翼持つ者達よ
本日は四話同時更新です。
アバビムは閃光の中に消えた。魔法が通り過ぎた道は帯電しているのか バチ、バチバチッ と音を立てている。
「旦那様!やりましたっ!」
『雷滅の剣』を放った張本人であるレイは笑顔で俺に手を振り、駆け寄って来た。
あの魔法は確かに強力だった。その前の守護者の連携も見事だ。だが、それだけでアバビムが倒せるなら苦労しない。
「レイ!後ろだ!」
俺の考えは正しく、アバビムはレイの攻撃を嘲笑うかのように何事も無く現れた。
彼の白槍がレイへと伸びるのを見て、文字通り飛んでいくが、俺では間に合わない。
ガッ―—
「おっと、惜しかったのにな」
槍は根本を蛇に噛まれる事で勢いを落とした。
その隙にクローフィとアクルが魔法を唱え、アバビムは槍を離して後退した。
槍を止めた蛇。その正体はキメラだ。
頭に青龍、胴に白虎。朱雀の翼に、尻尾には玄武の蛇。
玄武成分が若干少ないが、四神のパーツで創られた、レイの最強の守護者。
「大丈夫か?」
「はい・・・。まさか避けられるとは、思いませんでしたが」
レイの傍に降りたち、アバビムを睨む。
恐らくはダンジョンと一体化して避けたのたのだろう。キメラが咥えていた槍も、いつの間にかアバビムの手元へと帰っている。
「避けたって事は危なかったんじゃないか?」
「全くだよ。今のは、危なかったな・・・フッ!!」
小さく息を吐き再度突貫する彼に、今度は俺も突っ込んでいく。
槍の突きを左に数度旋回する事で回避。俺からするとアバビムが右下に居る状態だ。
翼を羽ばたかせ、高度を活かしての突進。フランメは双剣からランスを姿を変え、心臓を狙う。
回避は間に合わないと見たのか、白槍にある螺旋の部分でのガード。それでも堪えきれない分が彼の足元に現れる。陥没した地面に足を沈め、口からは歯ぎしりの音が鳴る。
「『神の裁き』!」
「チッ!」
コレはフェーデの魔法だ。
アバビムの直上に光が集まり、滝のように勢いよく降り注ぐ。
槍をランスと平行にし、素早く穂先を外して石突を俺に突き出して魔法を回避。
彼はフランメとディアの二重装甲で受けたにも関わらず、大きく吹き飛ばされた俺に向かって追撃を仕掛けるが、そうは問屋が卸さない。
リアスが1本の剣を持ってアバビムの進行を邪魔したのだ。リアスの身体が黄金に輝き始めると、彼は腰から新しく2本の剣を引き抜いてアバビムへと迫る。
スペクルムを抱えたルーチェから回復を受けながら戦闘を観察する。
リアスの武器は、特殊な能力を持つ。ゲーム武器の力を持ったそれらは姿こそ違えど、大まかな能力は分かる。
黄金に輝いているのは『刹那主義』という能力。効果は攻撃速度、素早さの大幅等の大幅な上昇。反面、効果が切れると動けなくなるので注意が必要だ。
「30秒もすれば動けなくなるから回復を頼むぞ」
「分かりました」
息もつかせぬ程の剣戟の嵐。だが、アバビムはソレを避けようとはしない。服に線が増えているように見えるが血は出ていない様だ。
もう少しで『刹那主義』が終わる。そんな時にリアスが必殺技の名を叫ぶ。
「『久遠の重撃』」
リピードリーを手元に出現させ、不意をついての攻撃。当たれば終わりなき衝撃に襲われる。 そう、当たれば。
「ハハハッ、避けられちった」
霧となって消えたアバビムにリアスが愚痴を零す。『刹那主義』が切れたことにより崩れ落ちたリアスに、姿を現したアバビムが槍を向ける。
そこにブリッツの居合が割り込み、よろついたアバビムにシールドアーマーがタックルを決める。無様に地面を転がった彼は、瞬く間にシールドアーマーとルーンフェンサーに包囲された。
「アクルちょっといいか」
「どーしたの?」
アーマー達が時間を稼いでいる間に、アクルに魔法の依頼を頼む。
頼んだ魔法は束縛の魔法。どうにもアバビムは強力な攻撃だけを避けている様な気がするのだ。
レイの『雷滅の剣』
リアスの『久遠の重撃』
その前段階の攻撃はわざと受けていたのに、この二つは技能を使って避けた。
俺やフェーデの攻撃も避けていることから、格の低い攻撃は避ける必要は無いと言う事ではないだろうか。
(主よ、これ以上は損失が出ます)
(よく耐えてくれたな)
ブリッツからの念話に答え、アバビムへと飛ぶ。
上空から俯瞰すると、アーマー系だけでなく、ブリッツ、クローフィ、ガブリエナも参戦している。それだけの守護者が居ながら少しの時間しか稼ぐ事が出来ない。
強敵にも程があるぞ。
「ハァァァァァーーー!」
空から大剣を構えての落下。幾ら防御が厚かろうと、純粋な質量には勝てないだろう。
グワァァン!
槍を地面と平行に持たれ、ガードされるがソレは次の攻撃へと布石。
大剣を離し、槍を掴む。逆上がりの要領で宙を蹴り上げた。
バックステップで避けたアバビムは次の攻撃に備えているが、まだ終わりはしない!
足裏からアイリードが勢い良く飛び出したのだ。彼女は回収用のディアの糸を引き連れながらアバビムの頬に傷を付けた。
ディアを掴み、俺を引き寄せようとするアバビム。その彼の身体がくの字に折れ曲がった。
スナイプアーマーによる遠距離射撃だ。
45体が矢継ぎ早の射撃を行い、アバビムを吹き飛ばす。熟練度がマックスなだけあって、矢が一つとして外れることは無い。
アバビムも何とか姿勢を整え槍で迎撃するが、母数が違う。どうしても当たる矢が出てきてしまうのは仕方のない事だろう。レイのダンジョン奪還戦の時とは矢の種類も替えてあり、今回は銛の様な形をしている。
矢が皮膚を裂き、鮮血が舞う。
「どうしたアバビム!避けなくていいのか!?」
「くそっ!黙ってりゃ調子に乗りやがって!」
その声と共にアバビムは消えた。
今度は何処に居る?
出現場所はスナイプアーマーの背後。回避行動に移る鎧達を蹴散らしていく。守護者が死んだ様な感覚は無いのでルーチェが『身代わり』を使ってくれているのだろう。
アバビムへと向かいながらアクルへと視線を向ける。ココで決める!
回復したリアスが麒麟に乗って俺と並走する。四神のキメラも合流した。
「エバノ!昔やってたアレ、覚えてるか?」
「俺が妨害、お前が特攻だろ!!」
上手く出来るかはさておき、連携攻撃とはいい考えだ。
一緒に居るキメラがどこまで出来るか、御手並み拝見と行こうじゃないか!
「『熱き魂』」
「『鬼神降臨』」
リアスにバフを掛け、先行する。
『鬼神降臨』は1分間の全ステータス口上効果がある。その代わりにダメージを受けるが、それに見合う程の能力を持っている。この能力を使うと、白い鬼神面を被るというゲーム時代のギミックも作動している様だ。
「『砂塵』、『陽炎』」
リアスが、ブツブツと自身の強化を重ねている内に、徹底的に視覚を潰す。キメラも俺の魔法に魔法を重ね、より強力なモノになっている。
ダンジョンマスターは領域内であれば目をつぶってでも歩ける。だが、ソレを戦闘に適応させるには少々難しい。訓練していなければ距離感が分からなくなったり、分かっていても処理が遅くなってしまうからだ。
キメラが突進し、白虎の爪がアバビムを狙う。
槍をキメラの胴体の下に差し込み、背負い投げの要領で投げ飛ばす事で回避したアバビムに、今度は俺が攻撃を仕掛ける。
翼の利点を活かして攻撃に緩急を付けたり、高度を調整して時間を稼ぐ。
チラッ と視線に映ったキメラは腹部から血を流して倒れているので戦闘不能と見ていいだろう。
リアスも準備が出来た様で、麒麟を駆ってコチラに向かってくる。
「『不死鳥の尾羽』」
「『聖痕』」
ルーチェ、フェーデからの魔法の支援。
赤と黄の2色を振り撒きながら飛来する幾数の炎弾。『聖火魔法』へと格が上がったルーチェの魔法を喰らえば、アバビムといえど無傷では済まない。
にも関わらず避けようとしないのは、フェーデの魔法のお陰だろう。掌は何かに押さえ付けらているかの様に青く変色し、尚その色を深めていく。
槍を取り落としてしまう程に空間に縫い付けられたアバビムに、ルーチェの魔法が迫る。
アバビムはダンジョンと同化して避けようとするが、ソレを拒む者が居た。
「『五行封印』」
レイの守護者達である。
サイセイ、ケイワク、チンセイ、タイハク、シンセイの5体による『方陣魔法』。
俺とアクルがやろうとしていた事を先にやられてしまった。
五角形の中心に居るアバビムは『方陣魔法』の影響で同化する事は出来ず、その身にルーチェを魔法を受けた。
自然に土埃が晴れる前に麒麟が『風魔法』で視界を整え、急旋回。放り出される様に飛ぶリアスは、太股から剣を2本引き抜き、回転しながらアバビムの右肩を深く切り裂いた。
俺が魔法で壁を作れば、ソコを足場として更に攻撃を仕掛ける。リピードリーと双剣を器用に持ち替え、リピードリーの効果で攻撃を多段させていく。
鑑定を使い、『五行封印』がMP切れで効果を失いそうになった所でアクルに合図を出す。
「『錆び付いた人形』」
『五行封印』をアクルが引き継いだ。1人の分、MP消費は速い。速攻で仕留めなければ。
俺も戦列に混じる。
アバビムは無理矢理、束縛を引きちぎって槍を拾うとリアスを振り払った。
左手で槍を構え直したアバビムは、俺にも攻撃を加えようとするが、ブリッツがソレを防ぐ。螺旋の部分に刀を突きこんだのだ。
槍の角度を変える事で呆気なく刀は折れてしまうが、今度はクローフィが受け止める。
「ちょこまかとッ!」
「コレで終わりだーーーッ!!」
穂先が二股に別れたフランメの槍をアバビムの喉仏目掛けて突き刺す。
ズチャ――
皮膚を裂き、肉を分ける感覚に顔を顰めながら、槍を天へと掲げる。
脊髄を引き連れて宙へと舞い上がった、アバビムの頭部。
地面を紅く染めながら転がるのを見ながら、彼の心臓に槍を突き立てた。
アバビムとの戦いは終わったのだ。
今年の更新はコレで終わりです。
次回更新は来年の1月5日になります。