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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
五章 力戦奮闘
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五星出東方利我

本日は四話同時更新です。

 二階層行きの扉と同じ様な扉を見つけ、三階層も終わりかと一息付いたとき。俺達を追い越して、扉の前で両手を広げて行く手を阻む少女が居た。

 少女は白いワンピースに、茶色の革のスニーカーを履いていた。


 「危ないですから、下がった方が良いですよ」


 ルーチェが声を掛ける。

 それでも少女はどかない。肩が震えている・・・、恐怖ではなく泣いているのか?


 「お前達が、妹をころしたんだぁ!!」

 「妹?エバノ様、ご存知で?」


 鑑定を使った所で苗字が分からないので、心当たりがある人物の名前を挙げていく。


 「フェイクとラミ。お前の妹がどっちかなんだろう?」

 「ァァっ・・・やっぱりお前が・・・・・・」


 質問に答えてくれなければ分からないのだが。

 フェイクは姉が居ると言っていたし、恐らくは彼女の姉だろう。


 「で、どうするんだ?そこをどいてくれるのか?」

 「・・・ごろじでゃゔぅ」


 小さく、されど喉の奥から絞り出されたその声。

 その声が(アバビム)に通じたのか、瞳から光は抜け落ち、単調な三色へと変わる。フラフラと煙の様に立ち上がった少女は、(アバビム)の尖兵と成り代わっていた。


 「手出しはしないでもらおう」


 背後にそう伝え、フランメに剣になってもらう。今回は腰程までの高さの双剣だ。

 手に力を込めると、双剣から煙が立ちのぼる。


 少女は背中から透き通った虫の羽を生やすと、身を低くして俺へと突進して来た。

 フェイクも持っていた『調和』の技能だろう。実に面倒な技能を付けたものだ。


 真っ直ぐ飛んでくる少女を左に避け、反転して背中を追っていく。その背中目掛け、左脚を踏み出して右の剣で突きを繰り出す。死角からの一撃。不可避かに思われた突きは、少女が身をよじり、コチラを向いた事により回避された。

 着地した少女の脚が ボコボコボコ と不規則に膨らんだかと思えば、剣を突き出したままの右手の方向に飛んだ。少女の脚を確認してみれば、逆関節になっていた。人間ではありえないその構造は、皮膚を思いっきり伸ばし、骨を無理矢理組み替える事で成されていた。


 「ア"ァ"ァーーー!」

 「『石柱「ストーン・ポール」』」


 手首から先をカマキリの鎌に変えての右からの横薙ぎ。

 速度が乗り切る前に防御したにも関わらず、半ばまで切り裂かれた石の柱を見て鎌の攻撃力に警戒しつつ、攻撃のモーションに移る。

 右脚で地面を蹴り、勢いをつけて左回転。少女ら迫り来る二刀を避けようとするが、鎌が『石柱(ストーン・ポール)』に嵌って禄に動けない。

 形状を戻す事でようやく回避行動をとるが、少し遅い。

 二刀は、抵抗もなくすんなりと少女を三枚に下ろした。刃が通った場所は泡立ち、傷口が焼かれて流血すらも許さない。


 ヒュー、ヒュー、ヒュー


 もはや呼吸ではなく、空気が通っているだけの状態。

そんな少女の頭部に剣を突き立て、勝負は終わりを迎えた。



 フェイクの姉との戦闘後、一旦休憩を取る事になった。

 戦闘による傷は無いが、精神はそうもいかない。

 ルーチェとフェーデは気まずそうにして俺に話しかけてこなかったが、その分リアスが話してくれた。話すと言うよりも、聞き手に回ってもらった。と言うのが正しい。


 少女を殺すことが最善だったのか。

 人間として道を踏み外したのではないだろうか。


 不安や後悔を彼は最後まで聞いてくれた。


 「俺だって人を殺した事はある。勿論、エバノみたいに悩みもした。でもな、ソレを仕方の無い事だと思うのだけは辞めてくれ。

 『人間は考える(あし)である』って言う言葉、知ってるだろ?アレはな、強風が吹いたらすぐにしなって曲がってしまうが、風が止めばまた立ち上がるっていう意味だと思うんだよ。

 風を跳ね返す程の強度があったって、何時かは折れてしまうかもしれない。そうなるよりも、曲って、何時か風が止んだ時にまた立ち上がればいい。

 あー、上手く言えなくて悪いが俺からはこんなもんだな。あとは勝手に考えてくれ、なんたって『人間は考える(あし)である』、だからな」


 最後にそう言ってくれたリアス。

 地球に居た時だって彼には助けてもらってばっかだった。

 ・・・偶には良いところも見せないとな。



 休憩が終わり、四階層へと降りた。

 扉に蓋をして周囲を確認すると、四階層はただの草原だった。

 しばらく進んでも景色は一向に変わる気配が無い。

 何も無いことで逆に緊張感は高まり、自然と進行速度は遅くなる。そろそろ休憩を取った方が良いかと考え始めた頃、樹が2本並んで生えているのを見つけた。


 「エバノ様アソコで休憩を取りませんか?」

 「いえ、休憩はこの場でとります。罠の可能性があるので交代で休憩しましょう」


 代わり映えのしない景色から何か変化があった時、心は自然と緩むものだ。俺がココのダンジョンマスターなら確実に罠を仕掛ける。


 いつでも動けるようにしながらの休憩だったが、しないよりはマジだろう。

 『食料創造』で腹を満たしつつ、スペクルムによる回復を受けていく。

 休憩が終わり、身支度も済ました。


 僅かな距離だったものの、2本ならんだ樹の元へとやって来た。不審な点は発見出来ず、罠があると見込んでいた俺は、若干冷ややかな視線を浴びた。


 「休憩はこの場でとります。キリッ」

 「・・・」

 「ルーチェ様おやめ下さい」

 「そうだぜ?主天使の推理は合ってたんだから」


 全くだ。やめて欲しい。

 ルーチェの俺いじりの最中、ソイツは現れたのだ。

 声の主はアバビム。枝に腰掛けてコチラを見下ろしている彼は、笑いながら地に脚を下ろした。


 「この樹はな、『知恵の樹』と『生命の樹』をモチーフにして創ったんだ。実はならないけどな」

 「アバビム・・・」


 樹の幹を撫でながら独りでに話すアバビムにルーチェが強い視線を向けた。


 「座天使はその気のようだし、始めるかな?『失われし楽園』、ダンジョンマスター、アバビム。この命尽きるまで侵入者を殺してみせよう」


 口上を述べたアバビムは、地面から槍を引き抜いた。その槍は何ものよりも白く、穂先と柄の間は二つに分かれ、螺旋を描くように渦巻いている。

 武器はそれだけの筈なのに、感じる威圧感はただものではない。


 「グラキエス教国、教皇にして座天使。ルーチェ・クルイロー。神の名の元に死を与えん」

 「権天使、フェーデ・クレデンテ。権能に従いて貴殿を討たせてもらう」


 これは・・・俺もやらないといけないのか?

 ルーチェがチラチラと視線で合図を出してくるので、仕方なく口上を述べるとしよう。


 「『シュヴァルツヴァルト』、ダンジョンマスターにして主天使。エバノ・シュヴァルツヴァルト。誰の為でもなく俺のために戦おう」


 俺の口上が終わると、アバビムは口を三日月状にして笑いを浮かべた。


 「そうじゃねぇとな。行くぞ!」

 「「「 『神憑り』 」」」


 槍を構えての全身。

 それを迎え撃つ様に俺達、天使の声が重なった。

 俺とフェーデには一対の純白の翼が生える。

 ルーチェは翼こそ生えないものの、人外と呼べる姿をしていた。目の下、頬の少し上には新しい目が開き、背中には燃え盛る車輪を背負っている。


 アバビムは槍を避けた俺達だけを見て、守護者には目もくれない。

 そんなんでいいのか?レイの守護者は俺を攻撃するのも(いと)わないぞ!


 「サイセイ!」

 ガ、ガガガ、ガガ---


 レイの声と共に、樹木の龍が咆哮を放つ。樹が擦れ合うことで生まれるその音は、地面から高速で木々を成長させる。

 アバビムは槍を縦横無尽に振り回して脱出を試みるが、木々の成長スピードの方が速い。あっという間に木々のドームが出来上がった。


 「木生火(もくしょうか)!」


 今度はケイワク。角がガラスの牛だ。

 熱線を出すのではなく、ドームの中に火種を出した様で、一瞬で炎は燃え広がり、炎の玉が出来上がる。


 「火生土(かしょうど)!」


 燃え尽きた木々は灰となり、土に還る。

 巨大な鎌を持つ、土の身体に氷の鎧を着た守護者がその鎌を振るう。すると、土へと還ろうとする灰が集まり、幾筋の拘束具となってアバビムへと絡みつく。


 ここまでやってもアバビムは殆ど無傷。服が所々燃えているぐらいだろうか。

 白槍で拘束具を解こうと刃先を向けた時、レイの声が響く。


 「土生金(どしょうごん)!」


 槍が拘束具を断ち切る事は無く、澄んだ音が鳴るだけだった。

 確かに、タダの灰であれば簡単に抜けられただろう。しかしそれらはレイの声と共に、金属で出来た亀によって金属に変えられていた。

 鈍い光を放つ拘束具へと姿を変えたそれは、薔薇の棘の様なモノを生み出し、有刺鉄線に似た働きをする。


 「金生水(ごんしょうすい)!」


 流体金属の2人が合わさり1人に成ると、金属の表面に水滴が生まれた。水滴はアバビムに吸い寄せられるように滑っていく。


 全身を濡らしたアバビム。

 俺はレイがしようとしていることを何となく察し、周囲に声を掛けた。


 「巻き添え食らうぞ!離れろ!!」

 「『滅雷の剣(カラドコルグ)』!!」


 レイからアバビムへ放たれた、極大の雷の剣。

 全てを抉らんとする、収縮した硬い稲妻は地面に溝を穿ちながら着弾。しかしその勢いは留まることは無く、ダンジョンの壁にぶつかって四散した。

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