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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
六章 隔岸観火
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雨のち雨

 アサルトに乗ってギフトをずぶ濡れにした翌日。俺達は昨日と同じメンバーでアサルトの背に乗って空に居た。

 場所で言うと、『果てしない渓谷』の西端だ。左手にはノーマリー王国が見える。右手にも国があるはずなのだが、生憎俺は知らないので省かせてもらう。そして、目の前には帝国領。

 ここまでは『果てしない渓谷』を領域に取り込みつつ進んで来たのだが、この方法で帝国の空域にも侵入出来そうだ。

 俺の方で雨が準備できそうなので、連れて来た三人には申し訳ない。


 「俺が雨を降らすからお前たちは警戒を頼む」

 「・・・ん、任せて」

 「そーらーは広いーなー、大きいーいなー」

 「アクル、お前は緊張感を持て」


 リェースは随分と気合が入っているみたいだ。

 アクルは下手くそな歌を歌いつつも警戒を怠っていないのが余計に腹を立たせる。

 ガブリエナからの返事が返ってこないが、持ち前の翼を使ってアサルトの死角を補っている。彼女も頑張ってくれているのだ。


 「そろそろか・・・」


 領域の端が一際大きな街を捉えた。恐らくはあそこが首都だろう。

 楽しい空の旅もそろそろ終わりだ。


 まずは雲を創造。不自然にならないように少しずつ、丁寧に、空における雲の割合を拡げていく。

 その次は、雨よ降れと念じる。傍から見て馬鹿丸出しなのは承知している。だが、詳しく知らないのに、アレやコレやと手を尽くすよりはダンジョンに全部丸投げしてしまう方早いし、楽だ。もちろん俺だって大まかな雨が降る原理ぐらいは分かっている。


 俺が念じ始めてしばらく経つと、ポツポツと雨が降り始めた。俺たちは雲の上に居るので『映像情報』からの確認になるが、上手く行ったようだ。後は、少しずつ雨の勢いを強めていけば任務完了だ。


 帝都は現状維持で放置しておいて、次の場所へと向かう。そんなに距離は開いていないのでアサルトにかかれば数十秒で到着する。

 そうしてやってきた場所は、帝国領の中にある川の上流。Uターンしてしまう形になるが、『果てしない渓谷』にある川の一つに来ていた。先ほどと同じ様に雨を発生さると、周囲に人間が居ないのをいいことに勢いを増していく。

 リェース、アクル、ガブリエナも無理のない範囲で魔法を使い、集中豪雨に負けず劣らずと言った装いを見せている。


 「領域内の事はダンジョンに任せて撤収するぞ」

 「・・・ん」

 「りょ~か~い」

 「(かしこまりました)」


 三者三様の返事を受け、シュヴァルツヴァルトに帰還する。

 取り敢えず無事に戻ってくることが出来た。帝国の殆んどは領域に収めたので、今後の天気は遠隔で操ることが出来る。お陰でMPはスッカラカンだ。しばらくは大人しくするしかないが、休暇だと思えばいいだろう。


 □


 一方、トハン帝国。城内にて。


 「何が起こっている。こうも連日雨が降るなど今までには無かったはずだ」

 「も、申し訳ありません!我々の予報が外れてしまい、皇帝陛下の計画が台無しに・・・」

 「構わん。天気は移ろうものだ。ソレを当てろと言うのだから難しいのは理解している」

 「寛大なご配慮、感謝いたします」


 ルッツの眼前には、両膝、両手を床に付けた、中年男性が居た。頭を下げているせいで中途半端に禿げている頭部を晒しているにも関わらず、熱心に頭部を床に擦り付けている。

 中年男性の正体は、城抱えの気象学者だ。普段はその名の通り、天候に関する研究をしているが、今回皇帝から下った命令は「戦争期間中の天気の予報」であった。雨であれば道を迂回し、隙あれば雨音に紛れて奇襲をかける。天気によって作戦は変わるものであり、事前に天候を把握できればアドバンテージにもなる。

 重大な使命を帯びた気象学者は過去のデータを引っ張り出して任務を遂行しようと全力を尽くした。そのおかげで頭部に磨きがかかってしまったが、それは些細な問題であった。今現在、彼の脳内を占めるのは、勅命を無事に達成できなかったという罪悪感。

 しかし、ルッツも天気を読むのが難しい事ぐらい分かっている。外れた所で元より怒る気は無かったのである。


 「しかしどう思う。過去の記録にはこの季節に長期的な雨は無いはずだ。何者かによる魔法だとは考えられないか」

 「いえ・・・雨は帝国領の殆んどで降り続いています。この規模の魔法を維持するには帝国の魔法使い総出で方陣を描いて、全ての民からMPを持って来ても足りるかどうか」

 「そうか・・・私の考えすぎならいいのだがな・・・」


 そんな、ルッツ達のやり取りを眺める影が二つ。

 帝国領に振り続く雨の元凶。そう、エバノ・シュヴァルツヴァルトである。

 そしてもう一つの影は、レイ・ルーラー。エバノの妻であり、シュヴァルツヴァルトにおける『六階層』、『七階層』を守護するダンジョンマスターである。

 二人が居る場所は『四階層』の『謁見の間』。玉座に腰かけるエバノの上にレイが乗り、帝国の様子を窺っていた。


 「一週間の内、雨の日は今日で六日目。そろそろ潮時か」

 「そうですね。地面はぬかるんで碌な行軍は出来ないでしょうし」


 間に晴れの日を一日入れたが、そんなものは関係ないとばかりに帝国領を襲う雨。

 既に川が決壊している場所もあり、戦果は上場であった。


 雨を降らしている一週間もの間、エバノは何をしていたのか。

 その答えは、レイとイチャイチャしていた。 である。

 レイと身体を重ねたは良いものの、神からの話し、ルーチェの来訪、アバビムのダンジョン攻略、と忙しく、まともに話しをする機会が無かったので、これ幸いと互いの事を語り合ったのだ。

 二人で市街地に繰り出しては街の外観について討論し、農地では泥まみれになりながらも畑仕事を楽しむ。傍から見れば立派なバカップルそのもの。

 エバノも正式に結婚しようとは思うものの、周辺国では戦争ムードなのでどうしたものかと考えていた。結婚指輪も既に準備してあるので、戦争が終われば自分から切り出すだろう。


 イチャイチャ以外にエバノが仕事したことを幾つか述べていこう。

 まず一つ目に、ギフトの義足が創られた。ジャンル[陸]、造形『不定形』の条件で創られたスライムに『相互成長』、『以心伝心』を付け、彼女の義足としたのだ。『以心伝心』の効果は、言葉や文字を借りずに互いの心と心で通じ合う事であり、ギフトの思考をノータイムで反映させるのに必須の技能であった。

 次は、南の森の整備だ。北の森から南の森へ隠し通路を創り、敵に対する奇襲や住民の避難を行えるようにした。これ等を南の森のランダムな地点に四つ設置し、場所を特定されないように工夫も凝らしてある。

 三つめは馬鹿な王子の件でノーマリー王国から使者が来た事だ。シュヴァルツヴァルトの南にある港街に王子が中々現れないのを不審に思った領主が行軍ルートを調べたところ、途中で進路をシュヴァルツヴァルトに変えていたのが確認された為、急いで謝罪の使者を遣わした。エバノも兵糧を渡さなかった事もあり、特に強く言う事も無く、今後も仲良くしていきましょう、という事になった。大多数の兵を引き連れての行軍の場合、どうしてもスピードが遅くなってしまうのは当たり前だ。この星では、行軍の最中で、兵糧を立ち寄った街や村から回収するのが一般的なのだが、二つに分けた部隊が同じルートを通れば二度目に立ち寄った部隊は碌な兵糧を確保できず餓死してしまう事がある。それを防ぐという点では王子は評価されるが、シュヴァルツヴァルトに借りをつくってしまった、と国王の頭を悩ませた。

そして、最後。エバノがシュタールに頼んでおいた、日緋色金の武器が完成した。刀身の長さが1m、持ち手の長さが25cmの両刃剣で、放熱性を高める目的で刀身には幾つかの穴が空いている。日緋色金は金剛石を凌ぐ硬さを持っており、永久不変で絶対に錆びることは無い。朱色の刀身の表面は揺らいで見え、妖刀と言われても何ら不自然は感じないだろう。問題は鞘だ。革や木製では、日緋色金が持つ熱にやられてしまい長期に渡っての使用は困難となる。そこでエバノは『火魔法』により、刀身の熱を奪ってから鞘に収めることとにしたのだ。だが、鞘自体に耐熱メッキを施してはいても、定期的な鞘の交換が必要となるのだった。


畔木 鴎side


帝国領に降り続く雨により、橋の決壊、土砂崩れが起こった事で帝国は戦争の動きを止めた。

その報せを聴いたのは、砦に置いていた予備戦力を率いてノーマリー王国の王都に戻ろうとしていた王国軍から話しを聞いたときだ。

帝都は俺の領域となっているので、帝国の動きなどはいち早く知る事が出来る。戦争中止の報せも、皇帝の肉音声で聞いた。

帝国領で作物が全滅していて、やり過ぎかと思っていたのだが、戦争が起こらなくて何よりだ。

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