまでの大きさで加工してるんだから、もっと高いのはすぐに分かるはずだよ」
「ここまでの大きさの宝石は始めて見ました。それもこんな数・・・」
男性は宝石の大きさに驚いている様で、食い入るように宝石を見ていた。
ご婦人は宝石を手に取って光に透かしたりと忙しそうです。
「値段はどのくらいになるでしょうか」
「そうだね・・・。1つ、120枚。大金貨でね。それでどう?」
「ええ、大丈夫です」
悪くない条件です。私は二つ返事で了承し、買取りの際に書くことになる書類の空白を埋めていきます。
これで主も満足してくれるでしょえ。
「今は大金貨をそんな数を持っていないから後で届けさせてもらってもいいかな?」
「明後日の午前まで城に居ますので、そちらに届けて貰えれば。エバノ様宛と言ってもらえれば大丈夫だと思いますので」
「なんだい、あんた、お偉い騎士様かい!?」
男性とご婦人が揃って驚いた。
こんな数の宝石を出せるのは国ぐらいだと思うのですが、どうでしょうか。
取り敢えず宝石2個分の大金貨を受け取り、礼を言った後に店を後しました。