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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
六章 隔岸観火
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帝国と協力者

アサルトは西洋の竜の様な姿をしている。分かりやすく言えば、マスタードラゴンの角が無くなった感じだろうか。画像検索を掛けるのがが1番早い。

前から思っていたのだが、自身の背後に向かって伸びる角の使い方ってなんだろう。突き刺しにくいし、重いしで邪魔なだけだと思うんだけどな。


「現実逃避はここまでにしてだな・・・高い」


そう。今、俺は雲の上に居る。

アサルトの飛行訓練、及び、雨を降らすための予行演習を行っているのだ。

搭乗者はリェース、アクル、ガブリエナの3人。アクルはレイの龍に乗ったときに騒いでいた気がするが、今回はアサルトが『風魔法』で防護膜を張っているのでアクルも大丈夫だろう。


「『雨模様(レイニー・パターン)』」


この魔法の使用者はリェース。

幾つもの小さな水の球が雲の上に発生し、少しの対空の後に地上へと落下して行った。


(どうだ)

(駄目です。小さい水球がさらに拡散して霧よりも弱くなってます)


うーん。初めてだしそう上手く行かないか。

次は玉を大きくしてみよう。


「リェース、水の塊を落としてみてくれ」

「ん・・・、『大瀑布(グレート・フォール)』」


青空に横一線の切れ目が生まれたかと思えば、ソコを起点として白い布が幾筋も垂れたように水の群れが落ちて行く。

チラリとリェースの方を見ると、フラフラしていたので背中を支えてやる。流石にMP消費が激しいか。断続的に発動させられれば雨として機能しそうなんだけどな・・・。


(地上はどうなってる)

(・・・農地の方はルーンフェンサーが頑張って雨を晴らしてましたけど、避難が間に合わなかったので私はずぶ濡れです)

(あー、すまんな)

(いえ、お構いなく)

(風呂でも行ってこい)


地上にいたギフトはずぶ濡れになった様だ。脚が無いので避難が遅れたのだろう。『人宮一体』で逃げなかったのか?

いい加減義足を創ってあげるべきだろうか。


「一旦降りるぞ。休憩にしよう」


アサルトが喉を震わせて了解の意を告げると、翼をはためかせて地上へと降りていく。

地上は、リェースの魔法の影響か水浸しになっていた。まぁ、ダンジョンに一声掛けるとそれらも消えてしまうので問題はないが。


「水捌けがいい所の話しじゃないよな」



風呂に浸かりながら考えてみる。

今回の予行演習だが、俺が領域を広げて雨を降らした方が早い気がする。そっちの方がMP消費も少ないし、守護者に負担を掛けずに済む。

今度は雲の上からでも領域を増やせれるか検証しよう。


その後はどうしようか。正直、戦争が終わるまで暇だ。


当初の目標だったDMOは見る影もなくなり、アバビムも倒した事で身近な危険は無くなった。

能力を強化してもらってから神とも会っていないし、然るべき時の為に力を溜める時期だとは分かっているものの、少し味気なく感じる事もある。


「ノーマリーの王都にでも観光しに行くかなぁ」


異星の建造物とやらを見てみたい。

情報収集はもちろん行うが、DMOの手掛かりは見つからないだろう。どうにも無駄足になりそうな気がしてならない。


なんにしても帝国に嫌がらせをしてからだな。



トハン帝国


本来、皇帝が居るはずの寝室。

トハン帝国皇帝、ルッツ・アーダルベルト・イーゴン・トハン。ソコでその人は片膝を付いていた。


「アバビムが死んだ・・・?」

「どうかされましたか」

「なんでもない」


声の主にルッツが話し掛けるも、返ってくる返事は素っ気ないものだった。

何かを誤魔化す為か、声の主は続けて話す。


「戦争は中止。後始末は任せる」

「わかりました」


ルッツが了承の返事をすると共に部屋内の気配が一つ消えた。ソレを確認すると彼は立ち上がり、愚痴をこぼす。


「戦争を何だと思ってるんだ・・・。そう簡単に兵を動かせるわけがないだろうに」


ルッツ・アーダルベルト・イーゴン・トハン。その人は、ある人物と協力関係を築いていた。

協力関係と銘打ってはいるが、先程の会話から分かるように、実際は帝国側が尻に敷かれているのが現状だ。

今回の出兵も相手側からの要請で兵を動かしているにも関わらず、あの対応。

内心腹を立てながらも、それを態度に出すことなく自室を出る。


「お話しはどうでございましたか」

「想い人が死んだから兵を引けとさ」

「・・・では、そのように将校達に」

「いや、待て。アレを使えば最低限元は取れるだろう。試運転も兼ねて出させておけ」

「ハッ。かしこまりました」


背後を付いて歩く騎士からの質問。本来ならば一介の兵士である彼に重要な話しを聞かせてやる義理は無いのだが、ルッツは丁寧にも答えた。

ルッツが自室で何者かと話しているのは、城内で知らぬ者がいない程に知れ渡っている。それならば誤魔化す必要もないだろうとの判断だ。

そして、彼が言うアレとは、その協力者によりもたらされた技術によって呼び出された異星人の兵の事だった。

協力者により帝国魔術師の質が上がり、複雑な方陣を用いてではあるが、『空間魔法』の大規模発動に成功した。特殊な方陣を組み込むことで異星人の心を縛り、人形同然となった彼等を操る。術者が傍に居なければ安定しない、ひ弱な魔法ではあるが、強力な異星人を操る事でその欠点を補っていた。


「実験の様子はどうだ」

「肉体と魂を一緒に呼び出すのと、器をコチラで用意して魂だけ呼び出すのとでは召喚者の技能に違いがあるようです。私は魔法は詳しくありませんのでよく分かりませんが、確かそのような事を言っていました」

「そうか。まぁ、私も魔法に詳しい訳では無いからな。任せておくのが一番だろう」


実験の進行状況を確認するために足を運ぶ必要があるな。

歩きながら素早く考えを纏めると、魔法研究をしている施設へと足を向けた。


「私は工房に向かう。お前は将校どもに話しをつけておけ」

「かしこまりました」


施設と言っても、城内にあるのだが、魔法役やら何やらの独特な臭いと気配から、分けて考える人物が多い。施設には二階の隠し部屋からしか立ち入ることは出来ず、まさに秘匿された空間となっている。


隠し部屋の中に入れば、古い本特有の臭いが鼻腔をくすぐる。ルッツは両脇の本棚を目にもくれず、部屋を直進し、壁に手を添える。幻術で創られた壁が霧となって四散し、眼下に見えるのはランタンに照らされた一階へと続く石造りの階段。

小気味いい音を立てながら階下へと向かって行けば、次第に大きくなる、何かの悲鳴。何の実験をしているのかはルッツ自身にも分からないが、悪趣味な実験だというのは想像に容易い。

ランタンの明かりの最奥。オレンジに照らされた重厚な鋼鉄の扉の奥で行われているであろう行為について、知りたくないと思いながらも取っ手に手を伸ばし、ユックリと開けていく。


「あああああああああ!!!?助けて―――――――!!!!」

「ッ!」


扉を開けると同時に目に飛び込んできたのは、麻の服を着た少年の姿。黒という珍しい髪の色をしているが、その姿はルッツの知る人間のそれと変わりなかった。

人間は身体中に線が引かれ、線からは血が噴き出している。扉を開けたルッツに助けを求めたのか、彼に近づこうと走り寄るが、手足を拘束する鎖によって地面へと縫いとめられる。


「皇帝陛下ではないですか。こんな所に何用ですかな?」


開幕からとんでもない物を見せられて呆然とするルッツに声が掛かった。

視線を横に向ければ、この実験のほとんどを任せている魔法使いが居た。よく見ると彼は冷や汗をかいており、まずいモノを見られたという気持ちが手に取る様に分かる。


「どういうことだ。アレはどう見ても人間ではないか。私は当初見た異星の知的生命体が人型じゃなかったから賛成したのだぞ」

「先日、協力者の方から新しい座標を教えていただいたので召喚してみた所、あのような者が出てきて私自身驚いているのです」


怒りを抱きつつも、表情を変えずに話しを進めるルッツ。

彼は実験当初に召喚されたのが竜や異形の姿を取っていたので実験を承認したのだ。トハン帝国は人族至上主義が主流であり、獣人は奴隷として虐げられている。だからこそ異形を従えることには意味がある。

しかし、今目の前に居る召喚者は人の姿をしているではないか。いくら異星の民だと言っても、国民から見ればそんな違いなど分かりはしない。

人の目に触れる前に処分しなければ。そう思い担当者に声を掛けるが、帰って来たのは良くない返事だった。


「我々もそう思い、座標の封印。及び召喚者を楽に殺してやろうと色々と手を尽くしたのですが・・・」

「なんだ。ハッキリ言ってみろ」

「死なないのです。不思議に思って眼持ちを呼んで鑑定をしてみれば特殊技能の持ち主でして、その技能がまた厄介なんです」


少年が持っていた技能は『長生不死』。効果は、長生きして死なない。

たった一つの効果。されど、その一つが帝国魔法使いを悩ませていた。

毒を飲ませれば、地面をのたうち回れど死にはせず。首を撥ねても、断面から自然治癒してしまう始末。出血多量で殺そうにも気絶と覚醒を繰り返す。ルッツが出くわしたのは正にその場面だった。


「少年は手厚く保護するんだ。死なない以上匿うしかないだろう」

「かしこまりました」


その後はココに来た本来の目的を果たし、気絶した少年を横目に自室へと戻った。

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